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父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について【欧州】

 この記事は法務省HPに掲載されている「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」の【欧州】をnoteに転載したものです。

第1 イタリア¹⁵

1 離婚後の親権行使の態様¹⁶

 別居・婚姻の解消においても,両親は,親権(イタリアでは「親責任」という用語が採用されているが,本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する。)を共同で行使する(民法第317条の3)。原則として, 両親の離婚後も双方に子についての義務が帰属する共同分担監護が選択される(同条第1項)。子の利益に反する場合にのみ,単独監護となる(同法 第337条の4第1項)。

⑴ 両親の合意が必要な事項
 子の重要な利益に関わる決定(教育,健康,子の居所の選択)については,両親の合意により親権を行使しなければならない(同法第337条の3)。これらの事項について,両親が合意しない場合には,その決定は裁判官に委ねられる。

⑵ 単独での行使が可能な事項
 通常の管理に関する事項が該当する。通常の管理については,裁判官は両親が親権を各々で行使することを決定することができる(同条第3項4文)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

 両親が子の重要な問題について合意をすることができない場合には,いずれの親もより適切と考える措置を示して裁判官に訴えることができる(民法第316条)。
 その場合には,裁判官は,両親及び場合によっては子(12歳以上の子及びそれ以下の年齢でも判断力がある年少者)の意見聴取をし,子の利益と家族の一体性のためにより有益と考える合意案を提示する。それでも両親の合意が得られない場合には,裁判官はその事例に関して子の利益を配慮する上でより適切と考える親に決定の権限を与える。
 裁判官は,決定が困難な場合には,専門的顧問を任命し,子の利益のため の特別管財人を指名することができる。

3 共同親権行使における困難事項

 判断が難しい事案としては,子の居所指定のほか,予防接種の義務,特別な食事の提供,宗教の選択のような問題が挙げられる。重要事項と法律上明示されている事項(訓育,教育,健康,居所の選択)については,一般的には問題なく決定が行われているという(民法第337条の3,前記1参照)。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 2014年11月10日の法律により,「支援付きの交渉」の手続が導入された。子の有無にかかわらず,別居や離婚の条件についての合意やその条件の変更の合意を行うために,同手続を利用することができる。双方の弁護士が管理をすることで,交渉が行われる。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め

  •  民法上,裁判官は「各親と子が過ごす時間と態様,扶養,養育,訓育,教育にそれぞれが関与する手段や方法を決定する」(民法第373条の3第2項)と定められている。判例上は,通常の家庭生活に干渉せず,子の監護が認められた親の下で年少者の居住を維持することができるという留保の下,非監護親と子の面会交流が認められるとされている。

  •  両親は,別居,離婚又は同居の終了時に,面会交流について取決めをすることが義務付けられている。その内容は,当事者の合意によるが,当事者が合意をしない場合には,裁判所が決定する(同条)。当事者の合意についても,裁判官が,当該合意が子の利益を害さないかを審査し,子の利益を害さない限り,両親の合意を認可する。

⑵ 面会交流の支援制度
 両親への支援講習,家族への仲裁,家族セラピー等の制度が存在し,両親がこれらの制度を選択することができる。

6 居所指定

 未成年者の居所は,両親の別居・離婚の際にも,両親の合意の下に決定されなければならない(民法第337条の3第3項)。合意が得られない場合には,裁判官に判断が委ねられる(上記2も参照)。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に養育費の支払について取決めをすることは義務付けられていない。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 養育費の不履行を防止するために,不履行の危険がある場合には,親に人的・物的保証を供与する義務を負わせている(民法第156条第4項,履行法第8条第1項)。

8 嫡出でない子の親権

 嫡出でない子についても,認知がされれば,両親が共同で親権を行使することとなる。

¹⁵ 椎名規子①「イタリア」床谷文雄=本山敦編『親権法の比較研究』(日本評論社,2014年)202頁以下,同②「離婚後の共同親権:イタリアと日本の法制度の比較において」戸籍時報702号24頁以下,同③「離婚後の共同親権―イタリアにおける共同分担監護の原則から」法と民主主義447号28頁以下。
¹⁶ 詳細は,椎名・前掲注15)①論文217頁以下。

第2 イギリス(イングランド及びウェールズ)

1 離婚後の親権行使の態様

  •  離婚後も,両親のそれぞれが,子に対して親権(イギリスでは親責任 (parental responsibilities)という用語が採用されているが,本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する。)を行使する。なお, 親権を有する者は,原則として,それぞれ単独でその親権を行使すること ができる。

  •  両親は,離婚時に,子が誰と住むか,子が誰といつ一緒に過ごすか,子 の養育に関する経済的な負担等,親権の行使の具体的な方法について,調 整又は取決めをする。この調整又は取決めは,①両親の合意によってする ことができるが,合意が成立しない場合には,②調停による調整が行われ (2014年子及び家族法第10条),③調停が成立しない場合には,両 親は,裁判所に,子に関する取決決定の申立てをする(1989年児童法 第8条)。なお,裁判所は,両親の合意を促し,これにより両親間において合意に達し,かつ,当該合意内容が子の福祉にとって問題がないと認め られる場合には,手続を中止する。

