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映画レビュー『未来世紀ブラジル』(1985)延々と続く悪夢のような世界

未来は暗闇の中

本作の名前を知ったのは
10年以上前のことだったと思います。

「未来世紀」という言葉は、
原題にはないフレーズですが、
「ブラジル」と結びつけたところが、
素晴らしいですね。

暗い未来を描いた
ディストピア作品として、
『ブレードランナー』に
通じるものも感じますが、

両者は、似て非なる作品です。

『ブレードランナー』は、
フィリップ・K・ディックが描いた原作に

監督の深い歴史的造詣、
建築やデザインの知識を付加して、
退廃的な世界観をかっこよく表現しています。

『未来世紀ブラジル』の方は、
監督のテリー・ギリアムが
ジョージ・オーウェルの
『1984』にインスパイアされて
作った作品で、
(※原作ではない)

徹底した管理社会を皮肉った作品です。

そして、『ブレードランナー』が
かっこいいのに対し、
『未来世紀ブラジル』は、
どことなくB級感が漂っています。

「B級」というと、
質が悪いもののような感じがしますが、
ほどよいチープ感がいいんですよね。

むしろ、この世界観で、
リアルに作ってしまうと、

あまりにも生々しく、
まったく救いのない作品に
なってしまうでしょう。

監督の作風なのか、
敢えて狙ってやったことなのか、
わかりませんが、
質のいい「B級感」なんです。

ストーリーはあるにしても、
それがすべてではない

本作はストーリー重視の
作品ではない気がします。

説明的なものが、ほとんどありませんし、

唐突にはじまって、
唐突に進み、
唐突に終わる、

そんな感じの映画でした。

それが悪いかというと、
そんなことはまったくなくて、
これがおもしろいんですよね。

映像がおもしろいので、
完全には意味がわからなくても、
楽しめてしまうのです。

わからないなりにも、
ストーリーはそれなりにあります。

どんなストーリーかというと、
一人の男が、
テロリストと間違われて、
政府に連行される話です。

その間違われ方が
一癖あって、
冒頭に政府の管理局みたいなところが
出てくるんですが、

そこでタイプライターを
打っている男がいます。

部屋の中にハエが入ってきて、

(このハエがまた、
 もろに作り物で笑える)

男はハエを叩き落とすんですね。

そのハエがタイプライターの中に
入ったことに気づかずに、
男は仕事を続けます。

落ちてきたハエのせいで、
タイプライターの文字盤がずれて、
テロリストの名前が
一字だけ打ち間違いになるんです。

(「タトル」という名前が
 「バトル」になってしまう)

主人公は情報省に勤める役人で、
この誤認逮捕からバトル氏を
救うために奔走する
というストーリーのようです。

「ようです」と書いたのは、
観ている時には、ストーリーが
よくわからなかったからです(笑)

ストーリーも深く読み込んでいけば、
おもしろい作品なんでしょうけど、

一回観ただけで、
すんなり理解できる人は
少ないと思います。

何度も言いますが、
説明はほぼないですし、
ハリウッド的なわかりやすい作りの
映画ではありません。

でも、これが不思議とおもしろいんです。

延々と続く悪夢のような世界

一見すると、はちゃめちゃな世界観で、
延々と続く悪夢のような映画です。

例えば、テロリストの容疑者を連行する
部隊の連中がどうやってくるかというと、
建物に穴を開けたり、
爆破してやってくるんです。

この描写がなんともぶっ飛んでいます。

みなさんも夢の中で、
現実の世界ではありえないような
法則が当たり前のように
出てくることってありませんか。

いきなり、当たり前のように
空を飛んでしまうような、
あの感じです。

突飛な設定がなんの説明もなしに
どんどん出てくるので、
むしろ、観ている側としては、
それを受け入れるしかありません。

(逆に、受け入れられない人にとっては、
 苦痛だろうなぁ(^^;)

徹底した管理社会を皮肉ったのが、
本作のおもしろいところです。

監督のテリー・ギリアムは、
モンティ・パイソンという
世界的に有名なイギリスの
コメディーグループ出身の方で、

ブラックなユーモアが
前面に出ているのも
魅力的なところですね。

(笑いの部分に関しても、
 決してわかりやすいものではない)

それと、なんと言っても、
本作を語るうえで、
忘れられないのは、映像の魅力です。

本作はどんなセットで撮影されたのか、
非常に気になる作品でもあるんですが、

おそらく、予算がふんだんにあった
作品ではないと思います。

しかし、シナリオから言って、
広い空間を描く場面が多く出てきます。

なんと言っても、
本作はディストピア作品であり、
敵対するのは政府ですから、

舞台も大きくなることが避けられません。

その点で、本作に見られる狭い空間を
広く見せるカメラワーク、

特に、建物を見上げる視点、
上から見下ろす視点の入れ方は
迫力がありますし、
特撮も見応えがありました。

おそらく爆破のシーンなどは、
ミニチュアを作って
撮ったと思うんですが、

実物の映像と違和感のないように
繋がれていて、
意識して観ていないと、
気がつかないでしょう。

そして、テーマ曲になっている
ブラジルの名曲『Brazil』の
アレンジも良かったですね。

エンディングの暗い映像と
『Brazil』のサンバ調の
アンバランスな組み合わせが絶妙でした。

ある意味では、観客を突き放したような
パンク精神溢れる作品ですが、
たまには、こういう難しくて
おもしろいタイプの作品もいかがでしょうか。


【作品情報】
1985年公開(日本公開1986年)
監督:テリー・ギリアム
脚本:テリー・ギリアム
   チャールズ・マッケオン
   トム・ストッパード
出演:ジョナサン・プライス
   ロバート・デ・ニーロ
   マイケル・ペイリン
配給:20世紀フォックス
   ユニバーサル・ピクチャーズ
上映時間:142分(20世紀フォックス版)
     131分(ユニバーサル・ピクチャーズ版)

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