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秋の夜長は鈴虫とともに〜田舎暮らし40年③〜

 地球温暖化の影響でしょうか、6月7月に続き8月も猛暑が続きました。

 しかし、猛暑の8月でも暦の上ではすでに「立秋」とされています。
 このように暦の上と実生活との間に隔たりがあるのは仕方のないことです。

 さて、8月も下旬頃になると秋風が吹き始め、庭の草むらから虫の声が聞こえ始めます。
 数多(あまた)鳴く虫の中でも、リーンリーンと鳴く鈴虫の声がひときわ高く聞こえてきます。

 思い返すと、私も若かりし頃は虫の声など耳に残らず素通りしていました。
 虫の声が耳に残るようになったのは、子育ても終わり還暦を過ぎた頃だったように思います。

 私が鈴虫を飼い始めるようになったのは10年ほど前になります。近所の公民館で孵化した鈴虫の幼虫を分けてもらった事がきっかけです。
 鈴虫の餌は、茄子やきゅうり等ですが、カルシウム補給のために煮干しも与えます。今はホームセンターに鈴虫の餌が売られており、誰でも鈴虫を簡単に飼育できます。

 鈴虫の飼育を開始した当初、妻は胡散(うさん)臭そうに私のことを眺めておりましたが、今ではすっかり鈴虫のファンになりました。

 鈴虫の飼育は8月上旬頃から籠の中で始めますが、8月下旬頃になると庭の虫も鳴き始めますので、これに唱和して籠の鈴虫も鳴き始めます。

 鈴虫を含め虫の鳴き声は、万葉集にも詠まれ平安の貴族達にも愛されていたようです。

 清少納言の「枕草子」には「虫はすず虫。ひぐらし。蝶。まつむし。
きりぎりす。・・」と「すず虫」が筆頭にあげられています。

 貴族から始まった虫の声の鑑賞は、次第に下々に行きわたり、江戸時代には広く町民にまで愛されるようになりました。

 江戸の町には、虫の音を鑑賞する人々のために「虫売り」まで登場したというのですから驚きです。
 これ以外にも、夏の金魚や朝顔売り等、季節を彩る生業であふれていたそうです。

 10月中旬から、籠の中の鈴虫は1匹ずつ死に絶え、やがて籠の中は静寂になり、鈴虫の秋は終わるのです。
 鈴虫なき後の籠の土は、庭の草むらにそっと返します。

 鈴虫の籠飼いはSDGsの精神に反するのではと思いましたが、五万といる鈴虫の、ほんのひと握りを私が飼い、鑑賞してもSDGsの精神に反しないのでは、と密かに思っております。

 何よりも、天然のBGMの中で過ごす秋の夜長は、また一段と格別です。

 これからも、鈴虫を飼育してその可憐な鳴き声を楽しみたいと思います。

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