  •  子に関する取決決定においては,子が誰と住むか,子が誰といつ一緒に過ごすか,誰といつ面会するのかについて定められる。そのほか,裁判所は,申立てにより,親権の行使に際して生じた又は生じ得る特定の事項 (子の氏の変更等)に関する決定や禁止措置決定をすることができる。

  •  決定においては,子の意思・意見,子の身体的・心情的・教育的な必要性,環境の変化が子にもたらす影響,子の年齢・性別・性格・生育環境, 子への危険性,子の要求に対する親の適応能力,裁判所の決定の実効性等が考慮される(同法第1条⑶)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  親権の行使について争いがある場合には,裁判所が決定をする(上記1 参照)。

  •  裁判官は,決定の審理に際して,証拠に基づく事実認定をするが,その際に証拠書類だけでなく,証人尋問が行われる。証人尋問は医師や心理学 者,教育学者等の専門家証人によって行われることもある。

  •  子の福祉に関するサービス(子の福祉の促進,裁判所への情報提供,当事者に対する手続に関する助言等)を提供するCAFCASS(Children and Family Court Advisory and Support Services,司法省が所管する政府外公共機関)が,子や家庭に関する手続についての助言や支援をする。裁判所は,CAFCASSの職員に対して,子に関する調査及び報告を命じ,その報告内容を参考にして決定をすることもできる。

  •  なお,両親間での取決めや裁判所の決定に対して,両親の一方が従わない場合は,裁判所に対して執行命令の申立てをすることができる。執行命令に従わないと,合理的な理由を説明しない限り,法廷侮辱罪に問われ得る。

3 共同親権行使における困難事項

  •  例えば,子をどこの学校に通学させるかという問題があり得る。

  •  その他,一般的に,判断が困難で,決定までに時間がかかる案件としては,①医療記録や警察記録の入手が必要となる事案¹⁷,②争点が複数あり証拠量が膨大な事案,③国際的な要素を含む事案が挙げられている。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

未成年の子の有無にかかわらず,協議離婚は認められず,裁判所の決定が必要である(1973年婚姻事件法第1条)。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 面会交流は認められているが,判例上,親の権利ではなく,子の権利とされている。両親は離婚後も親権を保持していることから,親の責務の一環として,子と面会交流をすることになる。面会交流は,離婚の合意又は裁判所による子に関する取決決定に従って行われることになる(決定方法については,上記1及び2参照)。なお,離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていない¹⁸。

⑵ 面会交流の支援制度

  •  両親間の対立が激しい,交流が断絶している等,何らかの理由で,両親が子との面会交流を実行することができない場合には,CAFCASSの家庭裁判所アドバイザーが提供するCCIs(Child Contact Interventions)を利用することができる。CCIsは,担当者による監督の下,面会センターで子との面会を実施したり,両親に対して将来の面会交流の調整を促したりする。

  •  また,面会交流の取決決定に従わないことは,法廷侮辱罪に該当し得る(上記2参照)。

6 居所指定

 親権を有する者は,原則として,他の親権者の同意なく親権を行使することができる(上記1参照)。したがって,子の監護教育のために,子と共に転居することについて,他の親権者から同意を得る必要はない。ただし,子を外国に連れて行く場合には,法律上,親権者全員から同意を得なければならない(1984年児童誘拐法第1条)。もっとも,1か月以内の旅行であれば,子と同居する親は,他の親権者の同意なく子を外国に連れて行くこと ができる。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に養育費の支払について取決めをすることは義務付けられていない¹⁹。
 養育費の決定方法としては,両親間で合意する,公的行政機関のスキームを利用する,又は裁判所の命令を取得するという三つの方法がある。公的行政機関によるサービスは以下の三つのものがある。
ア 養育費算定のための計算式の提供
 子の人数,受給している手当,収入等必要事項を入力することで,養育費の額を自動で計算することができる計算式が提供されている。これにより,両親は養育費の額についての目安を知ることができ,目安に基づき養育費の取決めを行うことが可能になる。
イ CMOによる情報提供
 CMO(Child Maintenance Option)という行政機関において,養育費の取決めに必要な情報提供等を行い,両親間の合意を促す。
ウ CMSの利用(合意が成立しない場合)
 CMS(Child Maintenance Service)が,養育費の取決めのみならず,所在不明となった親の探索,養育費の支払に関する法的執行力の付与,徴収,養育費の見直し,養育費の不払への対処等を行っている。ただし,同サービスの利用には,利用料がかかることから,政府としては,CMSの利用よりも,両親の合意による養育費の取決め及びその自主的な支払又は直接徴収による方法を利用することが望ましいとしている。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 上記⑴ウのCMSが,養育費徴収のためにも用いられる。

