じんけいこ

物語好きな日本語学習者さん向けに、青空文庫の短編をかんたんな日本語にして掲載しています…

じんけいこ

物語好きな日本語学習者さん向けに、青空文庫の短編をかんたんな日本語にして掲載しています。ゆるくN2レベルを想定しています。 中の人:何でもやりたがりのR50。大学生と高校生を育成中。2021年、ゆる副業としてオンラインで日本語講師をスタート。基本的にいろいろゆるく生きています。

最近の記事

「秋と漫歩」萩原朔太郎

「秋と漫歩」萩原朔太郎  四季を通じて、私は秋という季節が一番好きである。もっともこれは、たいていの人に共通の好みだろう。  元来、日本という国は、気候的にはあまり住みやすい国ではない。夏の湿気の多さ、蒸し暑さは世界に比べるものが無いほどだといわれている。それに、春は空が低く憂鬱で、冬は紙の家の設備に対して、寒さがすこしひどすぎる。(しかもその紙の家でなければ、夏の暑さをしのぐことができないのだ。)日本の気候では、ただ秋だけが快適で、人間の生活環境によく適している。  だが

    • 「注文の多い料理店 序」宮沢賢治

      『注文の多い料理店』序宮沢賢治 わたしたちは、氷砂糖を好きなだけ手に入れることができなくても、きれいに透きとおった風を食べ、桃色の美しい朝の日光を飲むことができます。  またわたくしは、畑や森の中で、ぼろぼろの着物が、いちばん素晴らしいビロードやラシャや、宝石入りの着物に変わっているのを何度も見ました。  わたくしは、そういうきれいな食べ物や着物が好きです。  これらのわたくしのお話は、みんな林や野原や鉄道線路にいるとき、虹や月明かりからもらってきたのです。  柏の林の青い夕

      • 「注文の多い料理店」宮沢賢治

        「注文の多い料理店」宮沢賢治  二人の若い紳士がいました。イギリスの兵隊のような服を着て、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二匹つれていました。二人は、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたところを、こんなことを言いながら、歩いていました。 「このあたりの山はけしからんね。鳥も獣も一匹もいない。なんでもいいから、早く鉄砲でタンタアーンと、やってみたいもんだなあ。」 「鹿の黄色い腹に、二三発、弾を当てたら、気分がいいだろうねえ。鹿はくるくるまわって、それからどたっと倒れ

        • Transcript of 一関のもち

          みなさん、こんにちは。日本語の旅へようこそ。 今回は、岩手県一関市に、お餅を食べに来ました。 日本ではお正月にお餅を食べるのが一般的です。 でも、ここ一関市ではもっと日常的にお餅を食べる文化があります。 お餅に付けるタレも種類がたくさんあるんですよ! 東北新幹線の一ノ関駅からとても近い場所にある「ふじせい」というレストランです。 メニューはいろいろありますが、私のお目当ては、コレ、「ひと口もち膳」です。 いろいろな味のお餅を、一口サイズで、少しずつ食べてみることができ

        「秋と漫歩」萩原朔太郎

          「白椿」夢野久作

           ちえ子さんは可愛らしいきれいな子でした。でも、勉強が嫌いで遊んでばかりいるので、学校を何回も落第しました。そして、お父さんやお母さんに叱られるたびに、「ああ、嫌だ嫌だ。勉強しないで成績が良くなる方法は無いかなあ」と、そればかり考えていました。  ある日、算数を勉強していましたが、どうしてもわからない上に眠くてたまりません。大きなあくびを一つしてお庭に出てみました。お庭には白い椿が一つだけつぼみを開いていました。ちえ子さんはそれを見て、「ああ、こんな花になれたらいいなあ。学校

          「白椿」夢野久作

          Transcript of「仙台七夕祭り」

          みなさん、こんにちは! 今回は仙台七夕祭りをご紹介します。 仙台七夕祭りは、日本でいちばん大きな七夕祭りです。 それでは、行きましょう! 仙台駅です。 エスカレーターで下におります。 お祭りなので、普段より人が多いです。 駅の外に出ました。 お祭りの屋台が出ていますね。 七夕祭りの会場へ向かいます。 風が強い… このアーケードが会場です。 エスカレーターで下におります。 この飾りは吹き流しといいます。 七夕の飾りは7種類あって、 吹き流しはその中の

          Transcript of「仙台七夕祭り」

          「明日」新美南吉

          「明日」新美南吉 花園みたいに待っている。 祭みたいに待っている。 明日がみんなを待っている。 草の芽 あめ牛、てんとう虫。 明日はみんなを待っている。 明日はさなぎが蝶になる。 明日はつぼみが花になる。 明日は卵がひなになる。 明日はみんなを待っている。 泉のようにわいている。 ランプのように灯ってる。

          「明日」新美南吉

          「桜の樹の下には」梶井基次郎

          「桜の樹の下には」梶井基次郎  桜の樹の下には死体が埋まっている!  これは信じていいことなんだよ。なぜって、桜の花があんなに見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二、三日、不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には死体が埋まっている。これは信じていいことだ。  どうして、俺が毎晩家へ帰って来る途中の道で、俺の部屋にたくさんある道具のうちの、よりによってちっぽけで薄っぺらいもの、安全剃刀の刃なんかが、頭に思い

