見出し画像

書籍レビュー『剣客商売二 辻斬り』池波正太郎(1973)初心者にも親しみやすい時代小説

対照的な秋山親子

戦後を代表する時代小説家、
池波正太郎の人気シリーズ
『剣客商売(けんかくしょうばい)』の
第二巻です。

このシリーズは、
老剣客・秋山小兵衛(あきやまこへえ)を
主人公とする連作短編小説です。

’72~’89年に『小説新潮』で連載されていました。

秋山小兵衛は、
60代で隠居生活を送る身でありながら、

「おはる」という40歳以上も
年下の妻を持つ、
モテモテの男です。

背は低く、一見頼りない老人に見えて、
ひとたび剣を手にすれば、
その身軽さで敵を圧倒します。

小兵衛との前妻(故人)との
間に生まれた息子が、
秋山大治郎です。

大治郎も小兵衛と同じく剣客ですが、
父とは体格が違い、長身で、
性格は生真面目な印象です。

老いてますます盛んな
小兵衛とは対照的に、
大治郎は女性と交際したこともありません。

大治郎は道場を構え、
剣の道一筋に生きる人でした。

初心者にも親しみやすい時代小説

時代小説というと、
苦手意識を持たれる方も
いるかもしれません。

たしかに時代小説は、
現代を舞台にした作品とは違って、
言葉の言い回しが昔風だったり、
背景が想像しにくい場合があります。

ところが、池波正太郎の作品は、
文章が現代人にも馴染みやすいように
うまく調整されていて、
時代小説の中でも読みやすい部類です。

前述した小兵衛と大治郎のように、
キャラクター造形がマンガのごとく、
わかりやすく作られているので、

世界観にすんなりと
入っていくことができます。

連作短編といって、
短編をシリーズとして連ねているので、
一つひとつの話が短く、
読みやすいというのもあります。

池波正太郎ほど、初心者にも読みやすい
時代小説はないのではないか、
と思うほど、よくできていますね。

また、作者の池波正太郎は、
食通としても知られており、
作品の中でも「食」の描写が巧みです。

物語の本筋以外の描写にも
楽しめるところが多いのが、
またおもしろいところです。

「鬼熊酒屋」
「妖怪・小雨坊」がオススメ

シリーズ2作目となる本作には、
全部で7編の短編が収められています。

その内訳は以下のようになっています。

「鬼熊酒屋」「辻斬り」
「老虎」「悪い虫」
「三冬の乳房」
「妖怪・小雨坊」
「不二楼・蘭の間」

この中で特に印象的だったのは、
「鬼熊酒屋」「妖怪・小雨坊」ですね。

「鬼熊酒屋」は居酒屋の
年老いた店主の話です。

彼は頑固な店主で、
気に食わない客には
酒も出さないほどの人でしたが、

家族である娘夫婦にも
知られずに重い病を患っていました。

その居酒屋を贔屓にしていた
小兵衛がそれに気づき、
彼を見守るようになっていきます。

非常に『剣客商売』らしい人情噺でした。

「妖怪・小雨坊」は、
タイトルのとおり、
妖怪のような刺客が秋山親子の元に
やってくる話です。

こちらは「鬼熊酒屋」とは違って、
残忍な「小雨坊」似の男と
秋山親子が対峙するエピソードで、
かなり残酷な描写もあります。

終盤の痛快な剣劇アクションが
最大の見せ場です。

このように作品ごとに
楽しみ方に幅があるのも
『剣客商売』の大きな魅力ですね。


【作品情報】
初出:『小説新潮』(1973)
著者:池波正太郎
出版社:新潮社

【著者について】
1923~1990。東京都生まれ。
株式仲買店勤務、区役所職員を務めつつ、
’40年代から劇作家として活動。
’50年代から小説の執筆も開始する。
’55年に都職員を退職し、文筆業を専業とした。
時代小説・歴史小説を得意とし、
美食家、映画評論家としても有名。

【シリーズ作品】

【同じ著者の作品】


この記事が参加している募集

読書感想文

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。