8 嫡出でない子の親権

 一定の事情がある場合²⁰には,父親にも親権が認められる(1989年児 童法第2条⑵)。

¹⁷ これらの情報は,個人情報保護の観点から,裁判所による命令がないと入手することができず,入手まで相当の期間を要する。
¹⁸ 1973年婚姻事件法においては,離婚時に,子の福祉に関する取決めがされていない限り,離婚判決をすることができないとされていたが,2014年に当該条文が削除された。
¹⁹ 1973年婚姻事件法においては,離婚時に,子の福祉に関する取決めがされていない限り,離婚判決をすることができないとされていたが,2014年に当該条文が削除された。
²⁰ ①母と共に子の出生登録をして出生証明書に父としてその名が記載された者,②親権取得に係る母の同意を得た者,③裁判所による親権命令を得た者,④子に関する取決決定において子と同居する者としてその名が挙げられている者,⑤子の親権者死亡後に後見人と なった者。

第3 オランダ

1 離婚後の親権行使の態様

 両親は,離婚後も共同して親権を行使することが原則である(民法第251条第2項)。単独親権にするためには,両親の一方又は双方の申立てに基づく裁判所の決定が必要であるが,厳格な規定が存在する(同条a)²¹。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  両親の一方又は双方の申立てに基づき,地方裁判所において決定がされる(民法第253条a)。地方裁判所は,親権の行使に関する調整をすることも可能である。具体的には,子の監護及び養育義務を各親に分配すること,子の最善の利益に資する場合には一方の親との接触を一時的に禁じることなどができる(同条a第2項参照)。

  •  裁判所は上記決定の前に,両親に和解勧試をすることも可能である。また,和解が不可能な場合には,裁判所の職権又は両親の申立てに基づき,子の利益に反しない限り,法的な強制措置を課すか,又は裁判所の命令が即時の効力を有する旨の決定をすることができる(同条a第5項)。

  •  裁判所は,子の保護のための関係機関であるCPA(Child Protection Agency)に追加の調査を求めることもできる。

3 共同親権行使における困難事項

 子の居所に関する紛争が典型例である。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 未成年の子の有無にかかわらず,当事者の合意のみの協議離婚は認められず,離婚は常に裁判所においてされる。離婚時に子がいる場合には,離婚請求は,養育計画(parental plan)の提出と共にされなければならない。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 面会交流の具体的な内容は,養育計画(上記4参照)において定めることが必要であり(民法第815条第3項a),離婚時に取決めをすることが義務付けられている。

⑵ 面会交流の支援制度

  •  面会交流に何らかの妨害があった場合には,面会は監督下に置かれ得る。オランダには,面会交流・調整を監督する組織(通称「Contact houses」)が複数あり,面会交流を一時的に監督している。また,面会交流に障害が生じた場合には,当事者は,仲裁等のADRを通じて,現在及び将来の障害を取り除くことができる。これらの手続は,当事者の任意又は社会福祉士(social worker),医師,法律家若しくはYouth Care Officeの助言に従ってされる。裁判官も仲裁手続を活用することができる。

  •  CPAは,裁判官の求めにより面会交流を再開するための助言等を行わなければならない。

  •  裁判官は,面会交流の障害が事実上のものであるのか,又は両親の紛争によるものであるかを審査するため,試行的な面会交流をさせることできる。

6 居所指定

 同居親が子と共に居所を変更しようとする場合には,他方の親の同意を得る必要がある。同意が得られない場合には,裁判所に判断が委ねられる。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 養育費については,養育計画(上記4参照)において定めることが必要であり(民法第815条第3項c),両親は離婚時に取決めをすることを義務付けられているといえる。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 子の養育費が,過去6か月間において1度も支払われない場合には,子等の申立てに基づき,国家養育費徴収庁(National Maintenance Collection Agency)により,養育費の回収に向けた手続が進められる(同法第408条参照)。 具体的には,養育費支払義務者に対しては,支払が未了であり支払額が 増額となる旨の通知が発せられ,通知から14日が経過した後に養育費 の回収が執行される(同条第5項)。

8 嫡出でない子の親権

 子を認知した者が子の母と共に裁判所に対して親権に関する申出をした場合に,当該者も共同で親権を行使することとなる(民法第252条,第253条b,第253条c参照)。

²¹ ①両親の間に挟まれて子が迷い又は身動きが取れなくなるおそれがあり,その状態が近いうちに十分に改善されることを期待することができないとき,又は②子の最善の利益に照らして親権者の変更が必要なときにのみ単独親権とされる(民法第251条a第1項)。

第4 スイス²²

1 離婚後の親権行使の態様

  •  別居時・離婚後も共同親権を原則とし,単独親権は例外となる(民法第296条第2項)。単独親権となるのは,子の幸福を確保する上で必要な場合に限定される(同法第298条第1項,第298条b第2項,第29 8条c)。共同親権を有する親が別居する場合には,養育について決定す る必要があり,単独養育又は交互養育が行われる。

