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<イチ♥プロ>この子の背景には何がある?思いをはせて(後編)

イチゴが出会った方の中で「この人こそ…児童福祉のプロフェッショナル!」とイチ推ししたい仕事人にインタビューする新企画「イチゴのイチ押し!プロフェッショナル」(略して「イチ♥プロ」)

前回に続き、児童福祉施設の職員 アキさん(仮名)へのインタビュー後編!

前編では、暴れる子どもに手を焼いていた新人時代に「背景に思いをはせる」ことで向き合い方が変わり、愛しさが増したというお話を伺いました。後編では、子どもとの信頼関係の築き方を深堀りしていきましょう!


親でなくても「あなたが一番大事」 

アキ;とても悲しい事実ですが、この世には親から愛されていない子どもが存在します。もっと言えば、誰からも愛されたことがない子もいます。

大人からされるべきことをされていない上に、絶対にされるべきでないことをされてきた。そのツケは本当に大きい。暴言・暴力や、人の気を引くために平気で嘘をつく子になり、周囲から余計に孤立していく。本心では「誰か私を愛して!私を見て!」と切望しているのに。

イチゴイニシアチブ(以下 イチゴ);思いと行動の裏腹さが切ないですね。他の施設の話ですが、暴れて壁に穴をあけた子に向かって、職員が「そんな風だから虐待されるんだ」と言ったのを聞き、驚いたことがあります。子どもの言動は、虐待の原因ではなく結果でしょう? やっと保護された先で、児童福祉の専門職から自分が悪いと言われたら、絶望的な気持ちになります。

アキ; 子どもからすると、とんだ二次被害ですね。しかしその職員の上司や同僚も、何も諭さないのでしょうか。そのままだと徐々に「面倒な子」を視界から消して仕事をするようになるのでは… 

僕がこれまで出会った子の中には、施設・学校・役所など、全ての大人の視界から消され、誰からも真剣に向き合ってもらっていない子もいました。しかも表面上の善意のたらい回しにあって、余計にこじれている。大人への不信感が強いと、関係性作りは非常に難しくなってしまう。


自分がそうした子の担当についたら、まずは愛着形成のために、どんな仕事を差し置いても最優先にケアします。例えば、その子が学校から帰ってきたら、それまでやっていた作業を放り出してでも「お帰り」と出迎る。今まで後回しにされてきた分、自分が最優先される感覚を覚えてもらう。

また「あなたが一番かわいいよ」と、これ見よがしに伝え、その子が他の職員と遊んでいたら「僕といるより楽しそうだったじゃん」とわざと嫉妬したり(笑)。平等を意識すると特別扱いがしにくくなりますが、放ってこられた子にはオーダーメイドの特別な対応が必要です。

愛着形成は1対1の関係から始め、お互いが特別な存在になることを目指します。子どもも最初はうっとおしがったり、こちらを揺さぶる言動で試してきますが、態度を変えずに「僕はひるまないよ。今までの大人みたいに逃げない。だからそんなふうに試す必要もない」と示すと「この人は離れていかないんだ」と安心し、攻撃的な言動はなくなります。


「いつか施設を出て自立するなら、特定の職員に依存させるのはよくない」と言う人もいますが、誰も自分を見てくれる大人を知らずに生きていくのは、あまりにも酷ではないでしょうか。正直、退所後にそこまで愛情を注いでくれる大人と出会えるのか疑問ですし。一度ぎゅっと愛情で満たされないと、一生渇望したままでは非常に生きづらい。

こうした最優先のケアをするには、他の職員の協力は不可欠です。今の職場は、他の職員がそれ以外の仕事を引き受けてくれるので、僕は安心して大変な子に向き合える。本当に感謝しています。


イチゴ;理想的なチームですね!一番大事な仕事は何かという共通認識があり、そのために全員で支えあえている。

アキ:これもお世話になった施設長の言葉ですが「同僚も含めて、身近な大人を大事にできない職員はすぐに化けの皮が剝がれる」と。うちの施設の採用基準なんだと思います。子どもに人柄を伝えることが仕事でもあるので。


「校長室登校」をしていた小学校時代

 今の仕事には、自分の幼少期の経験も役立っています。
僕は小学生の頃、学校には行くけど教室には行かず「校長室登校」をしていました。クラスに行く代わりに校長室に通い、校長先生の隣に机を置いて自習し、給食を食べ、校内を自由に散策して。学ぶこと自体は好きでしたが、興味があることにしか目がいかず、教師や同級生と一緒に勉強することに意義を見出せなかった。というより、集団が苦手だったんです。

だから大人たちが不登校児に向ける、責めるような視線の辛さも理解はできるので、不登校の子がランドセルを背負ったまま「やっぱり行けない…」と施設の玄関でうずくまってしまったときも、無理に登校を促すことはせず「今日は玄関まで出てこられただけで良しとしようよ」と言いました。すると彼は、不登校の背景にある母親との関係について、ぽつりぽつりと語り始めたのです。「母さんに僕の気持ちを分かってほしい…」と泣きじゃくりながら。もし頭ごなしに登校を促していたら、その本音は聞けなかったでしょうね。それからは登校をゴールとせず、母親との関係修復に注力しました。

