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【小説】公募へ投稿するまえにチェックしておきたい項目11選

 備忘を兼ねて、小説の新人賞やコンテスト(以下、公募とします)への投稿まえに確認しておいたほうがよいことをリスト化しておきます。チェック項目だけ知りたい方は以下のリストをご確認いただいて、もう少し詳しい内容が知りたい方は後述の内容をご覧ください。また、公開後も予告なく内容の追加・変更等があり得ますのでご承知おきください。

チェック項目リスト

1. 原稿の枚数と文字数は指定範囲内に収まっているか?
 □ 枚数と文字数が指定範囲内に収まっていることを確認した
 □ 400字詰め原稿用紙換算で枚数を確認する場合、総文字数÷400で換算せず、1ページ20文字×20行の原稿用紙フォーマットのファイル(Microsoft Wordなど)で換算した

2. 原稿の体裁は整合性が取れているか?
 □ ノンブル(ページ番号)を原稿全ページに正しく振っている
 □ 縦書き・横書き、横組み・縦組み、ヘッダー・フッターは募集要項の記載どおりになっている
 □ ルビ(振り仮名)の振り方が指定されている場合、指定どおりの振り方になっている

3. 誤字脱字や表記ゆれがないか? 基本的な文法は守られているか?
 □ 誤字脱字がないことを確認した
 □ 同音異義語、送り仮名、漢字の閉じ・開き、英数字・記号の全角・半角は原稿全体で表記が統一されている
 □ 行頭は1文字分空けてある(行頭が括弧「」の場合は空けない)
 □ 中黒「・・・」ではなく三点リーダを2個ワンセットで「………」としている
 □ ハイフン「----」ではなく全角ダッシュを2個ワンセットで「――」としている
 □ 感嘆符「!」と疑問符「?」の直後は1文字分空けている(閉じ括弧の直前の場合は空けない)

4. カテゴリエラーにならないか?
 □ 投稿予定の作品は、募集要項の記載から大きく外れるようなカテゴリ/ジャンルではない

5. 人称と視点は統一されているか? または整合性が取れているか?
 □ 原稿全体で人称と視点は統一されている
 □ 群像劇や連作短編などで意図的に人称と視点を使い分けている場合、意図したとおり整合性が取れている

6. 読者像は明確になっているか?
 □ 主にどんな人が読んでくれそうか、どんな人に読んでほしいか、具体的なイメージを持っている

7. あらすじは物語の全体像と流れが理解できるものになっているか?
 □ 物語の冒頭からラストまで過不足なく書かれている
 □ 文字数制限がある場合、指定された範囲内に収まっている
 □ ボカシやヒキを用いていない(例外を除く)

8. (プロットを提出する場合)一読して物語の構造が理解できるものになっているか?
 □ 物語の骨格・要点が冒頭からラストまで明確に言語化されている
 □ 原稿の内容と齟齬がない

※以下、興味のある方はチェック
9. その形容詞は本当に効果的か? 同じ単語を集中的に多用していないか?
 □ 文中の形容詞は効果的に使われている(と自信を持って言える)
 □ 1,2文の中で同じ単語が何度も出てきていない
 □ 形容詞の多用や同一単語の集中的多用がある場合、省略したり類義語で代替できないか確認した

10. 体言止めを多用していないか?
 □ 体言止めを用いている場合、ここぞという箇所でのみ使われていることを確認した

11. 作品に情熱や個性を込められたか? 自分で読み返しても魂が震えるものになっているか?
 