  •  親権の内容である子の居所の決定,扶養・養育の実施,第三者に対する子の代理,子の財産管理の全てが共同親権の対象となる。基本的には,全ての内容を両親が共同で決定することが必要であるが,両親が別居しており,話合いをすることが難しい場合には,子を養育する一方の親が単独 で,必要な又は急を要する事項について決定し,他方の親が合理的な異議を申し立てないことをもって有効とする措置が認められている(同法第301条第1項)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  子の養育をめぐり両親の意見が対立し,子の幸福が脅かされる場合には,裁判所は,離婚調停又は離婚判決の変更手続において,子の保護措置を講じることができる。

  •  なお,裁判所は,離婚調停において決定を下す際に専門家に鑑定を求めることができる。児童保護所が担当するケースにおいても同様である。

3 共同親権行使における困難事項

 子の信仰上の教育について両親の考えが一致しない場合が該当する。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

  •  未成年の子の有無にかかわらず,協議離婚は認められておらず,裁判手続が必要である。夫婦が合意に基づいて離婚を望む場合も,裁判所の承認が必要であり,裁判所は,当該合意が自由意思に基づき,熟考及び子の扱いに関する合意を経て承認可能となることを説諭する必要がある(民法第111条)。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め

  • 面会交流の方式については,離婚手続において,裁判所によって決定される(民法第133条)。

  •  もっとも,面会交流が子の福祉を制約する場合には,両親は,両親間の合意に基づく裁判所の決定に拘束されない(ただし,当該決定に法的拘束力がなく,実現性が確保されない場合に限られる)。一方の親が他方の親の意思に反して面会交流に関する新たな決定を求める場合には,児童保護所が申請に基づいて決定する(同法第275条第1項)。

  •  面会交流が子の幸福を阻害する場合には,児童保護所は,両親に対して警告又は指導を行うことができる。また,児童保護所は,面会交流の適切な実施のために後見人を任命することができ(同法第308条第2項),面会交流権を制限,拒否又は剥奪することもできる(同法第273条第2項,第274条第2項)。

⑵ 面会交流の支援制度
ア 民間又は公共の機関により,両親のための教育コースが提供される。
イ 両親は児童保護所に支援を求めることもできる。面会交流の実施や不実施が子に否定的に作用する場合には,児童保護所は両親や子に対して警告又は指導をすることができる(同法第273条第2項,上記⑴ 参照)。
ウ 裁判所や児童保護所が,立会人を付した面会交流等,特別な方式を命じることも可能である。裁判所又は児童保護所は,立会人を任命することができ(同法第308条),同制度の枠内で民間の機関が立会人や面会場所を提供することもできる²³。

6 居所指定

 居所指定権は親権の一内容であることから(民法第301条a第1項),共同親権下においては,一方の親が,子の居住地を外国等,他方の親による面会交流の実施に著しい影響を及ぼす場所に変更したい場合には,他方の親の同意を要する(同条a第2項)。他方の親が同意しない場合には,裁判所又は児童保護所が決定を行う。なお,一方の親が(親権を喪失することなく)居住地決定権を喪失する場合,又は親権を有しない場合には,当該親による同意及び裁判所・児童保護所による決定は不要であるが,当該親に対し,適時に居住地の変更の通知をすることは必要である(同条a第3項)。

7 養育費(養育費支払実現のための制度・援助)

⑴ 行政による支援措置
 養育費の支払義務を負う親が当該義務を履行しない場合には,州法が指定する部局が,子又は他方の親の要請に基づき,適切な方法により無償で義務の履行を支援する(民法第290条第1項)。

⑵ 司法による支援措置
 両親又はそのいずれか一方が義務を怠る,逃避を企図する,又は財産を浪費する場合には,裁判所は,当該親の債務者(雇用者など)に対し,支払の全部又は一部を子の代理人に対して直接支払うことを命令することができる(同法第291条)。

8 嫡出でない子の親権

 父が子を認知する場合には,両親による宣言に基づき,共同親権が発生する(民法第298条 a 第1項)。裁判により父子関係が確定する場合には, 当該裁判と同時に共同親権が発生する(同法第298条1c)。

²² 条文訳は,松倉耕作「共同配慮権とスイス新法」名城ロースクール・レビュー31号1 45頁以下参照。
²³ なお,面会交流の実施が親の経済力に依存してはならないとの観点から,面会権を有する親に支払能力がない場合には,一般的に州や自治体が費用について負担することが可能である。面会に要する費用負担を含む支援については,州及び自治体の権能に属し,連邦法による規律は存在しない。

