見出し画像

「地雷女の自来也さんと別れたい」第1部・第2話|愛夢ラノベP|【#創作大賞2024、#漫画原作部門】

第1部 地雷女の自来也さんと別れたい
第2話 タイムリープ


 ――目覚めると、4月を迎えていた。
 十数分前と全く同じように、寸分違わず桜の花が散る。その花吹雪は、その一片一片が先ほど見た光景と重なる。間違い探しをしても、1箇所も違う箇所なんて存在しない。
 桜の花がバサバサと。
 桜の雨がパラパラと。
 桜の雪がサラサラと。
 青空は桃色の桜吹雪に隠され、赤や青の屋根はピンクに塗られ、灰色の道路は桃みたいに鮮やかだ。
 そんな桜に見守られながら、俺と自来也は高校の入学式に参加する。校門を通ると、桃色の世界で黄色い歓声が響き渡った。

「「「「キャーー! 自来也さんよ」」」」

「皆さん、ごめん遊ばせ」

 まるでビデオテープを巻き戻して再生したように、自来也は高校の先輩や先生に挨拶した。そんな彼女の後ろを、俺はリテイク中の俳優みたいにトボトボ歩く。
 なぜ同じ出来事を繰り返す?
 これは死後の世界なのか?
 はたまた夢の続きなのか?
 そんな事を思っていると、あの罵詈雑言が再び心を貫いた。たぶん1億回くらい聞いても慣れることはない。

「あの後ろの男性はストーカーかしら?」と女学生が問う。

「あれは自来也様の彼氏よ」

「「「「「あの冴えない男性が彼氏!」」」」」

 さっきと同様に、学内で女子高生が悲鳴を上げた時、コスプレをしたロリ少女とスレ違う。梔子色の外はねショートボブに、チェリーストーンみたいな桃色の瞳の少女だ。
 初対面なのに、どこかで逢ったような。
 そう思い、記憶を辿っていると、さっきの別れさせ屋だと気がつく。彼女に相談すれば、あるいは真相が分かるかも。
 これは演技だとか、さっきのバッドエンドが夢だとか、未来予知だとか、そんな話が聞ける可能性が高い。そこで、俺は歴史を変える事にした。
 自来也から離れて、別れさせ屋と話すんだ。

「ちょっとトイレに行ってくる」

「もう入学式よ。我慢しなさい」

「漏れそうなんだ」と股間を押さえる。

「まさか浮気相手と会うつもり?」

「不倫なんてしない。もう我慢ができないんだ」と漏れそうなフリをする。

「はぁーあ、仕方ないわね。5分で戻って」

 自来也から許可を得て、俺は単独行動を認められた。校舎のトイレに向かうフリをして、別れさせ屋を尾行する。そして、自来也の目を盗み、ロリ少女が女子トイレに入る瞬間、俺は彼女の右腕を掴んだ。

「キャッ! あなたは佐藤蓮」

「お前は別れさせ屋だろ」

「なぜ私の正体を……いや、私は別れさせ屋じゃないわ」

「嘘をつけ! 俺と自来也を別れさせようとしているだろ」

「なぜ依頼内容を……いえ、そんな計画はないわ」

「さっき体育館裏で会ったよな? 突然、俺にキスをして、自来也と別れさせようと試みただろ」

「それは今日の作戦……って、なぜ佐藤が私の手法を知っているのよ?」

「ついに認めたな」

「しまった!」と別れさせ屋は口を押さえる。

「やっぱり計画は実在するんだな。という事は、さっきの出来事は正夢に違いない」

「何の話よ?」

「数分前に、俺と君は自来也に殺されたんだ」

「ぐふっ、そんな夢みたいな話は信じられないわ」と別れさせ屋は失笑する。

「本当なんだ。時間が巻き戻っている」

「んな、少年ジャンプの漫画みたいな展開は起きっこないわ」

「だが、俺は君を別れさせ屋と見抜いた。この理由は説明できないだろ」

「たしかに、それは事実ね」

「そこで、頼みがある。俺は自来也と別れたい」

「あら、そうなの」

「だから、別れさせ屋の君と協力したいんだ」

「へー、それは好都合ね。分かったわ、私は最上川モカ。協力するわ」

「モカ、命令には何でも従う。だから、俺と自来也を別れさせてくれ」

「もう5分よ。蓮が遅いから探しに来ちゃった」

 俺がモカの名前を聞き出して、協力関係を築いた時、自来也の声がした。なぜ場所がバレたか不明だが、咄嗟にモカと男子トイレに隠れた。

「モカ、こっちに来い」

「って、ここは男子トイレよ」

 嫌がるモカを連れて、1階の男子トイレに飛び込む。個室は3つだが、そのまま1番奥の洋式トイレに潜む。
 汚い水は悪臭を放つ――これに顔はつけたくないな。
 そういえば、自来也への警戒心と緊張感が解けるまで気が付かなかったが、狭い空間にモカと2人きりだ。息遣いを感じながら、肩を抱き合って息を潜める。

「ちょっと、これはマズい状況よ」とモカの声が震える。

「シー、声を出すな。自来也にバレる」

「どうやら男子トイレに逃げたようね。蓮、どこ?」

 なぜ自来也は俺の居場所が分かるんだ?
 そんな疑問を抱いていると、自来也が手前からトイレの扉を開けては閉める。まさか男子トイレまで調べに来るとは……ギギーバタン、ギギーバタンと2回とも空室が確認された。
 ダダダダダダン、唐突に自来也が扉を叩く。

