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映画レビュー『あらしのよるに』(2005)自分とは属性の異なる友達ができたら


ヤギとオオカミが友達に

嵐の夜にメイ(ヤギ)とガブ(オオカミ)が
山小屋で出会いました。

小屋の中が真っ暗だったので、
2匹はお互いの姿が見えないまま、
友達になります。

2匹はそれぞれ違う動物でしたが、
性格が似ていて、
とても気が合ったのです。

嵐が去って、小屋を出る時に、
2匹は再び会う約束をしました。

しかし、ずっと暗闇の中にいたので、
お互いの姿がわかりません。

そこで、2匹は再会した時の
約束の言葉を決めました。

その言葉が「あらしのよるに」だったのです。

2匹の間に横たわる大きな壁

メイとガブは再会すると、
お互いがヤギとオオカミであることを知り、
驚きと戸惑いを覚えます。

しかし、お互いの姿がわかっても、
2匹は友達であり続けました。

時折、群れを抜け出しては、
2匹で遊んでいたのです。

ところが、オオカミはヤギを
食べなければ生きられないし、
ヤギにとって、
オオカミは憎き天敵である事実は
変わりません。

やがて、お互いの群れに
2匹が仲良くしていることがバレて、
どちらの群れでもこのことが
問題視されてしまいます。

偶然にもどちらの群れでも
「スパイになって、
 相手から有益な情報をとってくれば、
 これからも群れにいることを許す」
という指令が出されるのです。

果たして、メイとガブは
お互いを裏切ってしまうのでしょうか。

それとも、裏切らずに
友達であり続けるのでしょうか。

しかし、友達であり続けることを
群れの仲間たちは
許してはくれないでしょう。

どんなにメイとガブが仲良くなっても、
2匹がヤギとオオカミなのは
変わらないのですから。

自分とは属性の異なる友達ができたら

絵本を原作にした本作ですが、
とにかくストーリーがよくできています。

お互いの姿が見えないまま
友達になる感覚は、
現代のインターネットを通じた
人間関係にも似ているんです。

そして、ヤギとオオカミという設定もまた、
人間関係における様々な属性に
置き換えることができます。

人種、性別、職業、貧富の差など、
どんなに時代が変わっても、
属性による違いは変わりません。

現実の世界でもありそうな話です。

童話などでもよくある
「寓話」というやつですね。

直接的ではなくて、
動物などに置き換えて、
比喩的に現実の問題を描く手法です。

人間の社会というのは、
属性によって細かく分断され、
一定の距離感を持って形成されています。

これは異なる価値観が相いれない場合に、
お互いの社会の平穏を保つうえで、
ある程度必要なことだと思います。

平和を保つためには、
人間が複数の地域に
散らばって住む必要があるんです。

しかし、そういう社会で育った子どもが
大人になった時に、
自分と異なる属性の人に対して、
最初から偏見を持ってしまうのは、
不幸なことですよね。

自分の価値観だけが、
「正しい」と思ってしまうのは、
本当に残念なことです。

時には、本作に出てきた
メイとガブのように、
異なる属性の人と
仲良くなることだってあるかもしれません。

そんな時に、周りの仲間たちが
どんな反応をするか、
想像してみてください。

きっと、仲間たちは、
あなたが異なる属性の人と
親しくすることを
拒絶することもあるのではないでしょうか。

そう考えると、
本作のストーリーは
単なるファンタジーではないとも言えます。

お互いの異なる価値観を
どのように受け入れて、
歩み寄ることができるか。

これはある意味では人類がいまだに
解決できていない大きな課題です。

あるいは永遠に解決することのできない
問題なのかもしれません。

緩急のあるシナリオがよくできた本作ですが、
映像の方も素晴らしかったです。

小さなお子さんが楽しみやすい
シンプルな風合いでありながら、
なかなか見応えがあります。

水彩絵具の風合いを感じさせる
キャラクターの質感、
アクセントとしてあしらわれた CG で
画面を立体的に見せる工夫も
素晴らしかったです。

オーケストラによる
壮大な音楽も物語を盛り上げるのに
一役買っています。

こんなに贅沢な作品が
子どもが楽しめるアニメになっているのは、
ありがたいことですね。

大人が観ても楽しめますし、
子どもと一緒に観たら、
きっと、親子の会話も弾む作品だと思います。

本作を観たお子さんは
どんな感想を持つでしょうか。

そういう反応を見るのが楽しそうな作品です。


【作品情報】
2005年公開
監督:杉井ギサブロー
脚本:きむらゆういち、杉井ギサブロー
原作:きむらゆういち
声の出演:中村獅童
     成宮寛貴
     小林麻耶
配給:東宝
上映時間:107分

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