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書籍レビュー『細野晴臣 録音術 ぼくらはこうして音をつくってきた』鈴木惣一朗(2015)音響を知ると、より音楽がおもしろい

細野晴臣とは

細野晴臣は、’69年にデビューした
ミュージシャンです。

エイプリル・フールの
ベーシストを経て、

’69年、大滝詠一らとともに、
はっぴいえんどを結成し、
日本語のロックの
礎を築きます。

’73年、はっぴいえんど解散後、
キャラメル・ママを結成、
(後のティン・パン・アレー)

このバンドでは、
荒井由実などの
バックバンドとして、
プロデュースも務めました。

バンドでの活動と並行し、
ソロ活動も開始します。

この頃に、細野は、
都心を離れ、埼玉県狭山市の
アメリカ村に住居を構えました。

ソロデビューアルバム
『HOSONO HOUSE』は、
この自宅で収録されたものです。

その後に続く、ソロ作品では、
のちに「トロピカル三部作」
と言われる諸作で、

ニューオリンズ、沖縄、
ハワイなどの音楽をミックスした
独自の音楽世界を築いていきます。

’78年には、坂本龍一らとともに、
イエロー・マジック・オーケストラを結成、
(YMO)

シンセサイザーやコンピューターを
取り入れたテクノポップで、
一大ブームを巻き起こすのでした。

'80年代は、YMO の活動と並行し、
松田聖子、中森明菜などの
歌謡曲の作曲も手掛け、

それらの中からも
多数のヒット曲が
生まれました。

'83年に YMO 散開以降も、
精力的なソロ活動が続き、

’80年代末以降は、
ワールドミュージックや
アンビエントにアプローチ
していくことになります。

近年は、再びアコースティックな
音楽スタイルに回帰し、

以前にも増して、
レコーディングや
ライブ活動を活発に行っています。

音響を知ると、
より音楽がおもしろい

前置きが長くてすみません。

細野晴臣の経歴を
ザッと振り返ると、
こんなところです。

本書には細野晴臣自身、
また、その作品群に携わった
歴代のレコーディング・
エンジニアに、

当時の制作風景を
インタビューした内容が
収められています。

(レコーディング・エンジニア:
 録音と音響調整をする技術者)

本書に書かれていたことですが、

アーティストでも、
エンジニアの担当分野である
ミキシングなどに口を出す方と、
そうでない方もいるそうです。

細野晴臣は、前者で、
かなり早い段階から、
エンジニアの重要性を
認めていた方でした。

本書には7人のエンジニアが
登場しますが、

その音の調整の作法は、
それぞれに異なっています。

それはこれまでに手掛けた
細野晴臣の作品群からも
聴きとれる違いです。

私自身も、学生時代に
YMO の楽曲を
聴くようになってから、

いろんな音楽を
聴くようになりましたが、

とりわけ、その違いの
おもしろさが感じられたのは、
何よりも音の感触、
「音響」の部分なんですね。

同じアーティストの作品でも、
作品の方向性によって、
音の質感が
かなり異なる場合があります。

例えば、前述した
ソロデビュー作
『HOSONO HOUSE』は、

レコーディングスタジオ
ではなく、
自宅で録音されたものです。

この時代に細野晴臣が
こだわっていたのは、
「響かない音」
だったのですね。

要するにエコーを
かけたくなかったわけです。

その意向を理解したうえで、
エンジニアは録音機材の
調整をし、

録音後の仕上げ方も
変えていきます。

そうして、出来上がった
『HOSONO HOUSE』は、

狭い空間で録られた
温もりの感じられる音に
なっていました。

それにしても、
本書に収められたインタビューや
当時の写真には
ビックリさせられます。

以前から、
『HOSONO HOUSE』が
自宅で録られたもの

というのは知っていたんですが、

写真などを見ると、
「こんな普通の民家の一室で
 演奏していたのか!」
と驚かされました。

実際、インタビューを読むと、
楽器とアンプを繋ぐコード類が、

床の上に張り巡らされており、
人が移動するのも
一苦労だったようです。

それだけ、このアルバムには、
明確なコンセプトがあり、
ここでしか出せない音に
こだわりがあったんでしょうね。

エンジニアは職人であり、
アーティスト

正直なことを言えば、
本書に書かれている
すべてのことがすんなりと
理解できたわけでもありません。

機材などの専門的な話が
多く出てきますし、
難しい話も多いです。

しかし、これがものすごく
おもしろかったんですよね。

音のプロフェッショナルが
専門的なことを

ものすごく楽しそうに
話しているのが
伝わってきたからです。

こういうインタビューに
仕上がったのは、
聴き手の鈴木惣一朗氏に
拠るところが大きいと思います。

彼自身もバンドをやり、
レコーディングについて
詳しい人物だからこそ、

エンジニアも安心して
話せるというのが
あったのでしょう。

また、細野晴臣本人には、
個別にインタビュー
しているのもいいです。

このインタビューによって、
さまざまな部分が補完され、
アルバム全体のことが
わかるようになっています。

また、この本は、
構成も絶妙で、

各インタビューの合間にある
コラムが非常に
よくできていました。

コラムで取り上げられているのは、
インタビューの中に出てきた、
当時のスタジオ、機材、
アーティストのことです。

当時のことを
知らない人が読んでも、

時代背景や音楽のことが
よくわかるコラムになっており、
読み応えも抜群でした。

本書を読むと、
また細野作品が聴きたくなり、
改めて聴くと、
また新たな発見があります。

読書のおもしろさとは、
「読む」おもしろさ
だけではありません。

知識を得たことによって、
視野が広がり、

さらに、新たな世界に
広がっていくおもしろさ
なんですよね。


【作品情報】
発行年:2015年
著者:鈴木惣一朗
出版社:DU BOOKS

【著者について】
'59年、静岡県生まれ。
ミュージシャン、
音楽プロデューサー。
’83年、インスト主体の
ポップグループ
「ワールドスタンダード」を結成。
細野晴臣プロデュースでデビュー。
文筆家としても活動し、
’95年に刊行した
『モンド・ミュージック』は
ラウンジ・ブームの火付け役ともなった。

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