□ 読んでテンションMAXブチアゲになる

記・明治依吹

 これらのチェック項目で確かめたいことは、端的に言うと「募集要項を遵守できているか」「しっかり推敲できているか」に尽きます。

 誤解のないように述べておきますが、これらのチェック項目は公募の受賞 or 選考通過を保証するものではありません。また、いわゆる創作論に類するもののつもりはありませんし、押しつけるつもりもありません。ご理解いただけますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

 このnoteをご覧いただいている方々、特に公募へ今まさに作品を投稿しようと考えている方々にとって、部分的にでも構いませんのでお役に立てられれば幸いです。以降、項目別にもう少し詳しくご紹介しますので、必要に応じてご参照ください。



0. 募集要項をもう一度熟読しましょう【最重要】

 募集要項をきちんと守れていないばっかりに、せっかく書き上げた作品がほとんど読まれもせずに落選となってしまうケースがあります。

 公募では、本当にちょっとしたことで選考の当落が左右されます。募集要項をもう一度熟読して、きちんと遵守したうえで投稿しましょう。

1. 原稿の枚数と文字数は指定範囲内に収まっているか?

 公募では、原稿全体の枚数と文字数の範囲が決められ、原稿1枚あたりの文字数と行数が指定されている場合がほとんどです。手書きの場合は基本的に原稿用紙を用いると思いますので、ここではWeb投稿を前提とします。

 たとえば、電撃小説大賞(長編部門)だと1ページあたり42文字×34行で80~130ページ(カクヨムからの応募の場合は異なります)、群像新人文学賞だと400字詰原稿用紙で70枚以上250枚以下というように、公募によってルールは様々です(2024年5月時点)。

 原稿のテンプレートファイルが主催者から提供される場合は、そのまま使用しましょう。テンプレートファイルが提供されていない場合は自身で原稿ファイルを用意する必要がありますが、指定された文字数×行数に合わせられているか確認しましょう。

 また、上記の群像新人文学賞のように「400字詰原稿用紙で○○枚」とだけ指定されるケースも多いです。このとき、投稿用原稿ファイルのフォーマットを原稿用紙のフォーマットと揃えない場合は注意が必要です(例:投稿用は40文字×34行、原稿用紙は20文字×20行)。

 この場合、Microsoft Wordなどのエディタで算出した総文字数を400で割ればよい、というわけではありません。書き上げた原稿の総文字数が仮に8万文字だとしても、本文中には空白マスや空行なども含まれるため、単純計算して原稿用紙換算で200枚に収まるとは限らないのです。また、改行や改ページなどの調整ミスで、気づかないうちにギリギリ1枚分超過してしまうこともあり得ます。

 あらかじめ投稿用原稿ファイルとは別に、20文字×20行の原稿用紙フォーマットのファイルを用意しておいて、原稿が書き上がった段階で本編全文をコピー&ペーストして原稿用紙換算でも指定範囲内に収まっていることを確認しましょう。

2. 原稿の体裁は整合性が取れているか?

 ノンブル(ページ番号)や縦書き・横書き、縦組み・横組み、ヘッダー・フッター、ルビ(振り仮名)の振り方、などの体裁面について、募集要項の記載どおりになっているか確認しましょう。

 ルビについては、不要と明言している公募もあれば、括弧で囲うようにする(例:「明治依吹(めいじいぶき)」)こともあります。また、エディタの機能を使ってルビを振っても構わない場合もあります(例:明治依吹めいじいぶき)。

 公募によっては原稿の体裁に関して「よくある質問」や「Q&A」として公式サイト上に公開している場合もありますので、チェックしてください。

3. 誤字脱字や表記ゆれがないか? 基本的な文法は守られているか?

 誤字脱字を完全に失くすのは難しいですが、何度も確認しましょう。どんなにアツい展開やエモいシーンが描かれていたとしても、誤字脱字が紛れてしまうと、読者の意識はそこで一瞬途切れます。その分、アツさやエモさが、ほんの少しとはいえ損なわれます。もったいないですね。

 また、物語の冒頭からラストまでの間に何度も出てくる言葉について、表現は統一されているでしょうか? 特に同音異義語や送り仮名、漢字の閉じ・開きには注意が必要です(例:「伺う」と「窺う」、「行う」と「行なう」、「時」と「とき」、など)。意図的に使い分けている場合は別ですが、基本的には表記を統一しましょう。また、単純なタイピングミスにはご注意を。

