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アメリカ社会を崩壊させるRMVEs #非国家アクターメモ 3

RMVEsとはRacially or Ethnically Motivated Violent Extremistsの略で人種や民族差別に動機づけられた過激派である。他の記事でも書いたように、アメリカでは国内の過激派(Domestic Violent Extremists=DVE)の活動が活発化しており、その対処がバイデン政権の優先課題のひとつになっている(NATIONAL STRATEGY FOR COUNTERING DOMESTIC TERRORISM、ホワイトハウス、2021年6月、https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2021/06/National-Strategy-for-Countering-Domestic-Terrorism.pdf)。
ホワイトハウスの資料の中心は、白人至上主義過激派であり、そのターゲットは、特定の階層、有色人種、移民、ユダヤ人、イスラム教徒、宗教的少数派、女性、少女、LGBTQI+とされている。
白人至上主義過激派単独行動者または非公式に連携した小集団であることが多いため、全体を把握しにくく当局が効果的に対処できていないという。また、偽情報や陰謀論と組み合わさることも多い。
そして、過激派がより活発になり、暴力、破壊行為が増加することはほぼ確実で、コロナの流行状況、暴力を助長する陰謀論の広がりなど新たな社会政治情勢が、さらに拍車をかけることもほぼ間違いないと書かれている。
前々回のQAnonの浸透ぶりと合わせて考えると、アメリカの陰謀論者グループや白人至上主義過激派は社会に対する大きな脅威となっている一方で、影響力も増しており、現代における「内戦」状態に近い。現代における内戦とは、暴力、破壊行為が頻発し、社会が不安定になり、政権にそれらの勢力が入り込む、あるいは政策に影響を与えるようになっている状態を指す。
以前、アメリカ内戦を予見した衝撃のベストセラー『How Civil Wars Start』」(https://note.com/ichi_twnovel/n/n96588acc900a)で紹介した通りだ。

●白人至上主義過激派の実態

これらのグループについて、Soufan Cnterが「WHITE SUPREMACY EXTREMISM: The Transnational Rise of the Violent White Supremacist Movement」(2019年9月27日、https://thesoufancenter.org/research/white-supremacy-extremism-the-transnational-rise-of-the-violent-white-supremacist-movement/)という資料を公開しているので、その内容を簡単に紹介しておきたい。

白人至上主義過激派(WSE)は、カナダ、オーストラリア、米国、ウクライナまで国境を越えた活動を展開しており、世界のさまざまな地域で異なるペースで進化してきた。イスラム過激派と白人至上主義過激派の間には決定的な違いがある一方で、暴力の活用方法、インターネットの利用、プロパガンダ、勧誘、資金調達、ネットワークの国境を越えた性質など、重要な類似点があり、違うに利用し合うこともある。
白人至上主義過激派は、合法的な資金源と非合法な資金源の両方を通じて資金を得て、さまざまな手段で移動、保管している。決済処理業者がこれらのグループからのアクセスを制限しているため、暗号通貨やその他の代替手段を利用している。資金調達としてはクラウドファンディングがよく利用されている。大手のクラウドファンディングサービスでは白人至上主義過激派を排除する動きが広がっているので、差別的な内容でも許されるGoyFundMe や Hatreonを利用することが増えている。ネオナチを宣伝していたグループDaily Stormerの代表がビットコインで2,500万ドル(約36億円)の寄付を個人的に得ていたことがわかっている。
中にはヘロインや覚醒剤を販売して資金を稼ぐグループもある。
戦闘には大きな進化はなく、通常兵器、特に軽火器の使用が多い。しかし、SNSによる攻撃に関する情報の拡散と美化が迅速に行われるようになった。
SNSによって白人至上主義過激派は世界に向けて発信し、ネットワークを構築し、勧誘を拡大した。
白人至上主義過激派の脅威と戦うためのアメリカ政府の取り組みは不十分なままであり、国際社会も政策展開に遅れをとっている。

現在、白人至上主義のテロによる死亡者はイスラム過激派を上回っている。過去10年間ではおよそ3倍多い。あらゆる指標において、白人至上主義はアメリカに対するテロの脅威の上位に位置する。その一方でイスラム過激派のテロに対する予算に比べるとわずかな予算しか割かれておらず、対応が遅れている。

白人至上主義過激派には退役軍人も多く、アメリカが関与する大きな戦争が終わると、白人至上主義過激派に退役軍人が参加する。代表的な白人至上主義過激派であるAtomwaffen Division(AWD)とRise Above Movement(RAM)にはイラクとアフガニスタンの帰還兵がいる。RAMのメンバーはヒットラーの誕生日を祝うためにドイツ、ウクライナ、イタリアに渡航し、ヨーロッパに拠点を持つ白人至上主義過激派とつながりを深めている。
白人至上主義過激派は国際的なネットワークを持っている一方で、きわめて多様であり、さまざま形で活動しているため全体像がつかみにくい。

音楽は白人至上主義過激派にとって重要であり、勧誘に際してよく利用される。歌詞を通じて種差別、ネオナチ、白人至上主義を宣伝している。
YouTubeを利用して軍事訓練の映像を広めたり、フェイスブックやツイッターからバンされた後はdiscordやGabを利用している。ゲームも文化的に重要である。4chanや8chanなどの掲示板も利用されている。

●ロシアのグループとの結びつき

アメリカの白人至上主義過激派グループのひとつにThe Baseがある、このグループは他のグループに軍事訓練を行っていることで知られている。現在、リーダーはロシアにいる。
実はロシアの過激派グループはアメリカを始めとする各国の白人至上主義過激派グループに対して軍事訓練を始めとするさまざまな接点を持っている。さらにロシアのワーグナーグループのようなPMC(民間軍事企業)も同様の活動を行っていることがわかった。次回ご紹介したい。

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