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パン屋日記 #30 太陽のミタさん

歩く太陽のようなパートさんがいます。
元保育士で、現在2児の母。
名前はミタさんといいます。

「目元と口元だけお化粧がくずれるんですよー。
 どうしたらいいですかね?」

とわたしが相談すると、

『それはiccaさんが、
 たくさん笑ってるからですよ☆』と

100万ドルの笑顔で答えてくれます。

ある日わたしが、スタッフの女の子に

「いつも前髪がきれいで、
 お人形さんみたいだね」と言うと

『iccaさんこそ、
 いつもお人形さんみたいですよ☆』

と横からミタさんに入られ

とにもかくにも、
(来世はミタさんと結婚しよう)と
心に決めました。
 

ミタさんは、フォローもしてくれます。

スタッフを、
久しぶりに強く叱ってしまった日

もやもやした気持ちで
お昼ごはんを食べていると

ミタさんがパカっと休憩室のドアを開けて、
ひと言。

『iccaさんの厳しさは責任感の強さだって、
 みんなわかってますからね。
 じゃ、お先に失礼しま~す☆』


それだけ言って、帰られました。


わたしはすっかり、もやもやがなくなって
そしてすっかり、反省したのでした。


ミタさんは、
コンプレックスさえも覆してくれます。

『え! iccaさんってヘビ年なんですか~!』と
ご自身との年齢差にひととおり驚いたあと、

大事な言葉を、ぽんと置くように言いました。

『じゃあ、一生お金に困らないですね☆』

(一生、お金に、困らない?)

わたしは、うんと小さいころから今の今まで

お金に困ったことしかありませんでした。


「ヘビ年って、お金に困らないんですか?」

『ハイ☆』


ミタさんの笑顔が、まぶしすぎて。

お金に困らなかった経験など何ひとつないのに、

(そうかあ、今までは、
 勉強の時間だったのかなあ)

などという、
謎の意識革命が起こりました。

ちょうどそこへ、
小さいお子さま連れのお客さまが
来店されました。

かわいいなあ~と思って見ていると、

『子どもがほしくなりましたか?』と、
元保育士のミタさんが尋ねます。

「子ども自体は かわいいし好きなんですけど、
 自分が親になるのは怖いです。
 子どもが不幸になったらかわいそう」

『不幸?』

「はい。自立するまでの子どもって、
 圧倒的に無力だと思うんですよ。
 親の責任で幸せになったり
 なれなかったりすると思うと、
 自分にはとても」


ミタさんは焼ドーナツを袋に詰めながら、
100万ドルの笑顔で言いました。

『iccaさん、子どもは、
 自分で幸せになるんですよ』

それは

子としての自分にとっても、
親になるかもしれない自分にとっても

たいへん画期的な考え方でした。

そんなことを知る由のないミタさんの言葉が、

わたしの一日と一生を
きらきらと明るく照らしていったのでした。

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