 英数字・記号の全角と半角も統一しましょう。物語の本筋には影響ないとしても、たとえば全角「1」と半角「1」が入り混じっていたり、全角「note」と半角「note」が混在していたりすると、選考者からは物書きとしての言葉へのこだわりや注意力などに疑問を呈されるかもしれません。

 行頭は1文字分空ける(行頭が括弧「」の場合は空けない)、中黒「・・・」ではなく三点リーダを2個ワンセットで「……」とする、ハイフン「----」ではなく全角ダッシュを2個ワンセットで「――」とする、感嘆符「!」や疑問符「?」の直後は1文字分空ける、などの基本的な文法は守られているでしょうか?

 特に「……」と「――」については、長い沈黙やなどを表現したいときに2個以上つなげて用いることがあると思います。その際も「……………………」や「――――――」のように偶数個(2,4,6,8……)使用しましょう。また、感嘆符と疑問符を組み合わせる場合は全角で「!?」ではなく半角で「!?」とするのが基本です。

 公募や選考者によっては、多少の誤字脱字や表記ゆれ、文法ミスはそれほど気にしていない場合もあります。とはいえ、冒頭からラストまでもう一度読み直して、読み手への配慮だと思って誤字脱字や表記ゆれ、文法ミスがないか何度も確認しましょう。

4. カテゴリエラーにならないか?

 たとえば、ガチガチのエログロサスペンス小説を児童書の新人賞に投稿しても門前払いの可能性が高いでしょうし、ゴリゴリの異世界ファンタジーライトノベルを純文学の新人賞に出しても選考通過は難しいのが現実でしょう。

 いわゆる《カテゴリエラー》ですね。上記のようにわかりやすい例であればまだしも、「自分が書き上げた作品は本当にこの公募で求められてるカテゴリ/ジャンルと合致してるの???」と判断が難しい場合も多いです。

 まずは、募集要項の記載をしっかりと確認しましょう。「広義のエンターテインメント」などと端的かつ抽象的に記載されている場合は、過去の受賞作やその出版社・レーベルの既刊のラインナップを調べてみましょう。

 または、第三者に読んでもらって意見を伺うという手もあります。これはカテゴリエラーに限らず、自分では気づいていなかった視点を得られる場合が多々あり、非常に有効です。読み手を身近で探すのが難しければ、ココナラなどの有料サービスを利用するのも選択肢の一つです。

5. 人称と視点は統一されているか? または整合性が取れているか?

 ここでは紙面の都合上、小説における人称と視点の考え方についての解説はしませんが、ミスが起きやすいポイントです(私もやらかした経験あり)。かつ、読者が混乱しやすくなってしまうポイントでもあります。

 読者が「一体どういうことだ???」となりがちな事例は、三人称・神視点で視点キャラが頻繁に変化した、一人称・主人公視点で物語が進んでいたけれどいつの間にか三人称になっていた、一人称・主人公視点で語られているのに主人公が知り得ないことまで描写されていた、などです。

 群像劇や連作短編なども含め、意図的に人称や視点を切り替えたり使い分けたりする場合は、物語全体で意図したとおりに整合性が取れているかを確認しましょう。少しでも自信が持てないのであれば、このような人称と視点の切り替えや使い分けは避けて、冒頭からラストまで人称と視点を統一したほうがよいです。

6. 読者像は明確になっているか?

 書籍化につながる公募の場合、もし受賞して出版されたら主にどんな人が読んでくれそうか、というイメージを持つことは大事です。その読者像が具体的であればあるほどよいです。

 どんな大ベストセラー小説でも、読者からはポジティブな感想だけでなく「とんでもない駄作だった」「生理的に受けつけなかった」などのネガティブな感想も必ず出ます。しかし、自分が書いた作品はどんな人に読んでもらいたいのか、どんな人が読んでくれるのだろうかという読者像をはっきりイメージしておくことで、ターゲットや物語の方向性がより明確になります。

