偽情報やデジタル影響工作対策が空振りな理由をAlicia Wanlessが手短に解説
OECDフォーラムのサイトに、カーネギー国際平和財団の影響力対策パートナーシップのディレクターであるAlicia Wanlessが「Seeing the Disinformation Forest Through the Trees: How to Begin Cleaning Up the Polluted Information Environment」(2023年11月13日、https://www.oecd-forum.org/posts/seeing-the-disinformation-forest-through-the-trees-how-to-begin-cleaning-up-the-polluted-information-environment)と題する短い記事を寄稿した。
●概要
短いものの、現在の対策について手厳しい内容になっている。現在の偽情報対策、デジタル影響工作対策は対症療法であり、問題の全体像をとらえていない。
まず、情報環境を「エージェントとしての人間、情報を生産し処理する
ために我々が作り出した手段、そのプロセスから生み出された人工物、そしてそれらすべての相互関係の総体である」とし、現在行われている研究はケーススタディや実験が多く、原因はもちろん全体像を把握することができない。さらにケーススタディでは戦争、選挙などメディアで注目されるものが中心で、かつてのツイッターデータのように扱いやすいものを利用している。しかも、再現性がない。
民主主義における情報環境について語る前に、長期間にわたる観察、測定が不可欠である(しかし、現在は行われていない)。ようするに基本的なことがわかっていないのに、効果的な対策が立てられるわけはないと言っている。
【追記】再現性の危機に関して参照されていた論文は「A discipline-wide investigation of the replicability of Psychology papers over the past two decades」(Wu Youyoua , Yang Yangb, and Brian Uzzi、PSYCHOLOGICAL AND COGNITIVE SCIENCES 2023 Vol. 120 No. 6、https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2208863120)。
心理学の6ジャンル(臨床心理学、認知心理学、発達心理学、組織心理学、パーソナリティ心理学、社会心理学)についてである。論文数14,126、6,173機関、26,349名を網羅しており、20年間の心理学のほぼすべての論文を網羅しているらしい。
再現率は研究方法に相関が認められ、メディアの注目と再現性には正の相関がある(再現性の低いものほどメディアがとりあげている)など気になる結果がいくつかある。
●感想
最近書いていることび近いので、とても参考になった。ツイッターデータについての当てこすり(だと思う)もしている。
いまの対策が対症療法で全体像をとらえることを怠っているというのは全くその通り。
こういう指摘をじょじょに見かけるようになってきた。効果的な方向に向くとよいのだけど、昨今の対策の後退がどうなるか気になる。
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