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【国会議員の目】立憲民主党 衆議院議員 小熊 慎司氏

ウクライナ支援は経済面も含めて

非戦闘地域の日常にも目を

~FOIPの原則逸脱 ミャンマー、カンボジアには厳しく~

2022年春、ウクライナを訪問した小熊慎司氏は、東日本大震災時の地元・福島と現地の状況を重ね、「国外に避難した人の支援も大事だが、国内で避難している人の支援がより重要」「非戦闘地域を支えることも必要な支援」と実感したという。ミャンマーや民主主義の後退が指摘されるカンボジアへの向き合い方も含めて聞いた。

立憲民主党 衆議院議員 小熊 慎司氏

おぐま・しんじ
1968年福島県生まれ。「世界のためになる人を100人育てる」と政治家を志す。故・新井将敬衆議院議員の学生スタッフ、秘書などを経験後、1999年に会津若松市議に。福島県議会議員(2期)、参議院議員を経て、2012年に衆議院議員に初当選(現在4期)。衆議院北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会委員長、外務委員会委員。JICA議連などでも活動。妻は元海外協力隊員。

小熊氏の公式HPはこちらから
※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2024年5月号』の掲載記事です。


民主化勢力へ積極関与こそ必要
 安倍政権の功罪は、しっかり検証していくことが必要だが、その取り組みの中で「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想は評価している。現在、FOIP をもとにした取り組みはいろいろあるが、FOIP そのものの会議体はない。そうした形をつくり、もっとダイナミックに動いていい。
 日本の役割として、単純に白黒をつけるのではなく、「第3の道」をとるということがあり、外交的にも評価されることもある。一方で、スタンスを明確にして臨むべき場合がある。
 例えば、ミャンマーに対しては、スタンスをはっきりすべきだ。歴史の流れとして、不条理な政権は続くわけがないし、そうした政権に加担するようなことは一切してはならない。ミャンマーがまっとうな民主的な国家に生まれ変わるようにシフトを変えた方がいい。
 ミャンマーの国軍とつながっている企業との関係や軍政を支援するさまざまなルートは断ち切るべきだ。そして、民主化運動をしている暫定政府への具体的な支援を考えるべきだ。
 ミャンマーとのパイプを使いながら変革することは、できないと思う。軍部は、力で政権を奪取した。話し合って済む相手ではない。
 カンボジアは、フン・セン前首相の息子のフン・マネット首相の政権になって、より強権的になっている。先日も、選挙参加が認められなかった有力野党・キャンドルライト党のティアウ・ワンノル党首と議員会館で面談したが、状況は深刻化している。
 「力による現状変更は認めない」は、FOIP の一つの哲学であり、場面によって使い分けてはいけない。間違った非人道的な国家に対しては、厳しくやっていくべきだ。

震災の恩義と避難思い現地へ
 2022 年4月から 5 月にかけて、ウクライナを訪問した。当初は日本に避難してくるウクライナ人をどう支援すべきかと考え、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、モルドバのウクライナ国境を視察する予定だった。ところが、ポーランドのウクライナ国境にある検問所に行ってみると、ウクライナから避難してくる人はわずかで、ウクライナへ戻る車の列ができていた。このとき、ウクライナ国内にいる避難民への支援がより重要だと感じた。東日本大震災のときの地元・福島でも、県外へ避難した人よりも、県内に避難した人が多かった。
 震災での原発事故後、福島では放射性粉じんを防ぐ防護服や放射線量を測るガイガーカウンターが不足していた。そのとき、ウクライナ政府が、防護服や測定器を寄付してくれた。この恩義とウクライナへ戻る人の顔を見ていると、国内の避難者の様子を見て支援策を決めなければと思った。「鉄道でなら行ける」と聞き、駅へ行くと、あっさり切符を買うことができ、列車に乗るとスムーズに国境を越えることができた。
 ウクライナ西部の世界遺産の街、リビウでは、イースター(復活祭)を祝っていた。「日本からよく来てくれた」「ぜひ日本の人に『観光に来てくれ』と伝えてほしい」と声を掛けられた。戦闘地域と戦闘が行われていない地域では状況は違う。「日常を続けることが、プーチン(ロシア大統領)との戦いだ」とも聞いた。
 東日本大震災でも、能登半島地震でも同様だが、周辺部まで含めた支援を考えると、日常を支えるということを、もっともっとやっていかなくてはいけない。それは経済を通して、ウクライナを支えることになる。例えば、データ処理をウクライナの企業に委託することがあってもいい。ウクライナと取り引きする企業への税を免除してはどうかと国会でも提起した。
 ウクライナへの無線機の供与など、国会で取り上げ、実現したことも多いが、対応が遅れているのが渡航制限の緩和だ。首都キーウに関してだけ、一部緩和されているが、支援活動やビジネスの関係者の渡航制限はさらに緩和すべきだ。他国のNGO などが活動しているのに、日本の NGO が少ないのは恥ずかしい。

国会で質問に立つ小熊氏

コメづくりでも世界が必要
 国際協力や ODA については、それがチャリティではなく、国益、国際益につながることを国民にもっと伝えていくべきだと考えている。相手国が発展すれば日本との貿易も太くなるし、治安が安定してこそ資源も産出できる。政情不安が広がれば、日本の経済も不安になる。ただそれは、「日本
企業が進出できる」などの短絡的な話ではない。
 改定された開発協力大綱は、短絡的な国益を目指すと宣言してしまっているように感じる。日本から協力内容を提案するオファー型支援についても「上から目線」を感じる。それよりも、相手国がその国の発展につながらない協力の提案を受けているときに、「日本だったら、こういう協力をする」と再考を促すような形で活用するのがいいのではないか。
 日本は、世界との貿易があって成り立っている。自給率 100%のコメも、ビニールハウスの資材や肥料など、多くの輸入品がないと作れない。こうした事例を挙げながら話をすると、みんな、世界の安定が大事だと理解してくれる。不安定な国をつくってはいけない。

協力隊員から国際理解広がる
 外交や国際協力に力を入れていくためには、JICA や JICA 海外協力隊、国連などで、国際的に活躍する人材を増やさなくてはいけない。一方、人口減少が進む中で、どの分野でも人材確保が難しくなっている。今まで以上の取り組みが必要だ。
 その取り組みとして2つのことを考えている。1つは、国際的な活動を目指す人のための奨学金。もう1つは、JICA 海外協力隊を1~2カ月、体験する「インターン」のような制度だ。
 「協力隊インターン」は、大学とも連携し、大学の単位として認定してもらう。体験した結果、国際協力の道を深める人も出てくるだろう。
 協力隊のような取り組みの意味が大きいのは、本人だけでなく、その周りの人も経験者の話を聞いて世界を知ることだ。派遣国の様子を日本で紹介して理解を広げ、地域の国際化にも貢献できる。


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本記事は国際開発ジャーナル2024年5月号に掲載されています。
(電子版はこちらから


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