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アメリカの過激派を増幅するロシアのSNS

●重要なポイント

・ロシアのSNSはアメリカの過激派(白人至上主義者や陰謀論者など)のネット上の活動拠点となっている。
・彼らはロシアのプロパガンダメディア(RTやスプートニクなど)へのリンクを共有していた。
・アメリカの4chanやGabも同様の動きをしている。
・アメリカの過激派はロシアのプロパガンダメディアの影響を受けているが、ロシアが意図的に操っているわけではない。
・このことはボットやトロールにフォーカスしても、アメリカの過激派とロシアの連携の実態や構造の解明には結びつかないことを示している。

●論文と記事の概要

ロシアのSNS(VKontakte)とアメリカの過激派の関わりを分析した論文「Connectivity Between Russian Information Sources and Extremist Communities Across Social Media Platforms」(https://doi.org/10.3389/fpos.2022.885362)が注目を浴びている。
アメリカの過激派はネット上の活動拠点をロシアのSNSに移し、小規模ながらも影響力のあるネットワークを構築していた。論文自体は昨年公開されたものだが、相次ぐアメリカの過激派の事件の犯人がロシアのSNSを利用していたことから注目されることになった。
2023年5月23日のAxiosの記事「American extremists linked to Russian sites」(https://www.axios.com/2023/05/09/american-extremists-russian-sites-shootings)に論文のあらましと、最近の事件の紹介がある。
ダラスのショッピングセンターで発生した銃乱射事件の犯人、discordリークの犯人、ISISも長期間にわたってロシアのSNSを利用していたことがわかっている。

734の過激派クラスタがロシアなどの5つのソーシャルネットワークでロシアの国営メディアへのリンクを共有していた。移⺠、人種差別といったテーマに関するヘイトに満ちたものが多い。こうした投稿は北米、ヨーロッパ、南アフリカ、オーストラリア、北欧地域など、人種間の深い溝がある場所から発信される傾向があった。アメリカの過激派の投稿に通底するテーマは「自分たちをこんな境遇にしたのは誰だ?」である。

ロシアはトロールやボットによってアメリカの過激派を操っているのではなく、アメリカの過激派がロシアの主張に傾倒している。そのためロシアのボットやトロールを調べても、アメリカの過激派とロシアの関係についてはわからない。
ロシアの国営メディアから発信された少数の記事でさえ、相互に接続された過激派コミュニティの巨大なエコシステムの中で非常に速く拡散する可能性がある。
論文の著者は、「私たちは全員勘違いしていた。ロシアの影響力の拡大にはボットの巨大な組織的キャンペーンを必要としないということなのです」と語っている。

●感想

この論文や記事に書かれていたことはこれまで私が考えていたことの裏付けになっており、大変参考になった。
ロシアがガソリンを撒いて火をつけたのではなく、ガソリンはすでに撒かれていたのだ。ロシアは火をつけることも必要ない。ガソリンの近くに来た相手にライターを貸すだけでいい。


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