イチゴ;同級生が当たり前のように毎日学校に通う中、自分だけ別の選択をすることは小学生にとって勇気のいるものだと思います。子どもの自尊心を損ねずに寄り添ったからこそ、不登校という表層的な問題に終始せず、悩みの根本にアプローチできたのでしょうね。


「こちらこそ、ありがとね」互いに感謝しあう対等性を

信頼関係の土台が作れたら、僕の価値基準を伝える段階に入ります。虐待する親は、価値基準が社会一般の基準とずれていることが多い。親を変えられないなら、子どもの方に新たな価値基準を入れ、負の連鎖を断ち切ることを目指します。そのためには普段は可愛がっていても、絶対にここは譲らないという線引きが必要です。

例えば僕は、①暴言・暴力は禁止、②時間を守る、②人の善意を踏みにじらない、という3つを信条にしています。特に①の暴言・暴力は、いかなる場合でも正当化せず、ブレない対応が必要ですが、ここが一番難しいところです。たとえ冗談でも「死ね」と言ったなら、すぐ個別に話をします。②についても、例えばゲームをする時間を〇時までと最初に決めたら守るよう、普段の生活の中で伝えていくんです。
守れなかった場合は、時間を忘れていたのか、もう少しやりたいと思ったのか等理由を聞いて、今後の対応を一緒に考えます。守れなかったこと自体は絶対に責めない。最初から守れる子はいないので。

守れた場合は「すごいじゃん!」と褒めることで、癖になっていた言動も、第一段階として僕の前ではやらなくなり、やがて習慣づけられて、僕がいないところでも意識するようになる。やる前に僕の顔が浮かぶようになることが目標です。大事な人を悲しませたくないという気持ちは、いいストッパーになってくれ、人間関係でつまずく要素が減っていきます。

そんなふうに一つ一つ積み重ね、喜怒哀楽のすべてを共にして、人生の節目節目に立ち会う間柄になれば、最初は他人に感謝なんてできなかった子でも「アキさん、ありがとね」と自分から言ってくれるようになる。
そんな子が、ある冬の寒い日に、自分のお金で僕に温かいお茶を買ってくれたことがあります。思いやりの心が育ったのが嬉しく、別れた後もずっと余韻が残って… 彼がくれたお茶の空き容器は未だに捨てられません(笑)

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でも、子どもから一方的に感謝される関係だとまだ本物じゃなくて、僕自身も子どもに感謝できることが大事だと思います。「こちらこそあなたに成長させてもらったよ。ありがとね」って。手は焼いても、その子の人間的な魅力のおかげで、僕も諦めずに向き合ってこられた。持ちつ持たれつです。
関係が深くなればなるほど、この仕事を「支援」「指導」「教育」という言葉で説明するのは違和感が出てきます。そんな一方的なものではないし、実の親が自分の子の世話をしても「支援」とは言わないですよね。それと似た感覚です。親にはなれないですが、近い感覚にはなれる。

イチゴ;なるほど。実の親と同じ眼差しで子どもを見ているんですね。


将来は里親に。共に暮らすことでより多くを伝えたい

イチゴ;アキさんは今の仕事や児童福祉業界について、何か「こうしていきたい」という目標はありますか?

アキ; ありませんね。革命家思考は持たず、大枠の話はしたくないので。
ただ、自分個人の成長という点では、3つ実現したいことがあります。

1つめは発達・知的障害の知識と、対応の実践を積むこと。施設にも虐待のトラウマや愛着障害に加えて、発達・知的障害を持つ子がいます。その場合、障害特性への知識が必要になるので、今勉強しているところです。

2つめは、地域での虐待予防。公園など、地域の子どもが集まる場所に出ていって、一緒に遊ぶことで関係を作りながら、児童相談所や学校で見過ごされてしまうような子どもの悩みや課題を見つけたいなと。

3つめは、里親になること。養子縁組ではなく養育里親の方ですね。
施設で出会った子たちは自分の子同然で、彼らに何かあれば、たとえ地球の裏側でも飛んでいこうと思っています。だから血のつながりは全然気にならないんですが、子どもたちにとって施設は「家」であっても、帰る家が別にある僕にとってはそうではない。同じ屋根の下で毎日ご飯を食べ、隣で眠る安心感や暖かさなど、共に暮らすことで伝えられることが今の倍になると思います。だから色々と学んだら、最終的には里親になりたい。

そうした将来プランはありますが、目の前のことを少しずつ積み重ねていけば、夢の方からおのずと近づいてくると思っているので、こちらから必死に夢を追う事はしないです。今はただ、まだ出会ったことのない子どもたちに、これから出会えることにワクワクします。

イチゴ;それは是非、3つとも全部実現してください!
私も「この世界で自分ができることなんて、本当に小さなことしかない」とよく思いますが、それに絶望しなくていいんですね。児童福祉のソーシャルワーカーとしてだけでなく、職業人、そして一人の人間としてのアキさんの姿勢に、色々と学ばされたインタビューでした。ありがとうございました!

※ このインタビューの前編はこちら

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