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映画レビュー『四月物語』(1998)青春の1ページを真空パック


上京したての女子大生の春

岩井俊二監督の作品といえば、
『PiCNiC』('96)、
『スワロウテイル』('96)

といった変わり種しか
観ていなかったので、

本作の正統派な感じに
逆に新鮮さを感じました。

主人公・楡野卯月は、
(にれのうづき/松たか子)
高校を卒業して、

北海道から上京してきたばかりの
大学生です。

物語は家族に見送られながら、
地元を離れるところから
はじまります。

一人でやってきた
新しい我が家に、
引っ越しの業者が
次々に家具を搬入するのですが、

はじめての引っ越しに、
右往左往するばかりの卯月でした。

大学に入学してからの一日目では、
なんとなく周りに溶け込めず、

「そのセーター暑くないの?」
と笑われる始末、

一人学食で昼食をとっていると、
一人の同級生(女性)が声を
かけてきました。

最初のあいさつで、
自己紹介をしたはずなのに、
彼女は卯月の名前を聞いてきます。

一度ならず、二度までもです。

そのクラスメイトは、
卯月のことを珍しいものを
見るような目でジッと
見つめていました。

青春の1ページを真空パック

この物語は上京したての
女子大生の何気ない日常を
切り取ったような作品です。

とりたてて大きな出来事が
あるわけではないのですが、

映像の美しさ、
その生活のリアルな空気に
惹きつけられます。

ある程度の年齢になれば、
誰にでもこのような日々の思い出が
懐かしく感じることでしょう。

誰にでも、
一日一日が新鮮さで溢れ、
希望のある未来を胸に抱いた、
そんな経験があるはずです。

私にも劇中の主人公の
ような年頃に
そういう時代がありました。

目に映るもの、
なにもかもが新鮮で、
ワクワクしていた時代です。

本作には、そういう青春の
甘酸っぱい空気が
真空パックされたような
味わいがありました。

何げない日常ドラマにも
「いびつさ」を

これだけ書くと、
なんだか普通の青春ドラマを
連想させるかもしれません。

しかし、そこは、
さすがは岩井俊二監督の作品です。

彼の作品には、
いつも「いびつさ」と
「美しさ」が共存しています。

劇中の物語は、
いずれも何げない場面の話
ではありますが、

どこか「いびつさ」を
抱えた人物やシチュエーションが
出てきます。

例えば、主人公の卯月が、
アパートに引っ越しして間もなく、
となりの部屋の住人に
挨拶をするのですが、

このお隣さんが、
なかなかミステリアスな女性です。

卯月よりも少し年上で、
何をやっている人かは
劇中で明かされないのですが、

とにかく、不思議な感じがします。

そして、この女性が、
何か事件を起こすのではないか、
とすら感じさせるほど、

危険な匂いもするのですが、
別にそういうことが
あるわけでもないんです。

卯月自身は、
別に彼女に対して、
なんの違和感もないようで、

「カレーを作り過ぎたから」
といって、自宅に招いて夕食まで
振る舞います。

大学で最初に声を掛けてくる
同級生もそうです。

別に見た目は普通なんですが、
なんだか彼女の持っている
ムードというか、
空気感が微妙に変なんです(笑)

だからといって、
彼女も何かトラブルを
起こすわけではありません。

こういったなんでもないところに、
妙な「いびつさ」を敢えて入れるのが、
「岩井俊二」流なのかもしれないですね。

海外の映画でも、
こういう感じは結構ありますし、
(重要な人物ではないけど、
 妙に危険な匂いのする脇役)

「何か起きそうな感じ」を
どこかに残しておきたいのかも
しれません。

また、主演の松たか子は、
本作が映画デビュー作でもあり、
主人公の初々しさとピッタリな感じで、

観ているとついつい、
「大丈夫か?」
と心配な気持ちにさせてくれる
危うさがあります。
(アンタは親戚のおじさんか(^^;)

何よりも、
本作の一番の見どころは、
終盤にある雨のシーンですね。

こんなに心が明るくなる
雨のシーンは観たことがありません。

映像もとても美しいので、
ぜひ注目してみてください。


【作品情報】
1998年公開
監督・脚本:岩井俊二
出演:松たか子
   田辺誠一
   藤井かほり
配給:ロックウェルアイズ
上映時間:67分

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