第5 スウェーデン²⁴

1 離婚後の親権行使の態様

  •  離婚後も,両親が合意をすれば,親権を共同行使するものとすることが できる。

  •  両親が親権を共同行使する旨の合意をしない場合は,①裁判所に決定を求めて申立てをするか,②両親のそれぞれが親権を保持したまま,親権の行使について争いが生じたときは両親の合意により解決することになる。
     ①裁判所が決定をする場合には,両親が合意可能な解決を追求することが目的とされ,子の最善の利益が最も重視される。両親との緊密で良好な交流のための子のニーズに対する特別の注意が必要とされ,両親の一方が他方の親と子との交流をどの程度認めるかということも考慮しなければならない。
     ②両親の合意による解決を図る場合には,社会福祉委員会が当該合意を承認する必要がある。社会福祉委員会の承認がされた場合には当該合意は法的拘束力を有するため,合意は両親の署名の付された書面により作成されなければならない。なお,社会福祉委員会は,合意された内容が子の最善の利益にかなうものである場合,又は合意が共同親権を目的とするときにはこれが明らかに子の最善の利益と相いれないものでない場合には,その合意を承認しなければならない。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  上記1①②も参照。

  •  共同親権は,両親が対立せずに子に関する問題の解決に協力することを前提としていることから,裁判所は,両親の協力能力を特に考慮しなければならない。

  •  裁判所は,決定以前に親権,居住地及び連絡先に関する問題が適切に調査されていることを確認しなければならない。また,裁判所は,社会福祉委員会に対し,必要な情報の提出の機会を与えなければならず,また,社会福祉委員会に対して調査を指示することができる。社会福祉委員会は,通常,子及び親の両者と面接を実施する。

3 子がいる場合の協議離婚の可否

 いかなる場合も協議離婚は認められておらず,裁判手続が必要である。

4 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め

  •  面会交流は認められているが,離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていない。

  •  面会交流は,子の利益及びニーズに基づき,その具体的内容が決定される。面会交流は親についての無制限の権利というわけではなく,非同居親は,子のニーズを確実に充足する責任を負う。

⑵ 面会交流の支援制度
 裁判手続前又は裁判手続中の支援と,裁判手続終了後の面会交流が円滑に実施されることが目指されている。
ア 裁判手続前・裁判手続中の支援措置
 社会福祉委員会が,裁判手続前又は手続中に両親間の協力のための協議を打診する。この協議は専門家の指導の下で実施され,親権,居住地及び連絡先(交流)に関する問題について合意することを目的としている。地方公共団体は,両親間の協力のための協議を無料で実施する責任を負う。
イ 裁判所の決定
 裁判所は,面会交流について,社会福祉委員会により任命された者が支援しなければならないと決定することができる。また,面会交流は両親にとって中立的な場所で実施されなければならないと決定することもできる。

5 居所指定

 親権の単独行使が採用されている場合には,親権者が子と共に転居をするに当たり他方の親の同意が必要であるという法的制限はない。ただし,いずれの親も,子が他方の親と交流するニーズを確実に充足する責任があることには注意が必要である²⁵。他方で,親権の共同行使が採用されている場合には,同居親が子と共に転居をするに当たり非同居親の同意が必要である。

6 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか

  •  離婚時に養育費について取決めをすることは義務付けられていない。

  •  両親の離婚後に,子がいずれの親ともほぼ同程度に緊密に生活する場合には,いずれの親も養育費を支払う必要はなく,いずれかの親が他の親よりも子とより緊密に生活する場合には,各親は養育費の金額について合意することができる。その金額については,裁判所が決定することもできる。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 養育費支払実現のための直接的な制度というわけではないが,両親の一方が養育費を支払わない場合には,保護費(親が低所得である場合に,子が国から受領し得る費用)が同居親に支払われることもある。この場合には,国は養育費を支払わない非同居親に対し,保護費分を求償することができる。

7 嫡出でない子の親権

 両親は,社会福祉委員会又は税務当局への共同の申請により登録されれば,嫡出でない子について,親権を共同行使することができる。母が親権の共同行使に同意しない場合に,子の父が母による親権行使の在り方を争うためには,裁判所に申立てをしなければならない。

²⁴ 千葉華月「北欧法」床谷文雄=本山敦編『親権法の比較研究』(日本評論社,2014 年)254頁以下,髙橋睦子「面会交流と子どもの最善の利益」法律時報85巻4号63 頁以下。
²⁵ 例えば,親権者は,子が交流する権利を有する他方の親と交流するための交通費を支払う義務が法に規定されている。

第6 スペイン

1 離婚後の親権行使の態様

 両親はいずれも,離婚後も親権を有することができる(民法第92条第1項)。ただし,子の利益を考慮して,当事者の合意又は裁判所の決定により,単独親権とすることもできる(同条第4項)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  民法第156条により,以下のように定められている。
    ① 両親の意見が一致しない場合には,両親のいずれも裁判所に訴えることができ,裁判官は,両親のいずれか一方に決定権限を付与する。
    ② 両親間の意見の不一致が繰り返される場合又は親権の行使が重大に遅延される事由が存在する場合には,裁判官は,両親のいずれか一方に親権の全部又は一部の行使を認めるか,又は両親のそれぞれに行使すべき親権を分配することができる。このような措置の有効性は,裁判官が定める期間内に限られ,また,当該期間は2年を超えることができない。

