悲愴感漂う2023年のV-Demレポート 世界人口の72％は独裁国家
V-Demは代表的な民主主義の指標のひとつで、関連するデータベースを提供し、毎年レポートを公開している。今年のタイトルは「Defiance in the Face of Autocratization」（https://www.v-dem.net/documents/29/V-dem_democracyreport2023_lowres.pdf）。独裁主義国家が世界の多数となったことは動かしがたい事実となった。この傾向は5年前には顕著になっていて、こうなるのは時間の問題だった。それでも止めることができなかったことは今後もこの傾向が続く可能性が高いことを示唆している。
もうひとつの代表的な民主主義指数と比べるとおもしろいかもしれない（https://note.com/ichi_twnovel/n/n5bb00e9428be）。民主主義指数の今年のレポートはウクライナ侵攻とグローバルノースとサウスの分断に焦点をあてていた。
今年のV-Demレポートのハイライトをご紹介したい。
●世界の民主主義の水準は35年前、冷戦末期まで後退
世界人口の72％、57億人が独裁国家に暮らしている。V-Demでは統治形態を4種類に分けている。自由民主主義、選挙民主主義、選挙独裁主義（独裁でも選挙はするロシアのように）、閉鎖独裁主義。
世界人口の28％、22億人が独裁化が進んだ閉鎖独裁主義国に暮らしており、自由民主主義国に暮らすのは、わずか13％、10億人にすぎない。この1年で独裁化された国は42カ国、民主化された国は14（50年ぶりの少なさ）。
35年前に比べると独裁主義国家の経済力は高まっている。V-Demの計算では独裁国家のGDPはまだ世界全体の半分を超えるにはいたっていないが、統計によっては超えているとするものもあるのでこの傾向が続けば時間の問題だろう。
貿易のシェアも増加しており、多くの民主主義国にとって重要なサプライチェーンを独裁国家に依存していることは珍しくなく、過去30年間増加している。逆に独裁主義国から民主主義国への依存は減少しつつある。安全保障上、きわめて重要な課題となっている。
国数、人口、経済力、貿易、さまざまな形で独裁主義国家の国際的なパワーは増大している。
●直近10年間での急激な変化
この変化は直近10年間が顕著で、表現の自由の後退、検閲、弾圧、熟議の後退、選挙の質の低下が進んでいる。これらは独裁化の過程でターゲットになりやすい。
分極化も進んでいる。
ちなみに、以前ニューズウィークに世界で格差が拡大していることを書いた（https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2023/05/post-46.php）が、格差拡大も直近10年間の変化が急激だ。格差拡大は明確に政治的選択だ。
この10年で選挙独裁主義は増加しており、1978年の35から2022年には56となり、2番目に多いタイプの体制となっている。これは閉鎖的独裁から移行が多いことが主たる原因だ。1980年代から1990年代にかけて、多くの閉鎖的独裁国家が多党制選挙を実施するようになった。
選挙制民主主義は、1972年の16から2022年には58に増加、2023年最も一般的な体制タイプになった。増加に見えるかもしれないが、その大部分は自由民主主義国家の独裁化が進んだ結果だ。
●民主主義がもっとも後退したのはアジア太平洋地域
アジア太平洋地域では民主主義が1978年まで後退した。東欧、中央アジア、ラテンアメリカとカリブ冷戦前後にまで戻っている。
アフリカは民主化された国（5）も独裁化した国（12）も多い。
過去の統計から民主主義で独裁化が始まるとその80％は独裁主義に移行する。
●偽情報、分極化、独裁
偽情報と分極化は独裁を支える重要な要素となっており、増加している。
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