事業と組織のフェーズに合わせたデザイン環境整備 〜エンタープライズ企業編〜
こんにちは。rootの岸(@RyoheiKishi)です。
rootは「Design Doing for More〜デザインの実践を個から組織・事業へ〜」をビジョンに、事業の成長によりそい、デザインを実践しようとする人々を支え、世界をより良く前進させていくことを目指すデザイン会社です。
前回のスタートアップ企業編に続き、エンタープライズ企業編と題して、複数事業を束ねる大きな企業の中での組織化に向けた活動についてお話ししたいと思います。(なお今回は企業名は伏せながらとさせていただきます。)
めちゃくちゃ現在進行形で進んでいるプロジェクトなので、全てをお話しはできない & 全然完結はしていないのですが、事業が複数立ち上がってきた時にどのようなことに考えると良さそうか、ヒントになれば幸いです。
事業数の増加に伴う課題の顕在化
私がこのクライアント(以降A社とします)の支援に関わり始めたのはおよそ3年ほど前。
A社にはコアとなる事業アセットがあり、それが多様な領域に応用される形で事業が展開されている中、rootは同社での複数の事業に対して支援を行っている状況でした。
私がジョインした時にはすでにA社メンバーと前任のrootメンバーにより、いくつかの事業を横断した、組織的なデザイン活動を進めていくための土台となるチームが存在しました。(以降横断チームと呼びます。)
横断チームでは当時、主に各事業におけるナレッジや仕組みの共有、ツール・アセットの統制といった活動が行われていました。またこのチームにはデザイナーだけではなく、事業開発者やエンジニアもアサインされており、直近の施策や学びなど各々の観点からの知見を共有し、また各事業に持ち帰るための場として機能していました。
しかし、徐々に事業の数が増えていく毎に、プロジェクトの数も増え、各プロジェクトにて、いくつかの課題が生じてきました。
人手が不足しはじめ、設計の品質が下がってしまったり、アサインの調整負荷が無視できなくなる
自然と事業に集中する構造が強まり、チーム貢献への動機形成が弱まる
事業チームとの期待値のズレをコミュニケーションでカバーしきれなくなる
フェーズ・ドメインが異なる事業間での文脈共有のハードルが高まり、知見共有や人材移動の流動性が下がる
ガイドライン・ライブラリ・ドキュメンテーションシステムなどの組織的資産を、どう方向づけて育てていくべきかが見えづらくなる
こうした組織的な課題が常態化すると、事業に対してデザインが常に後追いの姿勢を取ることになり、横断チームはコストセンターとみなされてしまう可能性があり得ます。事業成長に貢献し続けられる環境を作るため、rootやこの横断チームをもっと活用し、目の前の課題を解決するだけではなく、このチームが起点となって価値・プロフィットを生み出せる道筋がないのかを考えていく必要がありました。
横断チームの長期計画立案への参画
そんなある時、横断チームのコアメンバーとの会話の中で「横断チームの長期計画立案を、どう進めていくべきかに悩んでいる」ということを聞きました。担当メンバーにとっても、横断チームにとっても、このような取り組みは初めてのものですが、私は渡りに船とばかりに、この話について私からも提案をしたいとお伝えし、共に計画作りを進めることになりました。
しかし「さっそく理想的な状態を定義しましょう」といえるほどに、強力な目的がこの横断チームにあったわけではありません。
そこで、当初の中心的な問いを「事業に貢献できている横断チームのあり方とはどのようなものか」と設定し、担当メンバーと協力し、各メンバーとの1on1を実施したり、より上位の事業方針について読み合わせを行ったりして、少しずつ考えをまとめていくことにしました。
事業貢献ができている状態の認識合わせ
その中でも、手始めに組織と事業という大きな括りを持ち出し、その関係について認識を揃えられたことは良かったと思います。
あくまでも目的が事業成長であり、その事業成長に貢献する屋台骨として組織が機能すること。そしてそのために組織には目標が必要であり、目標に対する計画やアクションが一貫している必要があります。
しかし一方で、事業にはさまざまな知識や経験、価値観をもつメンバーが関わります。その中で「事業に貢献できている状態」を目指す上では、事業におけるそれぞれの役割や活動が適切に位置付けられ、目標や成果を定義する活動を行える状態が理想です。
長期的な事業ポートフォリオや注力領域での成功に向けてどのようなデザイン支援が行われているべきか
