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大流行した万引き|高校で地元を離れた私

「いちこちゃん、先生のこと信用して、知っていること全部話してくれる?」

ある日、隣のクラスの担任に理科室に呼ばれた。いつかは来るだろうな〜と思ってたけど、やっぱり来た。まあいいや、全部洗いざらい喋ってやる。どうせ明日からはハブられて腫れ物生活だ。

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中3のある日、仲が良かった良美と一緒に、クラスメイトのめぐの家に遊びに行った。

「ちょっと見せたいものがあるから来て」

自信ありげに誘うめぐに、私も良美も興味津々だった。何だろう?

めぐは最初はそんなに目立つ存在ではなかったが、中2の後半くらいからどんどんと垢抜け始め、中3当時にはどうやら高校生の彼氏がいたようだった。クラスでは仲良くするものの、放課後に遊んだ記憶はあまりない。

家について早々、めぐは奥から白い3段の衣装ケースを出してきた。

「じゃ〜〜ん!」

半ば興奮気味に私と良美の前に出した3段の衣装ケースには、全部の段に化粧品がいっぱいにつまっていた。グロス、マニキュア、アイライナー、アイシャドウ、チーク、ファンデーション、etc。高いブランド物から安物まで、とにかく何でも揃っている。種類が豊富でカラフルで、めっちゃ可愛い。

「今日はね、2人に何でも好きなものを売ってあげる!安くしとくよ!」

は?めぐ、これ全部もしかして・・?

「うん、ぜ〜んぶパクったやつださ!」

私も良美も唖然として顔を見合わせた。中3当時、同級生の間で万引きが流行していることは知っていた。クラスで盗んだ物の見せ合いっこ。あそこの店が取りやすい、あの店の店員は鋭いからやめたほうが良い、などの話題が飛び交う教室。私と良美は見て見ぬふりをしていた。

今、万引きの常習犯を前にしている。しかも、盗んだ物を友達に笑顔で売りつけてくる、極悪非道な同級生だ。私と良美はそそくさとめぐの家を出た。

それから1週間も経たないある日の放課後、良美と、仲が良かった由美子と、3人で近くの小さなショッピングモールに出かけた。そこのドラッグストアはお気に入りのお店で、たまにティーンエイジャー用の安い香水や軽いメイク道具を買ったりしていた。

由美子、一応聞くけどパクったりしないよね?

久しぶりに一緒に出かける由美子に、私はなんとなく聞いてみた。めぐとの件以来、同級生全員を疑っていたし、由美子の性格上、やりかねないと思っていた。

「私しないよ、万引きしたことないし」

そっか、良かった。ホッとして他愛も無い会話をしながら、結局何も買わぬまま3人で店を出ようとしたその時だ。

ビービービービービービービービー

爆音でブザーがなり、店員が駆け寄ってきた。ポケットの中を見せなさい!私と良美は驚いて顔を見合わせた。案の定由美子だ。逃げることもせず、すぐに諦めてポケットに入っていた物を店員に返す由美子。学校や警察に連絡されるかと思ったが、店員は店頭でこっぴどく由美子を叱り、「今度やったら警察に突き出す」と言っただけで解放してくれた。

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ここで冒頭に戻る。それから間も無くして、隣のクラスの担任に理科室に呼ばれた。(なぜ自分のクラスの担任ではなかったのかわからないが、当時の担任は若手で、対処しきれなかったのかもしれない)

当時私は学級長や部活のキャプテンをやっていて、所謂仕切り屋だった。そういう意味で目立っていたのは知っていたし、そのポジションが自分でも好きだった。同級生の女子グループに呼び出され、「仕切りすぎ」だの「目立ちたがり」だの難癖をつけられ、それから抜け物にされいじめられた過去もあった。

そういう意味で先生たちの間でも目立っていたのかもしれない。しかし、今考えると、生徒を頼るなんて卑怯だ。「告げ口した」って後からひどい扱いを受けることになるって、先生のくせに想像すらできないのか。

誰がやっているのか、どこでやっているのか。先生は事細かに聞いてきた。私も全てを把握しているわけではない。でも、確実にみんなやっていたし、実際に私が体験しためぐと由美子の話は、紛れもない事実だ。「実際に全部見たわけではないけど」という前置きのもと、知っていることを洗いざらい話した。どうせ呼び出された時点で終わりだ。明日から腫れ物だ。

次の日から万引き取り締まりにやっと乗り出した先生群、保護者会などを開いて対処を進めた。私はと言うと、案の定ものすごい扱いを受けた。ハブられて聞こえるように次から次へと悪口を並べられた。そりゃそうだ、チクったんだから当たり前だ。先生に呼び出された時点でわかってはいたが、キツかった。良美だけは親身になり、ずっと側にいてくれた。

しかし、こうなることを予想できなかった先生方にも、犯罪を犯しているのにそれを棚に上げて他人を攻める同級生にも、もううんざりだった。

後に母が、校長先生に呼び止められ、言われたらしい。
「いちこさんは本当に素晴らしい生徒だ」と。おかげで問題が解決した、彼女は英雄だ、とでも言いたいのか。自分たちが無能だっただけなのに。

それからというもの、仲が良かったグループからは一切誘われなくなった。嫌味を言われ続け辛い時期もあったが、そこから受験勉強に打ち込み、新しい友達環境も見つけ、卒業まで意外と楽しく学校生活を送ることができた。

しかし、この出来事をきっかけに、1つ心に決めたことがある。中学卒業と同時に地元を離れる、ということだ。こんなクソみたいな輩がウロつく地元から、とにかく早く脱出したかった。おかげで海を渡って遠くの私立高校に進学し、文字通り全てを一新して新しい環境で素晴らしい高校生活を送ることができた。

親に頼み込み、中学卒業と同時に地元を離れさせてもらった理由は他にもたくさんある。幼い頃からずっと憧れを抱いていた高校だったし、そこでブラスバンド部に入るのがずっと夢だった。何より、早く「1人で生きることができるようになりたい」という独立願望が強かった(私立に入ったため、地元に行く以上に金銭的に親に負担をかけることになるのだが)。しかし、中3という青春真っ只中で大流行した同級生の万引きと、解決を私に頼った先生たち、そして強烈な嫌がらせをしてきた同級生、これが大きなトリガーになったのは事実だ。

最後に嫌味を言わせてもらうと、あそこまで私を追い込んだどうしようもない同級生達には本当に感謝している。私の背中を押してくれ、結果こうして人生を切り開くことができ、その高校で同じ夢を抱いた、やはり地元を出てきていた夫と出会うことになるのだから。

Ichiko





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