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アメリカの白人至上主義過激派グループを支援するロシア #非国家アクター メモ 4

これまでアメリカのQAnonや白人至上主義過激派グループについてご紹介してきたが、今回はそれらを支援するロシアのグループをご紹介したい。まず、その前にアメリカの白人至上主義過激派グループのひとつであるThe Baseについて触れておく。なぜかというと、The Baseのリーダーは現在ロシアにいるのだ。

●ネオナチThe Base

The Baseは白人白人至上主義過激派グループのひとつだが、ネオナチあるいは極右と呼ばれることも多い。この点は他のグループもそうだ。VICEは2019年8月16日の「Militant Neo-Nazi Group Actively Recruiting Ahead of Alleged Training Camp」(https://www.vice.com/en/article/bjwx55/militant-neo-nazi-group-actively-recruiting-ahead-of-alleged-training-camp)では、他の白人白人至上主義過激派グループなどに軍事訓練を提供していると紹介されている。また、前回ご紹介した白人白人至上主義過激派グループのAtomwaffen Division(AWD)やRise Above Movement(RAM)と関係があることとしている。
同記事ではCounter Extremism Projectのアナリストが、The Baseは同様の傾向を持つグループや個人をネットワーク化しようとしていると指摘している。そして、待ち伏せ、武器訓練、爆発物の製造など、テロやゲリラ戦に役立つスキルの開発と共有を進めているため、きわめて危険であるとしている。

カナダではThe Baseに反ファシスト団体のメンバーが潜入し、アメリカに不法滞在していた元カナダ軍予備兵が軍事訓練を行っていることを暴き、FBIによる逮捕につながった(Nazim Baksh, Gillian Findlay、CBC、2022年1月6日、https://www.cbc.ca/news/world/neo-nazi-group-infiltrator-the-base-1.6302804)

BBCの「Neo-Nazi Rinaldo Nazzaro running US militant group The Base from Russia」(2020年1月24日、https://www.bbc.com/news/world-51236915)によれば現在、The BaseのリーダーのRinaldo Nazzaroはロシア人の妻とともに数年前にサンクトペテルブルグに移住し、そこからアメリカのメンバーに指示を出している。
ロシアのウクライナ侵攻後、リーダーの地位を降りたという情報もある。

驚くべきことにThe BaseのリーダーのRinaldo Nazzaroは2014年に国防総省と契約し、軍でISISやアルカイダなどのジハード主義テロ集団対処の特殊作戦コマンド(SOCOM)で働いていたという(Neo-Nazi Terror Leader Said to Have Worked With U.S. Special Forces、2020年6月24日、https://www.vice.com/en/article/k7qdzv/neo-nazi-terror-leader-said-to-have-worked-with-us-special-forces)。BBCではFBIでの勤務経験があるとも報じていた。国防総省、FBIはコメントせず、SOCOMは公の記録にはRinaldo Nazzaroの名前はないと返答した。また、彼の会社であるオメガ・ソリューションズは防衛関係の仕事を受注していたとも言われている。

ここでひとつの大きな問題が提起される。The Baseはアメリカの国内テロ集団なのか、国外テロ集団なのか?
アメリカ国務省はThe Baseをアメリカ人が率いるロシアのグループということにした。

●ロシアの白人至上主義過激派グループ(RMVEs)

2020年4月7日、アメリカ国務省は、欧州の白人至上主義者やネオナチに準軍事的な訓練を行っているとして、ロシアのRussian Imperial Movementをグローバル・テロリストに指定した(United States Designates Russian Imperial Movement and Leaders as Global Terrorists、https://2017-2021.state.gov/united-states-designates-russian-imperial-movement-and-leaders-as-global-terrorists/index.html)。
また、アメリカ国家情報長官室と国防総省は「Russian Federation Support of Racially and Ethnically Motivated Violent Extremists」というレポートを公開し、ロシア政府は自国の白人至上主義過激派グループ(レポートではRMVE)に対して直接的な支援(資金提供、モノの提供、訓練、指導など)はしていないものの、間接的、受動的な支援(黙認、ネットで煽るなど)を行っていると非難している。

名指しされた3つのグループは、RussianNational Unity(RNU)、Russian Imperial Movement(RIM)、Rusich、The Baseだった。

Russian Imperial Movement(RIM)は、ロシア政府と直接の関係のない極右グループだが、ウクライナ東部やリビヤなどの戦闘に参加し、欧米の極右グループと関係を持ち、軍事訓練を行ってきた。ドイツのNational Democratic Party in GermanyやアメリカのTraditionalist Worker’s Partyとつながっている。
RIMはロシアのロディナ党とともに、国際的な民族保守運動=World National-Conservative Movement (WNCM)を主宰し、ここを通じて軍事訓練を実施している。アメリカでRIMのリーダーと面会したことのあるアメリカの極右のMaJhew Heimbachはヒズボラのシャツを着て、プーチンの旗の前で写真を撮っていた。これらのグループは反欧米で結びついているようだ(FOREIGN FIGHTERS, VOLUNTEERS, AND MERCENARIES:Non-State Actors and Narratives in Ukraine、Soufan Center、2022年4月4日、https://thesoufancenter.org/research/foreign-fighters-volunteers-and-mercenaries-non-state-actors-and-narratives-in-ukraine/)。
国家情報長官室と国防総省のレポートではアメリカの白人白人至上主義過激派グループを軍事訓練に勧誘していたとされている
【2022年10月12日追記】なお、アメリカの白人至上主義過激派グループはウクライナの極右とも関係があり、 Azov Movementに軍事訓練を受けたこともある。意外とこれは重要なポイントかもしれない。
「WESTERN EXTREMISTS AND THE RUSSIAN INVASION OF UKRAINE IN 2022」(Counter Extremism Project、https://www.counterextremism.com/content/western-extremists-and-russian-invasion-ukraine-2022)によれば、Rise Above Movement(RAM)はウクライナを支持しており、The Baseのメンバーがウクライナの民兵組織Right Sectorに参加したこともある。白人至上主義過激派グループで統一した意見があるわけではないし、同じグループでも一致しているわけではないようだ。

RIMはロシアのPMC(民間軍事企業)ワーグナーグループとロシアの極右グループRusichを介して結びついている。Rusichはワーグナーグループと密接に連携している。また、名指しはされていないが、国家情報長官室と国防総省のレポートではロシアのPMCがアメリカの白人至上主義過激派グループに軍事訓練を行っているとしており、ワーグナーグループを指すものと考えられる。

●アメリカから世界に広がる脅威

注意しなければならないのは、QAnonも白人至上主義過激派グループも第三国からの支援という背景はあるものの、アメリカ国内で生まれたものであるという点だ。

ロシアが非国家アクターである白人至上主義過激派グループを自国に有利になるように操作している一方で、アメリカは自国の非国家アクターが安全保障上の脅威になってしまっている。それどころか、民主主義各国にその脅威を輸出している。

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