フェーズも領域もかなり異なる事業群があり、デザイン活動の評価基準を一意に定めることができない中で、どうやってその価値を定義すべきか
といったことを想像しながら、各事業の中や横断チームにとって、どのような形での支援が、どのような順番で行えていて、結果どうなると良いかを可視化し「組織的なデザインの遂行」という抽象的なテーマに対するイメージ作りを進めました。
どのような座組みや役割ができていると良さそうか?という点も「組織体制のワイヤーフレーム」として提示し、具体的なイメージを補いながら議論を進めました。
阻害要因の情報収集
ありたい状態のイメージを沸かせた後は、このイメージを現時点での観点として、実現に至るまでの阻害要因が何か、そしてどのようなことにフォーカスしていくかを検討します。
理想的な状態の実現に向けて、現場のメンバーとの1on1、各事業の活動内容の把握と比較、全社的な事業目標の読み合わせなど、色々な角度から情報を集めた結果、例えば以下のような意見や事実が見えてきました。
本質的なデザインの価値を守り、組織的に良いデザインを遂行できる広義のデザインシステムを実践したい
フェーズも領域も多様な事業群を束ねる上で、デザイン活動の価値をどう定義・評価するかが難しい
正社員だけではない今の状況で目標を定めたとしても、適切に機能するかどうかに懸念がある
とにかく人が足りず、目的と逆行した選択を取らざるを得ない場合がある
そして得られた情報とありたい状態との差分を整理し、横断チームの中でいま何が起きているのかを整理し、必要な取り組みがどういった目標や体制のもとで出来上がるべきかを整理しました。
本当に大事なのは「どんな状態でありたいか」
重点的に向き合うべきテーマが見えてきたため、コアメンバーと相談しながら、深刻な課題に繋がっているもの・長期的な貢献の幅が大きいテーマを評価し、重要なものをビジョンとOKRの素案として落とし込みました。
しかし、この検討結果をいざチームに提案してみると、この時点ではビジョンや目標が横断チーム側に寄ったものとなっていて「なぜそのビジョンと目標でなくてはならないのか?」を示しきれていないことがわかりました。
振り返ると、この時点では「最終的な状態を定めるのは難しいが、中間地点ではこうなっているはずだ」という議論に引っ張られる形で、「組織でできることを増やす」といった内容のビジョンを立ててしまっていました。しかし本当に大事なのは、組織で出来ることが増えた結果、どんな状態を目指すのかということです。
結果的にこの時点でのビジョン・目標の導入は、逆にチームを混乱させてしまいかねないとして一旦の撤回をすることになります。しかし同時に、これは横断チームにとって「ビジョンがなぜ必要なのか」を身体的に理解するための材料にもなったようにも思います。
そして現在、ここまでの結果を踏まえ、横断チームが目指すべき姿について、改めて「事業成長」という原点に立ち返って考えを再整理し始めました。改めてチームが事業成長に貢献していくために、課題の分析やストーリーの練り直しを進めています。
歩みは一歩ずつ、目線は遠くに
ここまでの話は、ひと息に提案・実践できたものでもありませんし、ここに書かれている以外のこともたくさん話をしてきました。
最初は1on1から始めて、壁打ち的に構想を発散収束しては関係者に共有を繰り返し、3か月ほどかけながら徐々に関係者を広げ議論の強度を高めていきました。
そしてその過程では、個人の想い、事業目標、仕組みや座組みまで様々なことを議論しています。
一貫して活動の中で意識していたポイントは「組織の目標はボトムアップに現れるものではない」ということです。事業の成長を目的とし、阻害要因を取り除いたり目標を達成する上で、組織として次のステージが何か、そのために何ができるか…という考え方の序列は、前回の記事、スタートアップ企業編での施策検討と同じく変わることはありません。
それぞれの想いはないがしろにしてはならないのはもちろんですが、みんなが集まっているのは企業・事業の大きな目的を達成するためという前提もあります。
組織として本当にやるべきことの優先度をつけるために、よりより解像度を上げていくにはまだ少し時間は必要そうですが、この前提は常に念頭に置いておきたいと考えています。
エンタープライズ企業編としてお話できることは以上となります。この記録が、複数事業に対するアプローチを考える上で、何かのヒントになれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。
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