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SNSによって見える現実が異なる イスラエルとハマスの紛争で浮き彫り

異なるSNSには異なるモデレーション、アルゴリズム、ポリシーがあるのは知っていると思う。ならば、SNS上で見えてくれる現実も異なってくるのは当然だ。今日、多くの人が大手のニュースよりもSNSの書き込みで現実世界を認識している。どのSNSを見ているかによいって、異なる世界に住んでいるようなものになってきている。
【追記】2023年12月26日、ヒューマン・ライツ・ウォッチの文書に関する項を追加。


●はじめに

大西洋評議会の「How social media platforms shaped our initial understanding of the Israel-Hamas conflict」(2023年12月21日、https://view.atlanticcouncil.org/social-media-gaza/p/1)は、紛争当初のTelegram、X、Meta、Tik Tokのデータから、それぞれのSNSでどのような投稿が行われ、運営がどのように対応していたかを整理したものだ。

今回のような紛争において伝達および記録としてのSNSの重要性が再認識された。そして、それぞれのSNSによって異なるポリシーとモデレーションにより、コンテンツだけではなく、アカウントの制限も異なっていた。
その結果、見えてくる世界は異なっていた。Metaのプラットフォームではイスラエルが反イスラエルのコンテンツに対して大量の削除要請を出し、その94%は削除された。Tik Tokでは親パレスチナのコンテンツがよく閲覧された。
なお、私が個人的にメモしただけなので、ちゃんとした要約ではないです。

・Telegram

よく知られているようにTelegramはほとんど制約がなく、投稿内容を削除することもない。もっとも規制のゆるいサービスと言ってよいだろう。
Telegram では、無秩序でフィルタリングされておらず、検証されていない戦場映像が大量に投稿された。ハマスはTelegramを好んで利用し、これに対抗してイスラエル政府および親イスラエル派もTelegramで活動した。
ただし、事態への反応は迅速で10月7日に紛争が勃発した直後10月8日にヘブライ語のサポートを開始した。のTelegramは

・X

いまだにジャーナリストや政治関係者などに利用されている。紛争勃発直後からXでは確証のない主張や画像、動画などは世界に広がり、ニュースの見出し、テレビ、政府の公式声明に影響を与えた。
英語による投稿は紛争発生から1カ月で3億4,200万件に達した。ロシアのウクライナ侵攻の時は最初の39日間で5,730万件だったことを考えると今回はかなり多い。
もちろん、そこには大量の偽・誤情報が含まれており、数百万インプレッションを超える偽・誤情報がいくつも発生した。
Xが以前にも増して偽・誤情報の坩堝となったのは新しい方針によるものが大きい。認証と連動した有料化や収益化である。方針変更の前には42万件の認証アカウントの25%はジャーナリストだったが、方針変更後自ら有料認証に進んだのはたったの6,500件だった。有料認証を行った44万4千件の半数はフォロワー数が千人未満で、紛争発生から1週間の間に偽・誤情報を発信したアカウントの74%は有料認証アカウントだった。
また、収益化を狙う利用者は真偽にかかわらず、より多く閲覧されるコンテンツを投稿した。Xはこうした収益化を助けるため(だと思う)に、外部リンクの転送に遅延を設けた(これで利用者はロイターなど大手ニュースサイトへ逃げにくくなる)。さらにリンク先の見出しが表示されないようにした。
コミュニティノートは投稿してから表示されるまで5時間以上待つことはざらであり、まったく追いついていないことがわかる。

ちなみに、方針変更前に起こったウクライナ侵攻の際には収益化を一時停止するなど一連の措置を素早く糀、その内容を発表した。今回はウクライナ侵攻の時とは全く異なる対応となった。

・Meta

この地域のMetaのサービスは2022年の時点で2億人以上いた。当初速報的な役割を果たしてはいなかったが、紛争発生後の数週間で、MetaのSNSは偽・誤情報を拡散する役割を果たした。イスラエルが国際メディアのガザ入国を禁止していた時期、インスタグラムはガザのジャーナリストたちによく使われSNSとして登場し、ストーリーや投稿、リールを使って現地からの最新情報を共有された。ガザへの砲撃が強まるにつれて、パレスチナのジャーナリストや親パレスチナ派コミュニティから、メタのプラットフォームでは自分たちのコンテンツが制限されたり削除されたりしているという声が出てきた。
削除されるべきでないコンテンツが削除されてしまうのはなんらかのコンテンツ・モデレーションを行っている場合に避けられない。大量のコンテンツが投稿されていたり、メジャーでない言語の場合、それは顕著になり、対処も遅れやすくなる。
Metaは透明性の維持に力を注いでいるが、大量の削除に巻き込まれたジャーナリストなど関係者がなくなることないので不信感が常につきまとっている。なにしろ10月7日からの3日間だけで80万件の投稿が削除されているのだ。

