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Cicadas

 寂しさからは抜け出せない。何をしても、ずっと寂しさからは抜け出せない。どんな時でも、満たされているようでも、隣に誰かがいても抜け出せない。お花を買っても、お酒を飲んでも、駄目。外で蝉がちょっと鳴いた。ジッ。薄暗いこの部屋で私は、自分の呼吸がだいぶ薄いことに気がついた。さっき見た動画の、アンアン、と苦しそうな女の喘ぎ声が頭から抜けない。そしてすごくうるさい。訳がわからない。女は子供を産んで、死んでいくだけかもしれない。たまたま、生物学的に、運命的に、女に生まれてしまった私は、アンアン喘ぎ、また浮気をされ、いつか子供を産んで、閉経する。すごく悲しい。寂しい。そして本当はそんなに寂しくはない。彼に浮気されても友達がいなくなっても、たとえ知らない土地にいても、そんなに寂しくはない。大学を退学になりそうでも家から追い出されそうでも、あんまり怖くない。よくわからない。 

 男は面白い。女よりもずっと面白くて、女みたいにどうでもいい事ばかりいつまでも考えたりしない。女より筋肉があるし、子宮から血が流れないし、ブラジャーをつけなくてもいい。だからみんなが男に憧れる。潤んだ瞳でその男を見つめてしまい、日中はその男のことを考え、夜にその男の夢を見る。女はつまらない。どうでもいいことをぐるぐると考え、子宮から血を流しブラジャーをつける。生理の前はヒクヒク泣き、自分は股から血を流すケモノみたいだと感じる。でも別に悲しくない。ある日起きると肌がツヤツヤになっていた。なんとなく顔も整って、体の調子も良く、心も、詰まっていたものがポンと抜けたみたいにすっきりしていた。元気が出たから、浮気した彼の会社にサイバー攻撃を仕掛け、彼の家に勝手に入ってタバコを十本吸い、部屋に蝉を何匹か放してきた。すごく好きだと言ってくれたのに、返信をくれなくなった彼の連絡先を消した。私はすぐ後悔して泣いた。彼の濃い髭とかやさしい喋り方とか、二人が抱きしめた時にぴったりなことが恋しくなった。もう遅い。面白い映画も世の中も、作ってるのは男で、私たちは違う生き物だ。蝉を捕まえたとき、大きな音を立てたらそれはオス、鳴かなかったらメスらしい。


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