書籍レビュー『1984』ジョージ・オーウェル(1949)「考えること」を他人に預けてはいけない
70年以上前に描かれた
超管理社会
数々の作品に影響を与えた
有名な作品です。
ずいぶん前から気になっていて、
ようやく読むことができました。
物語の舞台はタイトルのとおり
「1984年」、
世界は「ビッグブラザー」
と呼ばれる総統が統治する
超管理社会となっています。
「テレスクリーン」という
送受信機によって、
市民の生活は常に監視され、
少しでも政府に反するような
言動は許されません。
「ニュースピーク」という
新しい言語を作ることによって、
言語の数を削減し、
市民の思考するすべも
奪われています。
主人公は政府の「真実省」に
務める公務員で、
政府が発表する情報をもとに
あらゆる文書を書き換える
業務をしています。
この業務はいわば、
歴史をなかったことにも
できるものです。
例えば、ビッグブラザーが
統治する国は、
常に敵国と戦争しているのですが、
その相手国が
突然変わることがあります。
しかし「変わった」
という情報は残りません。
さっきまで「A国」
と争っていたはずなのに、
その事実は残さずに
もともと「B国」と争っていた
という情報が上書きされるのです。
そこに疑いを持ってしまうと、
たちまちその人物は、
連行されてしまいます。
最悪の場合は、
その人の存在自体も
「なかったもの」に
なってしまうのです。
サラッと書きましたが、
恐ろしい世の中ですよね。
こういう世界の話が、
1940年代に書かれ、
(35年後の世界を描いた)
部分的には
予言とも言えるような
ところがあるのも、
すごいですよね。
明るい未来を期待するなかれ
主人公は当然のこと
と言うべきか、
こんな世の中に疑問を抱き、
ひそかに反逆を企てます。
その中で、とある女性と出会い、
恋に落ちたり、
仲間と言えそうな人物に
出会ったりもします。
果たして、主人公の企ては
成功するのか、失敗するのか、
というのが物語としての
重点になりますね。
ところが、本作は
ディストピア小説なので、
(否定的な未来が描かれた作品)
あまり物語の部分には
期待しない方が
いいかもしれません。
ネタバレになるので、
詳しくは書きませんが、
私自身も最後まで読んでみて、
なんともいたたまれない
気持ちになりました。
決してスカッとするような
たぐいの話ではないんですね。
超管理社会には読んでいるだけで、
寒気がするような
緊迫感がありますし、
ビッグブラザーの名のもとに
横行する拷問の壮絶さは、
読んでいて気分が沈むほどです。
しかし、これが現実なのだなぁ
と改めて感じました。
「考えること」を
他人に預けてはいけない
本作を手掛けた
ジョージ・オーウェルは、
全体主義否定論者でした。
つまり、この小説は、
本来、こういう世界になっては
いけないよね?
というクエスチョンとして、
描かれているのです。
しかし、実際に本作の発表から
70年以上経ってみて、
世の中はどうなっているのだろう
という感じもします。
たしかに、
社会主義の大国であった
ソ連は崩壊し、
社会主義は否定されたように
見えますが、
まだまだそういう風潮の
国は多いです。
誤解の内容に言っておきますが、
社会主義=悪、
資本主義=正義
というわけでもないんですよね。
資本主義だって、
行き過ぎれば、
社会主義のようになりえます。
(実際、そうなっている国も多い)
この件に関して書き出すと、
長くなりそうなので、
別の記事に改めますが、
なんだか本作を読んで、
実際の世の中はどうだろう
と思うと、
あながちこの空想の世界を
笑えない世の中に
なってきているなぁ
と思ったりもします。
ネットの世界では、
相変わらず標的を決めて、
集団で叩いたりもしますし、
現実の世界でも、
息苦しい場面が多々あります。
特に、日本という国は、
こういう管理社会と
相性がいいところがあるので、
そういう社会に
馴染んでいる人こそ、
本作を読むべきだと思いますね。
政府(管理者)に
完全統治された世の中が
どんな世界になってしまうのか、
その姿のなれの果てが
本作では描かれています。
本作を読んだ時、
あなたは何を思うでしょうか。
私は「自由」を
手放してはいけない
ということを強く感じました。
どんな世の中になっても、
「考えること」を
他人に任せてはいけないんです。
70年以上も前の作品に、
そんなことを教えられた気がします。
【書籍情報】
発行年:1949年
(日本語版1950年)
著者:ジョージ・オーウェル
訳者:田内志文
出版社:文藝春秋社、
早川書房、KADOKAWA
【著者について】
1903~1950。
インド生まれ。
(イギリス植民地時代)
イギリスの作家。
1933年、
『パリ・ロンドン放浪記』で
作家デビュー。
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