見出し画像

映画レビュー『PiCNiC』(1996)「キモさ」と「美しさ」を両立する

岩井俊二監督 いわくつきの作品

ビーイング系の MV や
ドラマ『if もしも~打ち上げ花火、
下から見るか?横から見るか?』
などを手掛け、

当時、新進気鋭だった
岩井俊二監督が
自主制作的に手掛けた
ショートフィルムが本作でした。

’94年に製作され、
本来は’95年に公開される
予定だったのですが、

オウム真理教による
地下鉄サリン事件の影響で、
公開が延期されました。

なぜ、この事件の影響で
公開が延期されたのかは、
作品を観てもらうとわかるでしょう。

本作は精神病棟を舞台にし、
一部に過激な表現も含まれています。

逃亡者が薬物によって、
強制的に鎮静化させられるシーン、

あるいは、主人公の幻想として、
たびたび現れる
異形の様相を呈した教師、

何よりもこの精神病棟の
雰囲気そのものが
例の教団を連想させてしまうところが、

もっともまずい部分
だったのかもしれません。
(もちろん、患者は皆、白服)

時代の憂き目に遭った不運な作品

’96年には一部の過激なシーンが
カットされたものが
「日本版」と銘打って
劇場公開されました。

しかし、これは作品にとって
不幸なことでしかありませんでした。

なぜならば、
シーンがカットされたことによって
物語が破綻してしまったからです。

不本意なシーンの削除によって、
本作は正当な評価ができない
作品になってしまったんですね。

’12年に Blu-ray で、
本作が発売されることになり、
ようやく海外で公開された
「完全版」としてお披露目されました。

今回、私が見たのは、
「完全版」の方です。

問題のカットされたシーンですが、
言うほど過激な内容ではありません。
(個人的な印象)

おそらく、当時の時代背景が
映倫を過敏にさせたのでしょうね。

カットされたシーンよりも、
作品全体に漂う気持ち悪い感じは、
当時の空気に
マッチした印象があります。

不運にも時代にマッチし過ぎたからこそ、
本作は不本意な憂き目に
遭ってしまったのでしょう。

「キモさ」と「美しさ」を両立する

本作は物語の方に期待して
鑑賞すると、
肩透かしをくらうと思います。

(まったくわけがわからない、
 ということはない)

内容としては、
精神病棟に一人の女性がやってきて、
そこにいた患者二人と
脱走する話です。

「脱走」とは言っても、
彼らは「塀の外に出てはいけない」
というのを逆手にとって、

ずっと、塀の上を歩き続けます。

本気で脱走する感じではないんですよね。

タイトルのとおり、
「ピックニック」という感じです。

彼らは、それぞれ過去に
深い傷があり、
罪の意識を背負って生きています。

それがメインテーマなわけでも
ないとは思うのですが、
そういった闇の部分が
そこかしこに感じられるんですね。

その最たるものが、
前述した主人公が見る幻想です。

異形の様相を呈した教師の姿は、
見た目にもハリボテとわかる
作り物めいた外観なんですが、

この作り物の気持ち悪さといったら
この上ないほどの完成度でしたね。

本作を観て
「トラウマになった」
なんていう方もいるようですが、

私は、こういう気持ち悪さも
嫌いじゃないんですよね。

むしろ、その気持ち悪さを
乗り越えた先にある
美しさの方に感動させられました。

「気持ち悪さ」と「美しさ」
一見すると、相反するような要素ですが、

本作ではそういった真逆のものが
うまく調和しています。

フィルムで撮影し、
声をアフレコにしているのも、
昔の映画風でいいですね。

本作が醸し出す
映像の不快感、美麗さを
とくとご覧ください。


【作品情報】
1996年公開
監督・脚本:岩井俊二
出演:Chara
   浅野忠信
   橋爪浩一
配給:日本ヘラルド映画
上映時間:68分(完全版 72分)

【同じ監督の作品】

【監督が影響を受けた作品】




この記事が参加している募集

映画感想文

サポートしていただけるなら、いただいた資金は記事を書くために使わせていただきます。