 恋愛ものを好む読者は恋愛ものを中心に展開しているレーベルの作品群を好む人が多いでしょうし、SFものを読み漁っている読者はSFもののラインナップが豊富なレーベルの作品群を読む人が多いでしょう。そのようなレーベルの公募では、まさに彼ら・彼女らがターゲット読者になります。

 また、地方の公的団体・組織や新聞社が主催している公募であれば、主にその地域の広報誌や新聞の読者がターゲットになり得ます(例:北九州市立文学館主催の林芙美子文学賞、北日本新聞社主催の北日本文学賞)。

 投稿まえに、できれば執筆に取り掛かるまえに、少しだけでもよいので「もし受賞して書籍化したら、どんな人が読んでくれるかな?」と想像してみましょう。

7. あらすじは物語の全体像と流れが理解できるものになっているか?

 多くの公募では、原稿と一緒にあらすじ(梗概)の提出も求められます。あらすじはその物語のおおよその筋道を表したものなので、本編を読んでいない状態でもあらすじを読めば「なるほど、こんな物語なのか」と理解できるように記述しておく必要があります。

 400字以内や800字以内など、主催者側から文字数制限を設けられるケースが多いです。書き上がったあらすじは、指定された文字数の範囲内で物語の冒頭からラストまで抜け漏れなく表せているでしょうか?

 基本的に、あらすじで「真犯人は一体誰なのか……!?」「このあとの展開やいかに……!」などのボカシやヒキは不要です。ただし、公募によっては投稿形態や主催者の意図の違いなどにより上記のようなボカシやヒキが許容され、むしろ有効なケースもあるようです。詳しくは、投稿予定の公募の募集要項や過去の開催傾向をご確認ください。

 あらすじをしっかりと書けるということは、その物語の構成や重要なポイントを著者自身がきちんと理解していて、かつ簡潔に言語化して他者に伝えられるということです。あらすじを書くことに苦手意識のある方も、根気強く何度も書いてみて、物語の全体像と流れを抜け漏れなく表せているかチェックしましょう。ここでも、できれば第三者に読んでもらって、自分の意図したとおりに物語の筋道が伝わるかどうか確認できれば、なおよいです。

8. (プロットを提出する場合)一読して物語の構造が理解できるものになっているか?

 公募によっては、あらすじだけでなくプロットも提出するよう求められる場合があります。

 私の理解では、小説のプロットはあらすじよりもさらに詳しい設計図のようなものです。小説に限らず、モノづくりにおいて設計図がないまま着手すると、必要なはずの部品が抜けてしまったり、想定とは別の部品を無理やり使ってしまったり、部品の組合せや向きを間違えたり、最悪の場合はイチから全部作り直しになってしまったり……などの事態が容易に発生します。小説の場合は、物語の展開が迷子になってしまい、読者は「何がなんだかよくわからぬ……」となって途中で投げ出す、という事態も充分にあり得ます。

 プロット(=設計図)をどのくらい作り込むかというのは、著者によって個人差がありますが、少なくとも物語の骨格と要点は確実におさえておきましょう。これだけでも、物語が迷子になることをある程度は防げます。ここでは紙面の都合上、物語の骨格と要点の捉え方について解説はできませんが、起承転結や三幕構成などの考え方・手法なども参考にしてください。

 また、本編を書くうちに当初のプロットと物語展開が変わってしまうのは、ごく普通にあり得ますのでそれほど気にしなくて大丈夫です。その場合、書き上げた本編の内容に合わせてプロットを修正するのをお忘れなく。


 ここからは、書き手によって捉え方が若干異なると思われる内容ですので、ご興味のある方はご参照ください。

9. その形容詞は本当に効果的か? 同じ単語を集中的に多用していないか?

