見出し画像

存在、在り難し。第4話

間が空きましたが、第3話の続き。

高校受験エピソードの前に、先生と私の夢について。

先生は臨床心理士という職業柄、自分の事を自ら語らない。そして、臨床心理士には基本的に自分のプライベートをクライエントになるべく話してはいけないというルールも存在する(心理職の職業倫理で定められている)

先生は勉強の教え方がとても上手だったので、勉強の合間にある日質問をした。
私「先生の教え方、すごく分かりやすいです!学生の時塾の先生やってたんですか?」
先「塾じゃないね、学生の間ずっと家庭教師のアルバイトをしてたよ」
私「わー!すごい!(語彙力)ちなみに先生はどこの大学出たんですか?」
先「えー……いや……」
私「教えてくださいよー(今思えば図々しいにも程がある)」
先「実は……〇〇女子大からの△△大の院だよ」
なんとどちらの大学・大学院も、天変地異でも起きないと私では絶対入れない凄まじい国立大だったのです。
私「え!先生そんなすごい学校出てたんですか。エリートですね!」
「エリートですね」という私の発言の後、少し間を空けて先生が静かに話し出した。
先「川原さん、エリートとかじゃなくてね……私の家は母子家庭なんです。塾や予備校にも行けないぐらい生活が苦しくて。母にお金の面で迷惑をかけたくなくて、学校全てを国公立で通すしかなかった。だから大学の時は、学費を全額免除してもらうために必死だったよ。学費だけじゃなく、生活費も大学からは家庭教師のバイトと合わせて奨学金を借りて、母には一切お金を出させないようにした。私が国公立出身なのは、やむを得ない事象だったんだよ」
苦笑いをしながら、先生は自分の生い立ちを私にコッソリと説明してくれた。

当時から思っていたが、先生は素晴らしい実力と能力をお持ちなのに、常に謙虚な姿勢を貫いていた。私が尊敬の眼差しで何を言っても謙遜ばかりされていた。
アホな私は、先生が才色兼備であることからこんな質問をしたことがあった。
私「先生は優しいし可愛いから、男性の相談者さんに告白される事ってあるんじゃないですか?(アホな質問するな)」
先「え?!いや……極稀に……ね(^_^;)」
私「やっぱり!先生みたいな素敵な人いたら、好きになっちゃいますよね」
先「川原さん……そういうのは本当の意味で『好き』ではないんですよ」
私「……?」
頭が弱すぎて先生の仰ってる事が理解できなかった私を見兼ねた先生は、この件について丁寧に説明してくれました。
先「相談者さんはね、心が辛い・苦しいから私達カウンセラーの所に相談に来るんです。心がしんどい時にカウンセラーが話を聞いたり意見をしたりするから、そのカウンセラーが良く見える、要は私(カウンセラー)を美化してしまう。その相談者さんは、あくまで臨床心理士としての私が好きであって、私のことが好きではないんだよね。だから、本当の意味で『好き』とは違うんだよ」
要はクライエント(来談者)がカウンセラーに抱く陽性転移(来談者・患者が医師・カウンセラー等に好意的な感情を持つ現象)の話を、世間知らずで間抜けな中学生であった川原にも分かりやすく説明してくれた。

あくまで臨床心理士としての私が好きであって、私のことが好きではない。

この台詞に、先生がいかに臨床心理士として目の前のクライエントに対して真摯に向き合っているか。心理士として苦しんでいるクライエントを一人でも多く救うことに徹しているか、当時子どもながらに先生の臨床心理士としての信念と覚悟を察しました。
そして先生と関わっていく中学校生活の中で、私の心にある感情が芽生えた。

先生みたいな大人になりたい。臨床心理士になって、自分のような人を一人でも多く減らしたい。

先生の存在は、私にとって将来の夢となった。
(続く)

この記事が参加している募集

スキしてみて

忘れられない先生

あなたのサポートがメンヘラニートの活力となります(๑>◡<๑)