映像で読み解く（17）CM『1984』（1984）
商品以上の成果を収めた広告
この映像は、
初代マッキントッシュの
テレビ CM です。
’84年の「第18回スーパーボウル」の
テレビ放映時の CM として、
制作されました。
スーパーボウルとは、
NFL の優勝決定戦であり、
事実上、アメリカ国民の祝日として、
位置づけられるほどの一大イベントです。
（NFL：
ナショナル・フットボール・リーグ）
本作は、そのような大イベントに
合わせて放送された CM
というのもあり、
世間からの高い注目を集めました。
スーパーボウルにおける
広告料を一気に引き上げた
革命的な CM とも言われ、
マッキントッシュ以上に
大きな成功を収めた作品として、
世界の CM 史においても
エポックメイキングな作品となりました。
リドリー・スコットが
手掛けたCM
この映像を手掛けたのは、
映画監督のリドリー・スコットです。
彼は、本作を手掛ける前に、
『エイリアン』（’79）
『ブレードランナー』（’82）
などを発表しており、
すでに映画監督として、
地位を確立していました。
実は、スコット監督は、
映画製作に携わる前の
イギリスで活動していた時代に、
CM の制作会社を立ち上げ、
1000本以上の CM を手掛けた
実績があり、
その頃から
美しい画面作りに定評があったのです。
彼が手掛けた CM は、
世界の映画祭でも絶賛され、
数多くの賞を受賞しています。
アップル VS IBM
スコット監督は、
『エイリアン』（’79）で
商業的な成功を収めてからは、
活動拠点をアメリカに移しました。
それ以降は、
映画製作が活動の中心に
なっていたはずなので、
おそらく、本作はスコット監督が、
久しぶりに手掛けた CM である
と思われます。
タイトルの『1984』からも
わかるように、
本作は、ジョージ・オーウェルの
小説『1984』をモチーフにして
手掛けられた作品です。
小説の『1984』は、
’49年に発表された作品で、
小説が書かれた時代の
35年後を舞台にした SF 作品でした。
作中の世界は「ビッグ・ブラザー」
という絶対的な指導者によって
築かれた監視社会になっています。
これは当時、台頭していた
社会主義国に見られる
全体主義を皮肉った内容で、
特に、欧米で高い評価を集めました。
そして、この CM が公開された年は、
まさに「1984年」だったのです。
CM の最後で、アップルは
「『1984』で描かれたような未来はこない」
と宣言しています。
この宣言が何を意味するかと言えば、
それまでコンピューター業界で
トップシェアを誇ったのが、
IBM だったことに由来するのです。
IBM が手掛けていたのは、
企業向けの大型コンピューターでした。
（メインフレームと言われる）
つまり、この時代は、
まだコンピューターは
個人のものではなかったのです。
コンピューターを
個人のものにしようと試みたのが、
アップルのマッキントッシュでした。
映像では、青い服に身を包んだ
無表情な群衆が基地のようなところに
集まっています。
彼らは、大スクリーンに映し出された
メガネの男の話を
黙って聞いていました。
ちなみに、
彼らが青い服を着ているのは、
IBM のコーポレートカラーに
由来しているらしいです。
（当時の IBM のセールスマンは、
ブルーのスーツを着る規定があった）
列を乱すことなく、
静かに行進する彼らは、
お行儀よく席に着き、
指導者らしき人物のスピーチを
黙って聞いています。
秩序は保たれているものの、
そこに人間らしさは
みじんも感じられません（笑）
そこへ颯爽と現れたのが、
白いタンクトップ、
オレンジの短パンという
スポーティーな
いでたちの女性です。
彼女は警備員とおぼしき
人物たちに追われながらも、
ホールの中央まで走り抜けます。
そこで彼女は、
手に持っていたハンマーを
スクリーンに投げつけました。
スクリーンは見事に爆破し、
そこから突風が吹き込みます。
突風にさらされ、
あんぐりと口をあける群衆を
カメラが駆け抜けながら
捉えていき、
その映像を背景に
前述したアップルのメッセージが
大きな字幕付きで流れます。
そして、最後は、
アップルのロゴマークが
表示されますが、
この時代のアップルのロゴは、
今とは違って、
7色のカラフルなものでした。
このロゴが、
黒い背景によく映えますね。
非常に短い映像ですが、
映画さながらの雰囲気で、
商品の映像は一切流れません。
しかし、今観ても、
企業と商品の理念やイメージを
直観的に伝える
優れた広告だと思います。
【作品情報】
1984年公開
（※一部の地域では
1983年12月31日公開）
制作国：アメリカ
企業：アップル
監督：リドリー・スコット
出演：アンヤ・メジャー、
デビッド・グラハム
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