          「桜の樹の下には」梶井基次郎

          「月夜の電信柱」宮沢賢治

           ある晩、恭一は草履を履いて、線路の横の平らなところをすたすた歩いていました。  たしかにこれは罰金を取られることです。おまけにもし汽車が来て、窓から長い棒などが出ていたら、一ぺんになぐり殺されてしまったでしょう。  ところがその晩は、線路を見回る作業員も来ず、窓から棒が出ている汽車にもあいませんでした。その代わり、実に変てこなものを見たのです。  新月から九日目の月(半月)が空にかかっていました。そして空いちめんにうろこ雲がありました。うろこ雲はみんな、月の光が腹の底までも

          「月夜の電信柱」宮沢賢治

          「座敷わらしの話」宮沢賢治

           ぼくらの地方の、座敷わらしの話です。  外が明るい昼間、みんなは山へ働きに出かけていました。子どもが二人、庭で遊んでいました。大きな家に誰もいませんでしたから、辺りはしんとしています。  ところが家の、どこかの座敷で、ざわっざわっとほうきの音がしたのです。  二人の子どもは、お互いの肩にしっかりと手を組みあって、こっそり行ってみました。でも、どの座敷にも誰もいません。刀の箱もひっそりとしています。ヒノキで作られた垣根が、とても青く見えるだけで、誰もどこにもいませんでした。

          「座敷わらしの話」宮沢賢治

          「殺人の涯(はて)」海野十三

           「とうとう妻を殺してしまった」  私は白い液体をかきまわしながら、独り言を言った。  その白い液体は、大きな金属製の桶に入っていた。桶の底は電気の熱で温められている。手を休める暇は少しもない。白い液体は絶えずグルグルと渦を巻いてかきまわされていなければならない。液体は白くなってきたが、もっともっと白くならなければならないのだ。まだまだかきまわし方が足りないのに違いない。私は落ちてきた実験用の白衣の袖を、また肘の上までまくりあげた。  実は、この白い液体の中には、妻の死体が溶

          「殺人の涯(はて)」海野十三

          「星めぐりの歌」 宮沢賢治

          赤い目玉の サソリ 広げた鷲の 翼 青い目玉の 小犬、 光の蛇の とぐろ。 オリオンは高く 歌い 露と霜とを 落とす、 アンドロメダの 雲は 魚の口の 形。 大熊の足を 北に 五つ伸ばした ところ。 小熊のひたいの 上は 空のめぐりの 目当て。 宮沢賢治「星めぐりの歌」 青空文庫:https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/46268_23911.html ちょっぴりやさしい日本語訳:じんけいこ 朗読音声:https://yo

          「星めぐりの歌」 宮沢賢治

          「木の祭り」新美南吉

           木に白くて美しい花がいっぱい咲きました。木は自分の姿がとても美しくなったので、嬉しくてたまりません。 でも、誰も「美しいなあ」とほめてくれる人がいないので、つまらないと思いました。木はほとんど人が通らない緑の野原の真ん中に、ぽつんと立っていたのです。  やわらかい風が木の近くを通って流れていきました。その風に木の花の匂いがふんわり乗っていきました。匂いは小さい川をわたって、麦畑をこえて、がけを滑りおりて、流れていきました。そして、とうとう蝶々がたくさんいるじゃがいも畑まで、

          「木の祭り」新美南吉

          「赤いろうそく」新美南吉

           山から里の方へ遊びにいった猿が一本の赤いろうそくを拾いました。赤いろうそくはめずらしいものです。だから猿は赤いろうそくを花火だと思ってしまいました。  猿は拾った赤いろうそくを大事に山へ持って帰りました。  山は大さわぎになりました。 なにしろ花火というものは、鹿も猪も兎も、亀も、いたちも、狸も、狐も、まだ一度も見たことがありません。その花火を猿が拾って来たというのです。 「ほう、すばらしい」 「これは、すてきなものだ」  鹿や猪や兎や亀やいたちや狸や狐が押し合いへしあいし

          「赤いろうそく」新美南吉

          「蜜柑」芥川龍之介

           ある曇った冬の夕方のことである。 私は横須賀 ぼんやりと発車の笛を待っていた。 すでに電灯のついた客車の中には、珍しく私のほかに一人も乗客がいなかった。 外を覗くと、うす暗いプラットホームにも、今日は珍しく見送りの人影さえなかった。 ただ、檻に入れられた小犬が一匹、時々悲しそうに、吠えていた。 これらの景色はその時の私の気持ちと、不思議なほど似ていた。 私の頭の中には言葉にできない疲労と倦怠があり、それはまるで雪の日の空のようなどんよりした影を落としていた。 私はコートのポ

          「蜜柑」芥川龍之介

          「蛙」芥川龍之介

           私が寝ころんでいる近くに、古い池があります。 そこに蛙がたくさんいます。  池のまわりには、一面にアシやガマがしげっています。 そのアシやガマの向こうには、背の高いハコヤナギの並木があります。そして、それらは上品に風にそよいでいます。 そのさらに向こうには、静かな夏の空があります。夏の空にはいつも、ガラスのかけらのような細かい雲が光っています。そうしてそれらが全て、本物の景色よりも美しく、池の水に映っています。  蛙はその池の中で、長い一日を飽きずに、ころろ、かららと鳴き暮

          「蛙」芥川龍之介