また、2015年からイスラエルは法務省にサイバーユニットを設置し、パレスチナ関連のコンテンツを監視し、問題のあるものを見つけたらMetaに削除依頼を送るようになっている。10月7日以降、削除依頼は通常の10倍に増加した。2023年11月14日付けのForbesの報道だと5,700件の削除依頼が来たという。

・Tik Tok

Tik Tokでは生々しいビジュアルが少ないが、やはり偽・誤報は多かった。利用者には見えないところでこまめに対応を変えているらしい。たとえば10月7日、「Hamasu」を検索できたが、11月20日には検索できなくなっていた。
Metaと同様に「algo-speak」がよく用いられており、今回の紛争でも多く使われた。「algo-speak」は「kill」を「k*ll」に置き換えたり、「sexual assault」を「SA」にするもので、日本語でもよく使われている。
TikTokでは、TikTok Liveで収益をあげることができるので、イスラム恐怖症と反ユダヤ主義のライブが増加した。

アメリカでは中国共産党が TikTok を利用して反イスラエルのナラティブを浸透させようとしているという批判が出て来た。

●おわりに

この記事の最後ではSNSによる違いの原因を特定することは難しいが、起きたことに対する理解を大きく変える可能性があり、将来にわたって記録として参照される可能性がある、と今後の課題を述べて終わっている。

【追記】

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2023年12月23日に、Metaがパレスチナ・コンテンツを検閲しているとする「Meta’s Broken Promises」(https://www.hrw.org/report/2023/12/21/metas-broken-promises/systemic-censorship-palestine-content-instagram-and)を公開した。
The Guardian(https://www.theguardian.com/technology/2023/dec/21/meta-facebook-instagram-pro-palestine-censorship-human-rights-watch-report)などがそれをニュースにした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの文書はMetaのコンテンツ管理の組織や歴史なども含んでいて包括的な理解のためになる(すでに知っている人には冗長だが)。
すごく短く言うと、昔から繰り返しMetaのコンテンツ管理の問題は指摘されており、Metaは繰り返し認めたり、謝罪したり、対応を約束したりしてきたが、いまだに問題は続いているということだ。

MetaグループのSNSで特定のグループの発言が検閲されていることは、何度も指摘されてきており、あることは間違いない。人権上の問題であるとともに、時には生死にかかわることにもつながる。

今回の文書では親パレスチナ発言検閲の6つのパターンが報告されている。
1.投稿、ストーリー、コメントの削除
2.アカウントの停止または永久的な無効化
3.24時間から3カ月の期間、いいね、コメント、共有、ストーリーへの再投稿など、コンテンツにエンゲージメントできなくする
4.他のアカウントをフォローしたりタグ付けしたりする能力の制限
5.インスタグラム/フェイスブック・ライブ、マネタイズ、フォロワー以外へのアカウントの推薦など、特
定の機能の使用制限
6.コンテンツの配信やリーチの減少、アカウントの検索の無効化により、通知なしに個人の投稿、ストーリー、アカウントの可視性を著しく低下させることと=いわゆる「シャドウ・バン」

これらの措置には利用者への告知がある場合とない場合がある。告知がある場合、コミュニティガイドラインや規約違反であり、その中でも特に「危険な組織と個人(DOI)」、「成人向けのヌードと性的行為」、「暴
力的で生々しいコンテンツ」、そしてもっとも多かったのは「スパム」に関するものであった。
時にはパレスチナの国旗を絵文字で表現した投稿も警告を受けたり、非表示にされたりすることもあった。
その一方で反パレスチナやイスラム嫌悪のヘイトなどの投稿は残っていた。

整理すると、これらの原因は下記と考えられている。

・Metaのポリシーの欠陥
テロ組織について制限が課されているため、ハマスにもそれは適用され、場合によってはパレスチナの政治活動にもその範囲が及んでいる可能性がある。

・一貫性、透明性がなく、問題のある運用体制
コンテンツについてのポリシーと運用には一貫性も透明性もなく、自動ツールによる削除は多くの誤った削除を生んでいる。

・イスラエルを含む諸外国からの削除要請への対応
親パレスチナ投稿にはイスラエルなどの国から削除要請が多数寄せられ、Metaはそれらに高い割合で応じている。


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