  •  裁判官の判断を補助するために,裁判官は,「自己の権限で又は父母の一方の要請により,適切な資質を有する専門家に対し,親権の行使の態様の適切性及び未成年の子の監護の態様に関する見解を求めることができる。」(民法第92条第9項)

3 共同親権行使における困難事項

 学校の選定,洗礼等の宗教儀式,特別な出費等が該当する。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 我が国のような協議離婚は認められず,裁判所が関与し,夫婦間の離婚協定を裁判官が承認するという形で離婚が認められる。当該手続は未成年の子がいる場合にも認められる。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 面会交流の内容について,離婚時に取決めをすることは義務付けられていない。

⑵ 面会交流の支援制度
 州や市が「家族支援センター」を通じて支援を実施している。

6 居所指定

 転居は,親権の行使に影響することから,他方の親の同意が必要となり, 同意が得られない場合は,裁判官の判断に委ねられる。また,裁判官は子の 居住地の変更前に,当該変更を阻止する決定を行うことができる(民法第1 58条)。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
離婚時に養育費について取決めをすることは義務付けられていない。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 州や市が「家族支援センター」を通じて支援を実施している。

8 嫡出でない子の親権

 認知等により法的な親子関係が確定した場合には,確定した親が親権を行使することになる(民法第108条,第120条)。

第7 ドイツ

1 離婚後の親権行使の態様

  •  両親は離婚後も親権(ドイツでは「親の配慮」という用語が採用されているが,本報告書においては,以下においても,「親権」と記載する)を 共同で行使することが原則であり(民法典第1687条),一定の場合に,単独親権とすることが認められている。具体的には,両親間の協議により,一方の親への権限委譲を行うことができる。協議が調わない場合は,申立てに基づき,家庭裁判所が決定する。権限委譲は,親の一方が同意しており,かつ14歳以上の子が反対していない場合,又は共同親権の終了や申立人への委譲が子の福祉にかなうと期待される場合に認められる(同法典第1671条第1項)。

  •  共同親権の場合には,子にとって著しく重要な事柄²⁶の決定には両親の合意が必要である(同法典第1687条第1項第1文)。子の日常生活に関する事柄については,同居親が単独で決定する権限を有する(同項第2 文)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  子にとって著しく重要な事柄について両親間で合意に至らない場合には,家庭裁判所は,両親の一方の申立てに基づき,両親のいずれか一方に決定を委ねることができる(民法典第1628条)。この場合には,それぞれの親の子に対する権利及び義務の適切な行使のため,親の一方は他方に対して情報を要求することができる(同法第1686条)。

  •  両親が離婚(別居)をする際は,子の将来の養育,教育,監督をいかに保証するかについて合意しなければならないが,その際,例えば,子の居所について合意をすることができない場合には,両親は,いずれも自己に親権の全部又は一部,例えば子の居所指定権を自己に委譲するよう申し立てることができる(同法第1671条)。この申立ては,共同親権の終了や申立人への居所指定権の委譲が子の福祉にかなうと期待される場合に認められる(同条第1項)。

  •  裁判所は判断の際に,少年局から意見を聴取し,また,専門家の支援を受けることができる。少年局は,子に対する保護が問題となる事案の全てにおいて家庭裁判所を支援する。少年局の使命は,子の置かれた状況の改善への寄与であり,提供可能なサービスに係る情報を提供し,子の成長のための教育的・社会的観点を示し,また,様々な可能性を指摘する。裁判所は,鑑定を命じることもできる(家庭事件及び非訟事件の手続に関する法律第163条)。鑑定は適切な専門家により行われる必要があり,専門家は少なくとも心理学,心理療法,児童・少年精神学,精神学,医学, 教育学,社会教育学の職業資格を有するべきものとされる。

3 共同親権行使における困難事項

 困難事案としては,子の居所指定をめぐる問題が挙げられる(上記2参 照)。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 子の有無にかかわらず,離婚は夫婦の一方又は双方からの申立てに基づく裁判所の決定によってのみ行われる(民法典第1564条)。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流の内容について取決めをすることは義務付けられていない。

⑵ 面会交流の支援制度
ア 両親への援助
 別居・離婚した両親は,予防的な家族関係相談,パートナー関係紛争相談を求めることができる(社会法典第8編第17条第1項)。援助人は,両親が子を保護する責任を遵守することができるように支援をするところ,これには面会交流の調整も含まれる。 また,両親は,面会交流の実施について,少年局又は民間機関の助言 や支援を受けることができる。支援としては,面会交流の取決めの仲介, 実施の仲介,又は面会交流の際の付添いを受けることができる。
イ 子への援助
 子は,面会交流の実施に際し,少年局又は民間機関の助言・支援を受けることができる(同法典第18条第3項第1文)。子は,この支援を年齢や発達段階に応じて受けることができる。

6 居所指定

  •  子の転居は,子にとって著しく重要な事項に該当し,両親の合意がなければ認められない(民法典第1687条第1項第1文,上記1参照)。ただし,子の生活が専ら両親の一方の家計に基づいて形成されている場合には,当該親は,共同親権を有する他方の親の同意がなくても,都市の管轄区域内では転居することができる。また,単独親権の場合又は居所指定権を単独で行使可能な場合には,他方の親の同意は不要である。

