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今年の振り返り 周回遅れの情報戦対策と攻撃の深刻な乖離が進む

毎年、アクセスランキングを公開していたけど、あまり意味がないような気がしてきた。今年は1年の振り返りをしたいと思う。


2021年は暴力の時代の幕開けという転換の年だった。2024年は世界の主流が変わるのを実感する年になるような気がする。2023年はその前哨戦としていくつも危険な兆候が見られた。
繰り返し書いているけど、こんなことを言っているのは日本は私くらいで、世界でもごく少数。だから、判断に迷うことがあったら、国内の専門家と称する人の意見を信じた方がいい。私は専門家でも研究者でもない。ただ、このテーマが気になっているだけ。

情報戦、認知戦、デジタル影響工作などなどいろいろ言い方はあるが、面倒なのでここでは仮に単に情報戦と呼ぶことにする。

●情報戦の変化

この2,3年で情報戦の攻撃はだいぶ変化したが、欧米の防御は対応していない。そのため攻撃と防御が噛み合っておらず、攻撃も防御も成功するという奇妙な状況が生まれた。防御側は成果を誇るものの、その一方で一向に攻撃はおさまらず、陰謀論やデマも減らないという状況になっている。

・攻撃側の変化

マイクロ/ナノインフルエンサーの活用、エコシステムの確立、暗号化メッセージアプリの活用、メディアやファクトチェックへの不信、技術やシステムの提供、暗号化チャットアプリ利用、マジョリティ意識の高まりなどが観測された。それぞれの詳細については関連記事を参照。
これらのほとんどが現在の欧米の対策の範囲外となっている。そのため効果がない。

情報戦には攻撃主体の関与によって4つに分けらる。
タイプ1 自ら行う
タイプ2 指示、命令する
タイプ3 扇動、協力する
タイプ4 支持と承認、間接的支援を行う

レピュテーション・マネジメント企業などの民間企業の利用はタイプ2になる。

関連記事

サミュエル・ウーリーの本で指摘されたことはかなり参考になった。
『Manufacturing Consensus』はデジタル影響工作の新手法とトレンドを学べる良書、https://note.com/ichi_twnovel/n/nfd072b81bcf8

このへんの記事で最近の変化がよくわかる。
フィリピンの選挙に見るネット世論操作の進化と対策の停滞、https://note.com/ichi_twnovel/n/n51ba69e86f18

ISDの一連の報告書は情報のエコシステムの包括的調査だった、https://note.com/ichi_twnovel/n/n6c8c44b74953

Telegramにおけるヘイトインフルエンサーが行動を誘導するプロセス、方法、目標、https://note.com/ichi_twnovel/n/nd186f988f209

民間企業=レピュテーション・マネジメント企業の手口がわかる記事。
20カ国33の選挙に介入していたイスラエルのTeam Jorge、https://note.com/ichi_twnovel/n/n466b4650c1ff

アメリカの偽情報対策が直面している問題、https://ggr.hias.hit-u.ac.jp/2023/09/01/problems-facing-us-disinformation-measures/

中国型スマートシティの地政学的挑戦、https://ggr.hias.hit-u.ac.jp/2023/09/04/geopolitical-challenges-of-china-style-smart-cities/?hilite=%E4%B8%80%E7%94%B0%E5%92%8C%E6%A8%B9

大手メディアが誤報連発 >SNSによって見える現実が異なる イスラエルとハマスの紛争で浮き彫り、https://note.com/ichi_twnovel/n/neb552d855e52

また、現在民主主義国内で情報戦を仕掛けているのは中露伊といった国家だけではなく、民主主義国内の反主流派も主要なアクターとなってきている。白人至上主義グループや陰謀論グループなどがこれに当たり、白人至上主義グループはアメリカ国内で最大の脅威となっている。
欧米型の防御は国内アクターにはほとんど対策していないが、中露伊はタイプ3、タイプ4の攻撃のために彼らを利用している。白人至上主義グループはロシアと交流しており、その影響力は少なくない。また、反主流派という意識でもつながっており、さまざまな局面でネットで相互に協力している。


