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「アイドルは偶像」ではなかったかもしれない

アイドルは偶像だ。

かれこれ10年近くアイドルを応援してきた私にとって、

それは言うまでもなく当たり前のことだった。

中学生の時、授業が暇で電子辞書で何となく「アイドル」と検索をかけて

1 偶像。
2 崇拝される人や物。

と知ったその日から、私にとって「アイドル」とは「実体のないもの」

として認識してきた。

もちろん、その中学生時代に全ては理解できなかったけど、

歳を重ねるにつれ、その「アイドル」の持つ意味を理解し、納得し

紛れもなくそうである、として疑うこともなかった。


私にとってアイドルは、極論、

自分が勝手に作り上げたそのアイドルへのイメージ、レプリカであり、

そのアイドルが出演する雑誌やテレビを見て、

そのレプリカ作りの足しにしたり、修正したりする、

それがファンのやっていることだと、暴論ではあるけれど、

大枠はそんな感じで私自身「アイドル」という存在を飲み込んでいた。


しかし先日、そんな私にとって、

とんでもないことが起きてしまった。


私が今いちばんに応援しているアイドルが

アイドル=偶像

という辞書的意味を知らなかったのである


私は言葉が出なかった。

しかもその当本人は「俺ら偶像なん?!?」とか言いながら

ハニワみたいなポーズをしている。


アイドルのファンとしての自分の中の何かが崩れそうだった。

まず初めに、ショックという感情がこみ上げてきてしまった。

そして、そんな自分にショックだった。

というのも、

私のなかで、アイドルは、「自分たちアイドルは偶像である」ことを知っていて

アイドルをしていると思い込んでいたからだ。

まさに私の中の勝手に作り上げた偶像が崩壊した瞬間だった。

紛れもなく「私の中の偶像」が「本物の偶像」とは不一致であったこと

を突きつけられた瞬間だったのである。

私というファンが勝手に偶像を作っているだけだから、彼は何も悪くない。


とはいえ

この偶像の不一致の積み重ねは、

後に所謂「担降り」とか「推し変」とか「オタ卒」

に繋がるものだと私は認識している。


しかし幸いなことにショックを感じた次にこみ上げてきた感情は、

今回に関しての「不一致」は、もしかして、もしかすると

とてもとても尊いものなのではないか、という希望だった。

「尊い」という最近よく使う短絡的なオタク的表現ではなくて、

本当の意味で。


どうしてそう思えたのか。


なぜなら、


そのアイドルは、いつも誰よりもアイドルを全うしているからだ。


「ファンのみんなを彼女だと思ってます!」

「ジャニーズってすっごくキラキラした世界だよ!」

「お仕事がいっつも楽しいよ!」

「あなたを幸せにするためにアイドルしてるんだから」


アイドルは偶像であると知らなかったアイドルの発言だと思うと

急にこの言葉たちが重みを増す。


彼は、いつも本当に楽しそうにアイドルをしている。

きっと、彼にとって、

アイドルは

自分そのもの、自分の人生そのもので

いつも「自分」として体当たりで私たちファンに魅せようとしてくれているから

偶像なんていわれる実体のない掴めないものじゃないんだ。

そこに確かに存在している、今を生きるアイドルであり、私たちは

それを確かに見ているファンなんだ。


急に自分が恥ずかしくなった。

こんなに全力でぶつかってくれていたなんて知らなかったから。

もちろん彼のアイドルとしての全力はいつも十分に感じていたけど

アイドルはアイドルであり、ファンはファンであり、

それをつなぐ矢印や線は、どこか不確かなものであると当然に思い込んでいた。

そうじゃなかったのかもしれない。


これも「きっと」でしかないから

所詮私が拡大解釈してしまった、また新たな彼の偶像なのかもしれないけれど

それでも私の中で、当たり前の事実が変わった瞬間だった。


こんな根底からアイドルの概念をひっくり返してくれるアイドルに出会えるなんて

そうあることじゃない。


彼のファンである以上は、

もっと真正面から人としてぶつかってもいいのかもしれない。

アイドルとファンの関係であっても、

もっと心の底から人と人としての繋がりを感じてもいいのかもしれない。


自分の中の偶像が、本人に違うと突きつけられてしまったら

ファンとして間違ってしまった気がするから

今までそれを照らし合わせることが怖かった。

一人間であるアイドルには申し訳ないけれど、

私にとっての永遠の憧れ、永遠のアイドルでいて欲しかった。


でも

偶像の「不一致」は

時として

そのアイドルの魅力になりうることを

私は彼のおかげで初めて知った。


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