  •  子の転居について両親間で合意に至らない場合には,少年局に助言・支援を求めることができる(社会法典第第8編,上記5も参照)。

  •  仮に少年局の援助によっても両親が合意に至らない場合には,両親はいずれも,家庭裁判所に対し,自己に当該転居の決定権限を委譲するよう (同法第1628条),又は必要と認められるときは居所指定権の委譲を申し立てることができる(同法第1671条第1項)。裁判所はこうした 申立てについての判断に際して,現実の状況及び関係者の正当な利益等を考慮し,子の福祉にとって最適な決定を行う(同法第1697条a)。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に養育費について取決めをすることは義務付けられていない。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 少年局による広範な援助が存在する(少年局については,上記2及び5 ⑵も参照)。
ア 養育費の金額決定や,対話を通じた関係者間の合意形成を対象とする。
イ 養育費に争いが生じた場合には,援助人は養育費をめぐる裁判手続において子を代理する。
ウ 養育費支払義務者が義務を履行しない場合には,強制執行(例えば賃金差押え)についても援助が行われる。
エ 裁判上認められた養育費請求権が変更されるべき場合にも,援助は行われる。養育費支払義務者の収入額が変化した場合には,援助人は子の福祉のため,養育費の金額引上げを求め,又は支払義務を負う親からの養育費の金額引下げ要求に対して,子を代理して対応する。なお,援助人は少年局により提供されるボランティアであり,サービスは無償である。

8 嫡出でない子の親権

 原則として母の単独親権であるが,両親が共同で親権を行使することを希望する旨を表明したとき,両親が婚姻したとき,又は家庭裁判所が両親に親権を委譲するときに共同親権となる。

²⁶ 子にとって著しく重要な事項としては,居所指定,子の教育に関する根本的な問題,施設・学校の選択,選択した学校教育の中断又は変更,職業教育の終了など,また,重大な合併症や副作用の危険がある医療的措置の決定が挙げられる。

第8 フランス

1 離婚後の親権行使の態様

 離婚後も原則として両親が共同して親権を行使する(民法典第3732条第1項)。例外として,子の利益に必要な場合には,家事事件裁判官は,離婚後の親権行使を両親の一方に委ねることができる(同法典第3732-1条第1項)。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

  •  親権行使について両親が合意しない場合には,両親の一方又は検察官は,家事事件裁判官に申立てをすることができ,裁判官は親権行使の態様について決定することができる(民法典第373-2-8条)。裁判官は,当事者を勧解させるように努めるほか(同法典第373-2-10条第1項),両親に調停を提案し,両親の同意を得て家事調停者を指名することができる(同条第2項)。

  •  裁判官の判断への専門家の関与としては,以下の二つが挙げられる。家事調停者が指名された場合には,家事調停者が必要に応じて両親と面会し,両親に対し,調停の目的や進行について情報提供を行う(同条第3項)。家事調停者は,両親と面会し,その議論に参加することで,両親が合意に基づいて親権行使を行うことができるようにするための役割を担う。裁判官は,社会調査官に対して,家族状況,生育・育成状況に関する情報を調査する社会調査を命じることができる(同法典第373-2-11条第5号,第373-2-12条)。社会調査官は,近隣住民や通学先の学校に照会するなどして必要な情報収集を行う。

3 共同親権行使における困難事項

 個別の事案によるが,居所の形態のほか,子の教育方針が該当する。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 未成年の子がいても,一定の要件を満たせば協議離婚が認められる。
 2015年の法律により,協議離婚(相互同意離婚)が広く認められることになった。両親は,裁判官による聴聞を受ける権利について通知を受けていた子が当該聴聞を求めた場合を除き,協議離婚を行うことができる(民法 典第229条,第229-2条第1号,第388-1条)。なお,協議離婚 といっても,裁判所が関与しないということであり,弁護士の連署又は公証人による原本証明を経た私署証書による必要があり,法律の専門家の関与 はある。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流の態様について取決めをすることが法的に義務付けられているわけではないが,両親は離婚時に面会交流の態様について合意し,家事事件裁判官がこれを認可することができる(民法典第286条,第373-2-7条)。また,両親の一方又は検察官の申立てに基づき,裁判によって定めることもできる(同法典第373-2-8条)。さらに,両親が合意をせず,子の居所が両親の一方の住所に定められたときは,家事事件裁判官は,面会交流の態様について定める(同法典第373-29条第3項)。仮に単独親権となっても,親権を有しない親による訪問権及び(子を)宿泊させる権利の行使は,重大な事由による場合を除き,他方の親には拒否され得ないとされている(同法典第373-2-1条第 1項)。