Q1. 文中で使った形容詞が効果的でない場合、どうなりますか?
A1. 読者によってはくどいと感じたり、固定的な印象を抱いてしまう可能性があります。

記・明治依吹

 形容詞は、使わなくて済むのであればなるべく使わないほうがよい、別の表現や描写で代替できるのであればそちらのほうがよい、と個人的には捉えています。

 たとえば「美しい花」と表現すると、どの読者に対してもその花の印象を「美しい」と規定することになります。文脈を辿っていけば読者によっては醜い花、異様な花、不気味な花などの印象を持つかもしれないのに「美しい」と書かれてあるので、読者は違和感を覚えるわけです。

 形容詞は、上手く用いると印象深くなって効果的です。全く使うなということではありません。一方で、小説の執筆において使い方や使いどころが難しいものの一つですので、細心の注意を払いましょう。

Q2. 同じ単語が集中的に多用されてしまうと、どうなりますか?
A2. 読者の目が滑ります。

記・明治依吹

 なぜ目が滑る(=読み飛ばす)かというと、同じ単語が近い範囲内で多発してしまうと読む負荷が高くなって疲れてしまうので、それを無意識的に(あるいは意識的に)避けようとするからです。そして、読み飛ばしてしまうほどに物語の内容が頭に残りづらくなり、作品の印象は全体的に薄くなりがちです。もったいないですね。

 以下、例文です。

昔話を始めた店主は、話せば話すほど客との会話も対話も忘れてしまい、独話状態になった。最初の話では、彼が皆と談話したいと話していたのに。

記・明治依吹

 ……書いていて「くどいな」と感じました。たった2文で9回も《話》という字が出てくると、読むのが大変になってきますね。あとは、上記の例文の場合はそもそも漢字の割合が多いので、それも相まって頭に入りづらくなっています。いくらでも改善の余地がありますので、練習がてら上記の文章を「自分だったらこう表現する」という意識で直してみてください。

 まとめます。その形容詞、本当に必要ですか? なくても意味が通じたり、別の表現や描写で置き換えられそうですか? その単語、近い範囲の1,2文の中で何度も出てきていないですか? 省略したり類義語などで代替できそうですか?

10. 体言止めを多用していないか?

 作文技術の本などで言及されることも多いのですが、体言止めは公募の選考者からはあまり良くない印象を持たれがちです(私もやらかした経験あり)。体言止めの文章とは、たとえば以下のように、その名のとおり末尾が体言(名詞・代名詞・数詞)で終わっているものです。

本棚から一冊の文庫本を取り出す明治依吹。その表紙を見て、一つため息。

記・明治依吹

 一見特に問題なさそうですが、この文章では、たとえば「一つため息」を「ついた」のか「つこうとした」のか「思わず漏れ出た」のか「意図的に吐き出した」のか、書き手がイメージしているニュアンスが読み手に伝わりにくくなっています。また、主語が文の最後で明らかになるのは読者への負荷が上がってしまう場合が多いので、なるべく避けたほうがよいでしょう。

明治依吹は本棚から一冊の文庫本を取り出した。その表紙を見て、明治は一つため息が漏れてしまった。

記・明治依吹

 こう書いたほうが、比較的シンプルに伝わりやすいでしょう。このあたりの捉え方は読み手の感覚次第ですし、書き手の使い方次第でもあるのですが、少なくとも公募に投稿する作品では体言止めはなるべく避けたほうが無難です。あるいは、全く使わないのではないとしても、ここぞという箇所で使って他の部分では濫用を避ける、といった取捨選択が大事です。

11. 作品に情熱や個性を込められたか? 自分で読み返しても魂が震えるものになっているか?

 もしかしたら、募集要項を遵守することの次に重要かもしれません。著者自身が感動できない物語は人を感動させることはできないという、非常にシンプルな話です。賛否両論あると思いますが、私はそう信じています。

 書き手の方には多かれ少なかれご理解いただけると思いますが、小説を書いている最中って「むひょひょーッ! おンもしろーゥい!!!」ってなる瞬間があるんですよね。気づいたら普段より筆が進んだ、なんてことは書き手のみなさんであればきっとご経験があると思います。

 そして、その「むひょひょーッ!」って、読者にも伝わるんですよね。一種の情熱であり、個性が発現する瞬間でもあります。そういった熱量が物語に込められていないと、きわめて淡々とストーリィが流れていってしまい、読者としては「ふぅん……?」と没入することなく読み終える、あるいは途中で読み捨てることになります。

