Ibuki Ozawa

児童精神科医・精神科専門医 認定NPO法人PIECES代表理事。 twitter:@…

Ibuki Ozawa

児童精神科医・精神科専門医 認定NPO法人PIECES代表理事。 twitter:@IbukiOzawa

最近の記事

子どものまなざしに映る世界〜Sense of Being〜

「獲得」と「喪失」のあわいで 「もう3歳になったからさ、おっきくなったでしょ!ママみたいにおっきくなっちゃうよ」 「もう3歳になったからね、こぼさないから、これ(お膝にかけるナプキン)いらないよ!」 誕生日が近づくにつれて、積み重ねてきた月々を指折り数え、眉をキリッとあげ、「ねえねえ」と爪先立ちをしながら、子どもさんが言葉にするようになった。 私自身は、子どもさんに、「〇〇歳だから」「お兄ちゃん・お姉ちゃんだから」といった言葉を使わないようにしている。 その背景にあるのは

    • 市民性が育む社会の流れ〜互いの市民性が出会い交わされ、響きあい大河となる〜

      私たちはすでに影響しあっている 世界の、目の前の、SNSの・・様々な存在や出来事に私たちの身体や心が思わず揺れて動くことがあります。 戦争のニュースをみて心がざわっと痛んだり、SNSでの誰かの発信に思わず身体がギュッと緊張したり、雨の日に小さく震える子猫に思わず目が釘付けになったり。 初めて出会った人と、言葉は通じないのに何かが交わされた感覚に心身が弾んだり、途方に暮れている時に目の前にそっと置かれた手やまなざしに世界の色が変わったように感じたり。 思わず心がぐっと揺れ

      • 「問いを贈ろう」

        大きすぎる願いと共に どうしたら、誰かの痛みや排除の上に社会が成り立つのではなく、誰もが尊厳ある一人の人として大切にされ、異なるさまざまな存在が共に生きていけるのだろう。その世界をどう育んでいけるのだろう。 そんな大きすぎる「願い」を持ちながら、私たちPIECESは活動しています。 大きすぎる願いや痛みを目の前に、私自身、時に途方に暮れることもあります。 ただ、私自身は、それでも願う社会が私たちの手元から紡がれることを体験し、学んできました。 私は一人の人間だから、

        • なぜ市民性を醸成していくのか〜「いる」ことですでに関わり合っている私たちだからこそ〜

          市民性は私たちをケアし、癒し、エンパワーする。 「傘持ちますよ」 突然の大雨の中、ベビーカーを片手に大泣きする子どもを抱っこしながら 抱っこ紐を忘れたことを後悔しつつ、子どもだけは濡れないようにと傘の配置に試行錯誤しながらの帰り道。 声をかけてきたその女性の温かさに、片道40分の道のりを片手に子ども片手にベビーカーと傘、重い荷物を背負って、疲れ果てていた私の心が柔らかく緩み、緊張していた肩が緩み、浅くなっていた呼吸にきづき、深呼吸した。 誰もが、誰かの生きる暮らしに、環境

        子どものまなざしに映る世界〜Sense of Being〜

        • 市民性が育む社会の流れ〜互いの市民性が出会い交わされ、響きあい大河となる〜

        • 「問いを贈ろう」

        • なぜ市民性を醸成していくのか〜「いる」ことですでに関わり合っている私たちだからこそ〜

          私たちの手元から、明日へ〜PIECESのロゴに込めた想いと大事なお願い〜

          PIECESという団体名の由来〜私たちの手元にすでにある未来〜 先人たちが耕してきた社会の土壌を受け取り、この世界を共にするさまざまな存在とともに、今を育み、次の時代につなげていく。 そんな私たちの持つ大切なエッセンスが、紡がれ広がりうねりとなり、柔らかくしなやかな、優しくも躍動的で力強い次の時代への源となっている様を想像して、PIECESという名前が生まれました。 私たちの手元には、過去から手渡されたさまざまなPIECE(かけら)があり、そして今の時代を共にする人たちと

          私たちの手元から、明日へ〜PIECESのロゴに込めた想いと大事なお願い〜

          大きな事件があったとき、私たちが心を守り、社会のレジリエンスを大切にするために

          安倍元首相の事件について、さまざまな報道やSNSでの情報が流れています。 事件自体は、その人に対してこれまでどんな感情を持っていたとしても、誰もが傷つきうる可能性の高いことです。 誰もが知っている有名な人であったり、一国の首相を務めた自分たちの暮らす国と密接に関わる人である場合、より広範囲に、誰もにとって影響が起こりえます。また、「コレクティブトラウマ」という集団としての傷ともなり得ます。 このような時に心が傷つくことはとても自然なことです。 「誰もが傷つく可能性があり、集

          大きな事件があったとき、私たちが心を守り、社会のレジリエンスを大切にするために

          世界で紛争や戦争が起きている時の子どもとの関わり

          ウクライナ・ロシア情勢が刻々と変化する中で、子どもたちもニュースでそのことを目にする機会や、大人が話すことを耳にする機会が増えているかもしれません。 私たちが自分なりに社会で起きていることを受け取っているように、子どももその子なりに起こっていることを受け取っています。受け取ったことをどのように認識するか、どのように対処するかは年齢や発達により、そして一人一人違います。 いつもと違う状況やニュースなどで知ったことに関しての疑問や不安を、「大人に何度も聞く」といった形で表現す

