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空想に助けられることは恥ずかしいことじゃない

# 23 書き手:アケル

 親愛を感じるキャラクターでも、目の前に強烈なイメージとして現れれば驚くし、大人になってもイマジナリーフレンドがいることを恥ずかしいと思う気持ちは、ぼくも覚えがある。 

 でも結局空想でも、ぼくを助けてくれる存在が、ぼくの心を守りに来てくれたんだ。

 ぼくのイマジナリーフレンド歴は、実は幼少期ではなく、中学生になったばかりのころだった。

 幼少期はまったく空想しなかったかと言われると、風や木にも意識があり、人間と同じ営みをしていると考えて話しかけていた。
 ただ、ぼくの中では「風も木もそれぞれ仕事があって、あまり自分の相手をさせるわけにはいかない」と思っていて、常にそばにいてくれる友人ではなかったんだ。

 中学に入ってすぐの頃に、最初のイマジナリーフレンドができた。

 今日はそいつの話をしようか。


【最初に出会ったのが、一番やばいイマジナリーフレンドだった】

 このエピソードはタイトル詐欺になってしまうし半分恨みつらみで書くけど、そのイマジナリーフレンドは別に好きでもなんでもない漫画のキャラクターだった。

 見出しにもある通り、中学生のぼくを振り回していたあまりにあんまりなやつだったから、キャラの名誉の為、漫画の詳細は伏せることにする。
(だいぶ濃いキャラに書きましたが、フェイク多めに入れてます。似てるキャラがいたらマジですみません。その人ではないです。)

 仮に名前を、タツゴロウ兄貴としよう。
 名前からしてうっすら伝わってくる通り、アウトローな兄ちゃんだった。

 10巻ある漫画のうちの1巻目を読んでる時にタツゴロウはやってきた。
 ふと目を上げると、自分の部屋のベランダに、タツゴロウがいた。
『よう』と、にこやかに片手をあげた。
 10秒ほど、見つめ合っていたと思う。

 ぼくは漫画に目を戻す。 
ちょうど、そのシーンでは、タツゴロウそっくりのキャラクターが巨人みたいなデカい敵をぶっ潰していたところだった。
 敵の返り血を浴びて全身血みどろ、どっちが敵キャラなのかそのシーンだけ見たら分からないくらい、凄惨な戦いだった。

 ぼくはベランダの窓を開け、ぼくに笑いかけるタツゴロウをできるだけ見ないようにして、無言で雨戸を閉めた。

 雨戸の向こうから『待てやおいゴラぁ』とか『目ぇ合ったじゃろが』とか声が聞こえて内心心臓がばくばくしていだが、全て無視した。3日間、無視し続けた。

 いや、考えてみてほしい。

 当時のぼくは中学に上がったばかり。身長は140cm、見た目も女の子にしか見えない。平均身長よりもかなり小さく、気も弱かった。(いや、気はそこそこ強かったんだけど、外に自分の言動をしっかり言えない、内弁慶なタイプだったんです。)

 そこに身長190cmのヤクザみたいなキャラクターが現れたとする。漫画では、自分より3倍は大きい巨人を血祭りにあげる戦闘力は分かっているものの、どういう人なのかは全くよく分かってない。(キャラの“人となり”よりは、戦闘を主体とする重厚なバトル漫画だったのだ)

 …いやじゃん。

 あの頃のぼくは、至極まっとうな対応をしたと今でも思ってる。
 怖いし、100%ヤバい幻覚だと確信した。
 自分はこんな妄想を見るほど、頭がダメになってしまったのかと恥ずかしくなった。

 タツゴロウはぼくが無視しているにも関わらず、3日間常につきまとい、
周りの大人の誰も話さないようなどぎつい広島弁口調で話しかけられた。(当時、はだしのゲンや金田一シリーズの八つ墓村など広島を題材にした作品を読んでたことから、かろうじて内容は分かった)

 14歳の中学生相手に容赦なさすぎる。

 最終的にはぼくがブチ切れて、口汚い罵り合い、話し合いを経て、適切な距離の取れるイマジナリーフレンドになった。そして10年ほど、一緒に遊んだり罵り合ったり、罵倒したり、罵り合ったりしていた。
 ある時を境に見えなくなってしまったが、記憶は今でも残っている。


【よく知らないキャラクターがイマジナリーフレンドになるんだろうか?】

 タツゴロウはキャラクターそのものというよりは、ぼくのイマジナリーフレンドとして、既に人格はあったのだと思う。(キャラには申し訳ないけど、そんなつきまとって欲しいと思うほど、思い入れのある人ではなかったんだ)

 ぼくはイマジナリーフレンドが欲しいと願っていたわけではなく、むしろ「自分の頭がおかしくなった」と思うくらいには現実主義だった。
 潜在意識では、イマジナリーフレンドを必要としていたが、当時は創作や空想をあまりできていなかった。
 オリジナルキャラクターを想像するという過程を踏めなかったタツゴロウの人格は、どういうわけかたまたまぼくが読んでいた漫画のキャラを見て『この生き様惚れたわ〜。よし、ワシがこいつの人生背負っちゃる!』と選んだのかもしれない。
 ピカチュウだったらよかったのに。