 ミステリィなどの論理性が比較的高い、どちらかというと冷静でクールな思考が求められるようなジャンルでも、トリックやストーリィ展開、心理描写などの観点で「むひょひょーッ!」となることはありますので、同様です。

 たとえば、綾辻行人さんの『十角館の殺人』でも最後の最後でほとんどの読者はひっくり返ります。ネタバレになるので詳しくは語りませんが、読者はそこでテンションMAXになりますし、著者もそれを狙って書いていて、著者自身も書き上げた瞬間は「むひょひょーッ!」となったに違いありません(綾辻先生ごめんなさい)。

 また、ベストセラー作家のインタビューや記事を見ると、真逆の意見を目にすることがあります。要約すると「ビジネスライクに書いているので『むひょひょーッ!』なんて瞬間はない」「著者は一貫して冷静であるべき」などなど。理路整然と、創作に対する冷静さを滔々と語られています。

 そんなわけがないんですよ。著者自身が書いていて熱中しない物語なんてプロの作品では存在しないし、書いている本人が没入してテンションMAXブチアゲふぉーーーうッ! にならないなんて、そんなことはありえません。もしあるとすれば、そのような作品はおそらく世に出すことができないクオリティか、出せたとしても大爆死しているでしょう。

 もちろん、書き手として作品全体を俯瞰して見る力や全体のバランスを整合させる力は重要です。その意味では冷静さによって作品のクオリティを保つという側面も併せ持つ必要があります。

 ちなみに自著『アルゴリズムの乙女たち』については、投稿するまえから初稿の段階で既に身悶えしていましたし、受賞した瞬間はもちろん、度重なる改稿の中でも毎回悶えていましたし、刊行されてからも「むひょひょーッ!」と悶えています。およそ1年半の間、悶えっぱなしです。作家の異常さ、おわかりいただけただろうか……(当社比)。

 これから公募に自作を投稿しようとしている、あなた。その物語は、自分自身が読み返しても「むひょひょーッ!」となりますか?


 以上です。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 公募では、何百何千という投稿作品の中から受賞できるのはわずか数作品です。受賞作ゼロの場合も普通にあり得ます。小説の中身で勝負というのは当然ですし、公募によって本当にケースバイケースなのですが、このnoteで挙げたチェック項目すらクリアできていないようであればそもそも選考の土俵に立てないのでは、と個人的には考えています(あくまで私個人のスタンスです)。

 厳しいことを言っているように感じられるかもですが、実際に受賞への道はそのくらい厳しいのが現実です。仮に500作品の中から1作品だけが受賞となると、受賞率はわずか0.2%です。大賞・佳作・奨励賞などの組合せで3作品受賞だとしても0.6%です。

 ちなみに、チョコボールの銀のエンゼルが4%前後、金のエンゼルが0.04~0.1%程度だそうなので、公募で受賞するのは金のエンゼルが当たるのと同程度ということに。あれ、そう考えたら意外とワンチャンある……?

 ここまでいろいろと述べてきましたが、過度に悲観的になる必要はなくて、要するに「守るべきルールをきちんと守りましょう」「書き上げた作品はしっかりと磨き上げましょう」というシンプルな話です。

 このnoteで挙げたチェック項目は、書き手にとっての転ばぬ先の杖というだけでなく、選考者を含む読み手への心配りの一環でもあると個人的には理解しています。10万文字を超える長編小説であれば、個人差はあれど読了するのに数時間かかるでしょう。読み手はその数時間を投稿作品に対して費やしてくれるのです。

 また、書き手の気持ちとして「読み手に楽しんでもらいたい」「何か1つでも心に残るものを見つけてもらいたい」などの願いを多かれ少なかれ持っていると思います。チェック項目の確認は、その願いを着実に実現させるための営みでもあります。

 このnoteが、公募に挑戦するみなさんのお役に立てれば嬉しいです!


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