⑵ 面会交流の支援制度

  •  面会交流の態様について争いがある場合には,裁判官は,両親の合意を促し,また,両親の同意を得て家事調停者を指名することができる (上記2も参照)。

  •  裁判官は,面会場における訪問権の行使を定めることができる(同条第3項)。面会場は,臨床心理学者,家族臨床医,ソーシャルワーカー等によって設けられ,訪問権の行使に際し,子を保護し,両親に安心感を与え,自立し,かつバランスのとれた関係を築くための場所である。

  •  子の利益に鑑み必要な場合又は他方の親への子の直接引渡しに危険がある場合には,裁判官は,子の引渡しが面会場において,又は信頼できる第三者若しくは資格を有する法人の代表者の援助を受けてされるべきことを定めることができる(同条第4項)。

6 居所指定

 離婚した両親の一方は,親権の行使の態様を変更するような住所変更をする場合には,事前かつ適時に他方の親に対して通知をしなければならない(民法典第373-2条第4項)。

7 養育費(扶養定期金)

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に扶養定期金について取決めをすることが法的に義務付けられているわけではないが,両親は離婚時に扶養定期金について合意し,家事事件裁判官がこれを認可することができる(民法典第286条,第373-2-7条)。また,扶養定期金については,両親の一方又は検察官の申立てに基づいて裁判によって定めることができる(同法典第373-2-8条)。決定における家事調停者の援助等は,面会交流の場合と同様である。

⑵ 扶養定期金支払実現のための制度・援助

  •  扶養定期金の債権者は,扶養定期金の直接弁済手続により,金額が確定し,かつ,期限が到来した債務を負う第三債務者に対して,その定期金を直接取り立てることができる(民事執行法典L13-1条)。

  •  債権者は,直接弁済手続等の他の私法上の執行手続を試みたにもかかわらず扶養定期金の全部又は一部を得られなかった場合には,扶養定期金の公的取立制度を利用することにより,債権者に代わり国庫の公会計官をして執行力を有する判決等によって定められた扶養定期金の取立てを行わせることができる(扶養定期金の公的取立てに関する1975年7月11日の法律75-618号)。

8 嫡出でない子の親権

 父子関係が成立すれば,原則として両親の共同親権となるが,親子関係の成立が子の出生から1年以上経過した後である場合などは,単独親権となる(民法典第373条第2項)。ただし,この場合も,父母の共同の申立て又は家事事件裁判官の決定に基づき,共同親権が認められる(同条第3項)。

第9 ロシア

1 離婚後の親権行使の態様

 離婚後も両親が共同で親権を行使する。

2 離婚後の共同親権行使についての両親の意見が対立する場合の対応

 子の養育に関する問題を裁判所が決定する際,後見・保佐機関が裁判官の 判断を補助する役割を担っている。同機関は事件に参加し,当事者の生活状 況を調査し,紛争内容に関する意見を裁判所に提出する義務を負う(家族法 典第78条)(後記4も参照)。

3 共同親権行使における困難事項

 夫婦が話合いを拒否している事案や,今までの主な監護者の認定が困難 な事案では,判断が難しいとされている。

4 子がいる場合の協議離婚の可否

 未成年の子がいる場合は,協議離婚は認められず,離婚は裁判手続で行われる(家族法典第21条)。離婚裁判において,親権に関する取決めも調整・決定されるが,大多数の事案においては,事前に夫婦間で協議・合意の上,書面での取決めが行われている。仮に親権に関する紛争が離婚裁判で解決されない場合には,後見・ 保佐機関の関与も得て,子の利益に係る個別的な裁判手続が行われる。

5 離婚後の面会交流

⑴ 面会交流についての取決め
 離婚時に面会交流について取決めをすることは義務付けられていないが,取決めを行っていれば,離婚裁判の審理に際し,裁判所に提出することができる(家族法典第24条)。

⑵ 面会交流の支援制度
 面会交流に限らず,取決め事項や法的に決定された事項が実現されない場合には,裁判実施前に裁判所職員(執達吏)が不履行者に対し,不履行によりもたらされる具体的な不利益(裁判所が強制執行を含む不利な決定を下す可能性の示唆)を説くなどして,履行することの重要性につき説明を行う。

6 居所指定

 同居親が転居する場合に他方の親の同意を要するなど,何らかの制限を規定している法律はない。ただし,実務上,両親が離婚時に取り決める親権行使の手続についての書面(上記4参照)に,転居に関する同意事項を盛り込み,何らかの制限や通知義務を設けるのが一般的である。

7 養育費

⑴ 離婚時に取決めをすることが義務付けられているか
 離婚時に養育費について取決めをすることは,法的には義務付けられていないが,取決めを行っていれば,離婚裁判の審理に際し,裁判所に提出することができる(家族法典第24条)。

⑵ 養育費支払実現のための制度・援助
 養育費について独自の制度はなく,取決め事項や法的に決定された事項が実現されない場合の対応方法により,支払実現を図っている(詳細は上記5⑵参照)。

8 嫡出でない子の親権

 父が子を認知した場合には,父母が共同で親権を行使することになる(家族法典第53条)。

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