          世界で紛争や戦争が起きている時の子どもとの関わり

          生命

          大好きなチョコレートに手を伸ばして ふと手を止める ねえ あなたの元に チョコは届くのかな ふと漂ってきた刃のような言葉に 目を凝らしながら 思わず身体を守る ねえ あなたにこの言葉は聞こえているのかな びくともしなかった私の軌道は あなたの軌道に出会ってから まるではじめて地球の周りからはぐれた月のように 彷徨いながら 自由になって まだ見えないあなたの星に耳を澄ませて 宇宙の旅に出る 新しい軌道に手を伸ばしながら 宇宙にそっと潜り込む 軌道

          あっちとこっちときみとぼくと

          こっちがぼく あっちはきみ ぼくときみの間に境界線が現れた こっちにこないで きたいときはどうするの? 現れた境界線の力に 思わず立ち止まるぼくときみの頭の上を ムクドリたちが飛んでいった ねえ ぼくも鳥になれたらいいのに あっちがぼく こっちがきみ きみがゆっくり眠れるように ぼくが自分でいられるように ぼくときみは自由に動かしたり上げた下げたりできる境界線をつくった ほっとするね そうかもね だけどぼくじゃなくてぼくたちでいたいときはどうする

          あっちとこっちときみとぼくと

          はる

          春がきたね 光を湛えた瞳がぼくを見つめる 春がいたよ ひんやりあたたかい掌がぼくに触れる ねえ みてみて 笑い声を映した瞳の中でぼくが揺れる ねえ ここにいたよ 3つになった掌がぼくの隣の空気をそっと包む 春を探すあなたのすぐそばに 春は 春になる前からそっと ぼくを探すあなたのすぐそばに ぼくは 土の中の中にそっと そっと 暮らしながら あなたの足音をきいていた 足音の世界に顔を出した今日  ぼくは あなたの瞳に映る春が ぼくだということ

          たくさんの本当の世界

          トクトクトク ぼくはぼくのからだにそっと耳を澄ます とくとくとく ぼくは今日も生きている トントントン ぼくはぼくのうしろにそっと耳を澄ます とんとんとん 誰かが階段をおりる音がする 長くて短い のぼる音よりちょっぴり低い音 パタ ぼくはぼくの手元にそっと耳を澄ます ぱた 本がそっと閉じられた音 大好きな寂しい音 キャキャキャ ぼくはぼくの横にいるちっちゃな生き物に耳を澄ます きゃきゃきゃ ぼくより小さな人の音 どうしても気になっちゃう不思

          たくさんの本当の世界

          力の行方

          あなたの力は なんのために使われるのでしょう あなたの力は 何を守ろうとするのでしょう あなたの力は どこに向かうのでしょう あなたの力が 誰かを傷つける時 もしかしたらあなたも傷ついているのかもしれない あなたの力が 誰かを癒すとき もしかしたらあなたの癒されているのかもしれない あなたの力が あなたを守るのと同じくらい 誰かを癒すものとなるように あなたの力が あなたにとっての宝物となるのと同じくらい 誰かにとっての心の泉となるように

          力の行方

          地球の散歩

          ああ、ここはどこだろう 深い深い海の底からきこえるかすかなねいろ 森にうごめく幾種もの生命の息吹の地層 街に息づく今はいないものたちの記憶 地球のプレートがゆっくりゆっくり散歩を続ける 森があくびをしてめざめる 風が虫たちのぬくもりをはこんでくる 鳥たちの囁きの隙間から 草木の笑い声がきこえる ぼくのまだ知らない命の気配 花の蕾がゆっくり伸びをする みつばちがそっと羽を休める ぼくと空の気配が溶け合う 遠くで爆撃の音がする かすかにすすり泣きが聴こえ

          地球の散歩

          ことばに「優しい間」を宿す

          目に涙をため 顔を真っ赤にして いつもより眉が上がったあの子は 普段話す声を3くらいだとしたら10くらいのボリュームで 普段話すスピードを2くらいだとしたら9くらいのスピードで 言葉を発した。 そして、手を握りこぶしにしてわたしの方に拳を向けた。 ** 「かんしゃく」というメガネで切り取られた そのメガネをそっとはずしてみると そこには一人の人の姿が浮かび上がってくる。 わたしには、その子の声がまるで「叫び」のように聞こえていたとしても わたしには、そ

          ことばに「優しい間」を宿す

          異なるものたちが共に生きる明日を共に育む 〜PoFというプロジェクト〜

          「なぜ、自然の一部であるわたしは、毛虫を毛虫という理由だけで踏み潰す人間の一部なのだろう」 「なぜ、自然の一部である人間は、そこに暮らす猫を 野良猫 と名付けて勝手にその命のあり方を決めるのだろう」 「なぜ、自然の一部であるわたしとあなたは、その違いを排除の理由に、傷つける理由に、相手の命を勝手に決める理由にするのだろう」 物心つく時から尽きることのなかった疑問と、その頃からわたしの心に育まれた「この世をともにする異なる世界を映すものたちが、時代も空間も超えて共に存在し

          異なるものたちが共に生きる明日を共に育む 〜PoFというプロジェクト〜

          狂気と祈り

          狂気が 森を焼き尽くした日の もっと前の前から 狂気が 生命のひとひらひとひらを 灰に変えた もっと前の前から 葉を広げあい 根と根を伸ばし挨拶をしあいながら 生きている この森に たくさんの祈りが 時を超えて そっと置かれてきた ただただ 祈っていた あなたのことを ただただ 祈っていた あの子のことを 風がそっとみつめる この島でうまれた 人々の祈りを その切実さを その痛みを その願いを 森がそっと包み込み 土がそっ

          狂気と祈り