マガジンのカバー画像

童話「ぼくはピート、そしてレイじいさん」

28
短編の連作童話です。全27話。最後に「あとがき」も。 魔法を使わない魔法使いのレイじいさんと少年ピートくんの物語。 グリーングラス島の人たちと動物たちと共に、成長していくピートく…
運営しているクリエイター

#オリジナル

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第2話

第2話 「明るい空模様」 明るい空は、 ガラス風でできていて、 僕は、毎日、空を飛ぶ夢を見ている。 グリーングラス島のお祭りは、 春の月の第一風曜日。 この日は、 朝も昼も夜もなくなり、 みんなは好きなことをする。 踊ったり笑ったり歌ったり。 僕は、 ガラス風の空の中を 液体になって流れることにする。 それが 僕の 空を飛ぶ夢だ。 レイじいさんは魔法使いで、 そういうことをよく知っている。 「いい頃合い」で全てが決まる、 そういうことだ。 物事を成功させるコ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第3話

第3話 「パシノン草のこと」 パシノン草は、 夜に咲く。 日暮れ頃から、 小さなつぼみが 顔を出し、 月が光る頃に、 ひとひら、 ひとひら、 花びらを開く。 夜に咲く 雲の花だ。 僕たちは、 さっそく、 パシノン草を 探しに行く。 昼間に、 大きな雲が出たら、 パシノン草が咲く 合図なのだ。 「いいかい。 ピートくん。 パシノン草に、 気付かれたら、おしまいだ。 パシノン草は、 人知れず咲く花だからね。 気を消さなければ 見ることができないぞ」 レイじいさんの言

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第5話

第5話 「星屑の人」 夢の中で、 銀色の声がした。 「ソトニ デテ オイデヨ」 僕は、 目を覚まして、 外に出る。 外は、 昼の青空と 夜の星空が混ざっていた。 その空から、 銀色の声が降ってくる。 「ピートクン」 星屑の人だった。 星屑の人は、 夜を守る人で、 大きな木と 風と星の体を 鈴を揺らすように チリチリ、 リリリリカチャカチャ 小さな音をたてながら歩く。 「ユメヒロイヲ シヨウ」 「ユメヒロイ?」 「空から、 いくつもの夢が流れてくる。 それ

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第7話

第7話 「実りのパレードと青空マーケット」 実りのパレードには、 みんな、 とびきり背の高い竹馬に乗って参加する。 なぜなら、 雲の上の青空マーケットに 顔が出せないからね。 青空マーケットには、 大きな雲に乗った人たちが たくさん やってくる。 あちこちから 珍しい食べ物や 手作りの家具とか 鞄とか帽子を持ってくるんだ。 そして、 僕たちの 持っているものと交換する。 僕とレイじいさんは、 竹で、でっかいピーターを作った。 ピーターは、 竹でできた大きな人形。

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第8話

第8話 「サヨナラの月」 待っている。 僕は、待っている。 橋の上で。 おもちゃの 赤いトラックには、 いくつもの積み木が乗っていて、 僕は小さな頃、 その積み木を並べたり、 積み上げたりして遊んだ。 でも、 その赤いトラックと 僕は、サヨナラをした。 おもちゃとのサヨナラは、 ある日、 突然やってくる。 「もう、いいかな」 と突然思ってしまうのだ。 何の前触れもなしに。 それで、 僕は、 その赤いトラックを 工場に持っていった。 レイじいさんは、 古い黄

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第9話

第9話 「夢の中の夢」 雪が降る。 ゆきつばめが 降りてくる。 ゆきみみウサギが 跳ね回る。 くもが くもの巣を編むように、 ゆきつばめは、 あわ雪ぼた雪 絡み合わせて 雪景色を織っていく。 ゆきみみウサギは お手伝い。 跳ね回りながら 雪をまく。 雪を積む。 雪を転がす。 僕は、 雪の音を聞く。 静かで深い調べは、 遠くまで澄んでいく。 「森の木、おやすみ。 小鳥もおやすみ。 降り積もる物語は、 冷たい夜に 花が咲く・・・」 雪風の声だ。 動物たち

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第10話

第10話 「物語の続き」 「時をなくした ウサギの話を 知っているかい?」 レイじいさんは、物語る。 春を告げる春ウサギ。 ある時、 胸を飾る金色の 時のボタンを なくしてしまう。 時のボタンは、 春の知らせ。 どんなに探しても見付からず、 春は、 いくら待ってもやってこない。 「それで、どうなっちゃったの?」 僕は、 物語の続きを聞く。 「冬さ。 ずーっと 冬のままなんだ」 その時、 ネズミのジーポが 慌てて部屋の壁の穴から 顔を出した。 「大変! 

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第17話

第17話 「坂の上の写真館」 坂を上ると 僕の道が見えるような気がした。 坂の上には 写真館がある。 滅多に人は来ないね と受付の人が言う。 ここは無料開放だけれど 無料だといつでも来れる気がして 来ないのかもねと笑う。 ここは北側。 南側の美術館は、 ちょっとした名所で、 そこは必ずといっていいほど 人がいる。 でも僕は、 南側の美術館も この北側の写真館も 同じくらい好きだ。 「私もね」 受付の人は言う。 「南の美術館は 建物も素晴らしいし、 展示されて

ぼくはピート、そしてレイじいさん 第25話

第25話 「透明な意識の本」 真昼の太陽の真下で、 ある人に出会った。 名前はラブルという、 女神のような人だった。 その人から、 透明な分厚い本をもらう。 表紙は、 透明な中に 生きたままのバラの雫が光っていた。 そして、 ページをめくる度、 ぴららぴららと音がした。 「これには、何が書かれているの?」 「ピートさん。 それには、 書かれていないものが書かれているのよ」 僕は、 ピートさんと呼ばれたのは初めてで、 少し恥ずかしかった。 書かれていないものが