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詩をめぐる『約束はできない』その5

机上の紙に何が記されていたのか、今となってはもうわからない
紙の上の文字は姿を消してしまった
かつてそこに描かれた軌跡は残されていない

プールサイドにあるジャグジーの泡だけがその内容を知っている
それは飛び込み台について書かれた不思議な詩だ
有名ではないが誰もが知っている詩、つまり電光掲示板に映し出されるロケットだ
詩人は口笛を吹くように呪文を唱えている
森の木々の最初の一本はどれだろうかと考えている

どこか知らない街で書かれた詩、川沿いのベンチで何かを期待している
濡れた葉の雫は激しい音を鳴らす木に話しかけている
森を見守ってきた者たちが感じる風の匂い、それは何かに似ていないだろうか

メリーゴーランドについての詩を書いていると
突然紙の上で震えが起こり、何かが擦れる音がする
詩人は時計の針の音に耳を澄ませる
街を歩いている、紙コップに手で蓋をして、少し熱いのを我慢している
紙の上の詩は今にも消えようとしている
それはブロック塀の上で音を鳴らしている

喫茶店の上に置き忘れられているのは
アメリカ中を旅して回った人物の自伝的な小説だ
消えようとしているものの正体を突き止めようとしている
鍵となる詩、東の空に浮かぶ雲、書かなくてもいいことを省略する詩人

天空の道路を走るペン、古い映像作品を眺めている、消えそうな何かを書き記す詩
詩人はペンのお尻を噛みながら文章と向き合っている
だが、雲は今にも消えてしまうそうだ

紙コップの側面に書かれた詩について考える
飲み口に付いたコーヒーの染みの中には森がある
とても古い木々の上で羽を休めているのは、流れるような声で鳴く鳥だ
詩人は橋の上に置かれた植木鉢を見る
芝居の開演時刻によってこれからの予定が変わることは、おそらく避けようがないだろう




二十歳の私が想像した、詩人が詩を書く過程、今まさに詩が生み出されようとしている現場についての詩です。


前回の詩もそういえば以下のような文章から始まっていました。

結び合う雨と、響きあう雨
文章が意味をなしている詩と、ちぐはぐな詩

『瞬間』雨の粥

詩について書く、詩について考えていることを象徴的に素描して、自分の中でまだちゃんと言語化されてない考えをあぶり出す。

そういうことをやってみることで詩に肉薄することができるのではないか。

この頃にそんな狙いを持つようになったのだと思います。


詩というのは便宜上、作品と呼ばれるけれども自分自身を超え出たものである、という感覚は今でもあります。

何かを作るというのはそういうことなのだと思います。


、書

つまりそれはある器によって汲み上げられて、器の枠の形に沿って湛えられた水ですね。

それは元の川とは似ても似つかない形をしているかもしれませんが、とにかくその川の水なのです。




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