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映画レビュー『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)記者たちの勇敢な行動

神父による児童への性的虐待事件

2002年1月、アメリカの
『ボストン・グローブ』紙が
取り上げたニュースが、
世間を震撼させました。

その報道によると、
ボストンの司教区・司祭、
ジョン・ケーガン神父が、

30年の司祭生活のなかで、
のべ130名にもおよぶ児童への
性的虐待で訴訟されていたこと、

さらには、カトリック教会は、
そのことに対する処分を怠り、

他の教会への異動を
繰り返すだけで、
事態を悪化させていた
とのことです。

本作は、この報道における
記者たちの奮闘を
描いた作品になっています。

よそ者が感じた違和感

この記事を世に送り出したのは、
『ボストン・グローブ』紙で、
調査報道班として最も長い歴史を持つ
「スポットライト」チームです。

スポットライトがこの取材を
はじめたきっかけは、
2001年に新編集長が
やってきてからのことでした。

『ボストン・グローブ』は、
ボストンの地元紙といった
性質の強い新聞です。

そこにいる記者たちも
長年、ボストンで暮らしてきた
地元の人間が多かったんですね。

ところが、新編集長は、
よその土地からやってきた人間です。

その新編集長から見て、
教会の神父による児童への
性的虐待事件は異様なものに
映りました。

なにせ、その神父は、
事件後は療養所に送られるものの、
他の教会に異動するだけで、

なんのお咎めもなく、
神父という職を続けているのです。

記者たちの勇敢な行動

新編集長からの指令を受け、
スポットライトは、
ケーガンの児童虐待事件の
調査をはじめます。

そこで取材班を驚愕させたのは、
ケーガンの事件に限らず、
教会における、その手の事件の多さ、

そして、その事実をもみ消してきた
教会と弁護士の痕跡でした。

前述したように、
児童への性的虐待をした神父は、
療養所に入り休職後、
他の教区へ異動となります。

教会の資料にそういった経緯が
直接書かれている
わけではありませんが、

「休職」のあとに「異動」
となっている場合には、
同様の事件があった可能性が
高いことがわかりました。

その歴史はかなり古く、
劇中では資料が現存する
’80年代からこのような事件が
横行していた記録が見られます。

さらに、取材班は、
過去の被害者への取材も重ね、
充分に証拠を揃えたうえで、

記事にしようと試みますが、
教会からの妨害などもあり、
そう簡単にはいきません。

しかし、このような事件が
明るみに出たのは、

ひとえにスポットライトのような
勇気のある行動をした記者たちが
いたからこそでしょう。

日本では今ひとつ
ピンとこないところですが、

アメリカでは、
教会は神聖なものであり、
そこに仕える神父は、
高貴な人という位置づけなんですね。

それを逆手にとって、
悪さをする人たちもいた
ということです。

しかしながら、その神父の数、
明るみに出た事件の数は、
尋常ではありません。

同様の罪を犯した神父は
ボストンだけで80人ほど、
この事件の発覚後に同様の
事件が発覚した地域は、

アメリカに限らず、
世界各地で膨大な数に及びます。
(映画の最後にテロップで
 一覧が流れる)

こう見ていくと、
これは個人の問題ではなく、
「教会」というシステム自体の
問題と言わざるを得ないでしょう。

そこにどんな問題があるのか、
この映画を観るだけでは、
計り知れないものがありますが、

一つ言えるのは、
人や組織をカテゴリーだけで、
判断してはならない
ということですね。

「この団体だから大丈夫」
「この職業の人は大丈夫」

そういった根拠のない信頼は、
事件の温床になるのかもしれません。


【作品情報】
2015年公開(日本公開2016年)
監督:トム・マッカーシー
脚本:ジョシュ・シンガー
   トム・マッカーシー
出演:マーク・ラファロ
   マイケル・キートン
   レイチェル・マクアダムス
配給:オープン・ロード・フィルムズ
   ロングライド
上映時間:129分

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