【和解、その後】

 ともあれ一番最初に来たのが一番怖いイマジナリーフレンドだったので、その後ぼくはだいぶ心が強くなった。

 なにせ隣にいつもサファリパークのライオンみたいなのがいるのだ。ジャングルバスに乗ってないのに、すでに鼻先まで近づいちゃってるのだ。

 気弱だった性格が、段々タツゴロウと口喧嘩しているうちに、はっきり言えるようになってきた。

 言葉を飲み込まず、相手に話せるようになったし、学校の友人関係や付き合う気のないグループを気にしなくなった。

 タツゴロウは…言動はジャパニーズ・ヤクザ・コミュニケーションで、今まで近くにいた人間の誰とも違う生き方をしていたが、彼なりの信仰があった。

 14歳の子供のイマジナリーフレンドが侠客なのもどうかと思うが、たまたま出会っちゃったのが、無頼漢の兄ちゃんだった。

 見た目が小学生女子のぼくにも容赦しなかったのは、ぼくが本音で話し合える存在を必要としていたからだ。

 とどのつまり、ぼくが必要としていたのは“喧嘩できる悪友”だったのだろう。

 あの頃、心が男だと誰にも言えず、見た目の女子として振る舞わなければいけなかったぼくにとって、タツゴロウは唯一、人前では明かせない怒りや苦しみ・モヤモヤをぶつけても構わないと思える相手だった。

 うまく言葉にできなかったぼくの「嫌だ」という気持ちを、彼は聞いてくれた。

 せめてアンパンマンくらいのマイルドなキャラクターであってほしかったが、アンパンマンが『たいぎぃにしろやゴラぁ!』とか言いながら空を飛んでたら怖いので、やっぱりタツゴロウでよかったんだと思う。


【空想に助けられることは、】

 タイトルにある通り、この記事は“空想に助けられることを恥ずかしがったり、自己嫌悪におちいる”人に向けて書いた。

 親愛を感じるキャラクターでも、目の前に強烈なイメージとして現れれば驚くし、大人になってもイマジナリーフレンドがいることを恥ずかしいと思う気持ちは、ぼくも覚えがある。 

「こんな夢ばかり見ている自分が情けない」
「妄想に振り回されて嫌になる」
「一体この人はなんなんだろうか?」 
 何度も思った。
 いくつかの精神医学の説明に救われたりもしたけど、それが世の中では「社会から逃避している」「結局頭がおかしい」「自己中心的な愛だ」と言われたりもしている。

 でも結局空想でも、ぼくを助けてくれる存在が、ぼくの心を守りに来てくれたんだ。

 自分の心の防衛本能だとしても、自分の心が自分を愛して守ろうとしてくれてるんだ。他人の愛を求めるならば、まずは自分の愛を受け入れてからだ。

 そう思うようになってからは、少しだけ素直にタツゴロウとの思い出を振り返ることができた。

 それに…梯子を外して申し訳ないが、人に説明しやすくする為こう書いてきたけど、ぼくは奴を空想の存在だからって、いなかった存在だと思えない。思えないんだ。
 イマジナリーフレンドは、ぼくにとって実在している。
 空想と呼ぶことは人に対してのただの説明であり、全て嘘だと見なしてることにはならない。

 

 ただひとつ言えることは、タツゴロウが何者であろうが…それこそ人にとっては妄想や悪魔だと言われようが…、ぼくはアイツといて楽しかった。

 人間の友達ではなかったけど、昼休みに外階段で食べる弁当は美味かったし、沖縄の修学旅行にもついてきた。(そう、あいつは用心棒だと称して修学旅行にもついてきやがったのだ。)日頃の無頼漢な格好から、サングラスにアロハシャツを着て、南国にすっかり染まりきっていた。

「似合ってるよ、珍しく」

 半分は嫌味で言ったけど…その時の満面の笑みは、今でも目に浮かぶ。

 歯をむき出して笑うからやっぱりどこまでも怖いんだけど、どことなく愛嬌のある笑顔だった。

 そう。彼はよく笑っていたし、ぼくも笑っていた。

 空想だと人には説明するけど、思い出は夢のようには消えてくれない。なんならしつこく、現実の脳みそにこびりついてる。 



【これから人と出会うイマジナリーフレンド達へ】

 最後に、もし、これから人間に邂逅しようとしているイマジナリーフレンドの諸君が見ていたら、“ぼくらを助けてくれて、いつも本当にありがとう”と感謝の気持ちとともに、一つお願いがある。

 人間に会う時は、なるべく対象の人間が怖がらないような見た目のキャラクターを選んでくれ。

 オススメはピカチュウかドラえもんだ。

 それでも人間社会では、ある程度の年齢(今なら10歳過ぎてからは、もうネットで知識を拾えるようになる)になると、キャラクターのイメージが突然飛び出してくるという現象は、精神異常を疑ってしまうものなのだ。

 こちらが戸惑っていた場合、決してゴリ押しせず近寄らずに1mくらいの距離をとって、人間のパーソナルスペースを守って欲しい。

 ファーストコンタクトを間違えると、ぼくのように15年以上経っても禍根が残り、ネットの海に流して報復することもあるからね。

 …おぼえてろよ、タツゴロウ。


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