関連記事

アメリカ最凶の多角分散型白人至上主義グループActiveClubが示す情報戦の終焉、https://note.com/ichi_twnovel/n/nc5ab23ab9c9a

アメリカの過激派を増幅するロシアのSNS、https://note.com/ichi_twnovel/n/n379865835b89

コロナ禍で中国やロシアが広めたQAnonの陰謀論、https://note.com/ichi_twnovel/n/ne1c8818d9a5c

アメリカの白人至上主義過激派グループを支援するロシア、https://note.com/ichi_twnovel/n/n7b9567312070

特に中国に注目するとこのへんの記事。
昨年に比べ体系的整理の進んだ大西洋評議会の中国言論戦略分析レポート、https://note.com/ichi_twnovel/n/n261282ba7ce9

米国務省GECの中国影響工作報告書は網羅的だが、「アメリカの古い地図」だった、https://note.com/ichi_twnovel/n/nddaec2230203

・防御側

防御側はタイプ1とタイプ2の大規模プラットフォーム上で行われる攻撃を想定した対策を取ることが多い。実際にそのオペレーションは行われているし、今後も行われるので、そこだけ見ると効果はあるように見える。
しかし、実際の活動はその対象外に広がっており、エコシステムとして影響を与えているため、社会全体での抑止効果はこれまでもあまりなかったし、今後も期待できない
近年、対情報戦で利用されることが増えてきたレピュテーション・マネジメント企業も同様に効果がないが、見かけ上大規模プラットフォーム上での検知や特定を行うことができるので利用が進んでいる。前述のように、それらは本質的には効果がほとんどない。むしろ悪化させる。

●欧米側の反省と危機感

もちろん、このようなわかりやすい危機に気がつかないはずはなく、ここに書いていることは危機感を抱いた識者の論考などを元にしている。下記が参考になる。いずれも問題の全体像をとらえなければ有効な対処は難しいという指摘である。

最近の論考で指摘されたデジタル影響工作研究の課題、https://note.com/ichi_twnovel/n/n639804728652

欧米型よりも権威主義型の対策の方が効果があるという記事
ウクライナ侵攻から1年 権威主義的デジタル影響工作対策の有効性、https://note.com/ichi_twnovel/n/n704674d6e7a3

偽情報やデジタル影響工作対策が空振りな理由をAlicia Wanlessが手短に解説、https://note.com/ichi_twnovel/n/n03b5dce3d823

●日本の対情報戦

欧米型と同様の問題を抱えているうえに、日本は民主主義国であるが、欧米ではない。そのため欧米で国際世論と認識されるアメリカやイギリスの大手メディアに取り上げられることが少なく、そこを通じての情報発信もほとんどできていない。
現在、力を入れているようだが、ほとんど成果は出ておらず、しかも2024年以降は中国やインドなどのニューマジョリティがメディアにも台頭してくる。日本はそこにおいても影響力を行使できない。八方塞がりの立場になろうとしている。
ほめられたやり方ではないが、インドは国連のブランドを利用する果敢なアプローチで影響力を行使できる存在になりつつある。

新しい時代に向けた転換が必要なのである……ということをさんざん言ってきたので、まあこれからも変わらないのかなあ。

関連記事

メモ 昨今の情勢と、日本における認知戦、情報戦対策の現状、https://note.com/ichi_twnovel/n/n77d72cee5799

メジャーで可視化される見えざる多数 「オレたちの方がたくさんいる」、https://note.com/ichi_twnovel/n/n5256a01e77c5

悲愴感漂う2023年のV-Demレポート 世界人口の72%は独裁国家、https://note.com/ichi_twnovel/n/n729420cc4997

フォーリンアフェアーズとワシントンポストが主流になったと報じたQAnonの現在、https://note.com/ichi_twnovel/n/nc94e2c75238b

欧米との協力関係の陰に潜む、インドのネット世論操作の実態とは?、https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2023/10/post-51.php


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