「あとは、ここだけね。あら、鍵がかかっているわ。蓮、居るのは分かっているわ。出てきて」

「佐藤、場所がバレて……うっうーん」と話すモカの口を塞ぐ。

「お腹が痛いんだ。もう少し待ってくれ」

「もう入学式が始まるわ。それに今の女は誰なんだよぉぉぉぉお!」

 自来也の怒鳴り声とともに、ガンガンと木製の扉が蹴られる。その度に、ドアが歪む。モカの顔も歪む。やがて扉が開くと、自来也の鬼の形相があった。

「蓮、みーつけた!」

「なぜ自来也は場所が分かるんだ?」

「最後だから、教えてあげるわ。蓮のスマホには追跡アプリが入っているのよ」

「何だってーー!」と驚愕の事実を知る。

「ところで、その女は誰?」

「テヘ、どうも! 蓮の彼女で、モカって言います。自来也さん、彼と別れて下さい」

「モカの話は嘘だ。彼女は別れさせ屋で……」

「黙れ、クソ金玉野郎。モカちゃん、ちょっと話があるから、トイレから出て」

「はぁーい、蓮も大丈夫よ。ちゃんと別れさせて……ウギャ!」

 自来也は聞く耳も持たず、モカの髪を鷲掴みにする。そのままモカを引きずると、何度も何度も何度も何度もモカの頭を少便器に打ち付けた。
 除夜の鐘を突くみたいだ。
 モカの血が流れるため、群馬県の嫗仙の滝みたいに、少便器に赤い液体が滴る。

「ちょっと、自来也さん! やめて。痛い」

「テメェ、人の彼氏に手を出してんじゃねーぞ」

「私は別れさせ屋で」

「意味不明な事を言うな。絶対に許さない。殺してやる」

「血が……血が止まらないわ」

「これは私の痛み! これは蓮の痛み! これはアンタの罪!」

「やめ……ウゲッ」

 モカは電池切れのロボットみたいに動かなくなった。おでこが陥没したモカを見て、俺は死期を悟る。そこで、素早くトイレを出た。
 しかし、自来也に左腕を強く握られる。その手は真っ赤に染まっていた。

「どこに行くの?」

「ちょっとトイレ」

「トイレなら、そこにあるわ」と個室に連れ込まれる。

「嫌だあぁぁぁぁあ! 助け……ゴボゴボ」

 そのまま洋式便所に頭を突っ込まれる。生臭い匂いが鼻につき、数日間くらい放置された生温い水を少し飲む。

「ウゲッ……ゴホゴホ」と水を吐く。

「なんで私という彼女がいたのに、浮気なんてしたの?」と自来也は俺を便器に押し込む。

「違う、モカは別れさせ屋で……ブクブクブク」

「他の女の名前を言うんじゃねーよ」

「プハッーー! ごめんなさい、アイツは別れさせ屋で……ゴボゴボ」

「その別れさせ屋って何よ?」と自来也は俺を持ち上げる。

「はぁはぁ……俺も知らないけど、誰かが俺と自来也を別れさせようとしたんだ」

「どうせ蓮の差し金でしょ」

「違う、信じてくれ。俺は何もしていない」

「でも、さっきモカちゃんが別れさせるって言っていたわ」

「そっそれは気のせい……グハッブハッ」と便座で溺れる。

「蓮、これで水に流そうね」と自来也が大のレバーを引く。

「はぁはぁ……自来也、事情を聞いてくれ」

「うるさい! トイレの個室で2人きりって完全に浮気でしょ」

「それは事実だが、勘違い……ゴボゴボ」

「テメェ、私という美人な彼女がありながら、他の女と密会すんじゃねぇーよ!」

 自来也は便座を下ろすと、それで俺の頭部を挟み、そのまま座った。俺の頸部に体重がかかり、首の骨が曲がる。さらに、便座に顔が浸かる。
 臭い!
 首が痛い!
 息ができない!
 苦しい!
 死んじゃう!
 そんな俺に構わず、自来也は何度も何度も何度も何度も便器に座り直した――怒号を上げながら。

「許さない! 許せない! 死ね! 死ね!」

「自来也……ぐるじい」

「あーあ、せっかく従順な犬を捕まえたと思ったのに、とんだ浮気者だったわね」と自来也は便器に深く腰掛ける。

「反省……助け……じにだくなぃ!」

「全て蓮が悪いんだからね。こんな事を私もしたくなかった。でも、お別れね」
「いゃだあぁぁぁぁぁあ!」

「これで! 最後よ! バイバイ!」

 自来也は立ち上がって座る動作を繰り返した。
 ここで俺の記憶は途切れた。最後に覚えているのは、便所の悪臭と自来也の悪口と首の折れる音だけだ。

(3719字)











(タグまとめ)

#ライトノベル
#小説
#ラブコメ
#タイムリープ
#SF
#愛夢ラノベP
#文学
#短編小説
#メンヘラ
#別れさせ屋
#地雷女
#失恋ラブコメ
#地雷女の自来也さんと別れたい
#創作大賞2024
#漫画原作部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?