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最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージの紹介

2020年度は多くの学校で、オンライン授業が実施され、様々な試行錯誤が行われてきました。その状況でいろいろな工夫をしてよいオンライン授業をしている先生方がいる一方で、どうしたらよいのかわからず、苦戦していたり悩んでいたりする方も多いようです。

私は実践・活動の研究をしている者として、2020年に行われた試行錯誤・実験から得られた知見やコツ、その結果見えてきた考え方を研究してとりまとめることができれば、よりよいオンライン授業づくりの支援となるのではないか  ---- そのような思いで、オンライン授業をつくる上での「大切なこと」を明らかにする研究を始めました。

私、井庭 崇(慶應義塾大学SFC総合政策学部教授)と、井庭研究室のプロジェクト・メンバー、林 聖夏、柴田 爽水、井上 絵里加、足立 紗英で、2020年度後半に毎日のように(オンラインで)集まり、作業・議論し、非同期でもやりとりをしながら研究を進めてきました。

本研究の素材となっているのは、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)の大学教員13名と小学校・中学校・高校の先生方を合わせた計25名へのインタビューです。得られた知見は、パターン・ランゲージというかたちでまとめています。パターン・ランゲージとは、よい実践事例の背後にある本質的な型=パターンを捉え、ちょうどよい中空レベルの抽象度で言語(ランゲージ)化するというものです。

ここでは、その成果「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」の概要を紹介したいと思います。多くの方の発想や実践の参考となり、授業の計画と改善に役立てていただければ幸いです。

「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」(オジパタ)

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オンライン授業をしようとするとき、これまでのリアルな教室での授業をオンラインに載せ替えるという気持ちで臨むと、「オンラインだとこれができない、あれができない」と限界や困難ばかりが気になってしまうものです。リアルな教室に適したかたちでつくられ最適化された従来の授業を、オンラインの全く異なる環境・前提で行おうとすると、無理や困難が生じるのは当然のことだと言えます。

そこで、改めて、オンラインの環境を前提とした《授業の再設計》を行うことが大切になります。

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オンラインであることを前提として、もう一度、授業をつくるのです。オンラインにはオンラインならではの良さもあります。それもうまく活かしながら、新しい時代の学びのかたちをつくるという気持ちで授業をつくっていくのです。

そのためには、何が大切でしょうか?

私たちの実践・研究のなかで見えてきたのは、次の3つのことです ---「離れた世界をつなぐ」、「新しい学びのかたちをつくる」、「居場所をつくる」。以下では、それぞれについて見ていくことにしましょう。

■ 離れた世界をつなぐ

オンライン授業では、教員も学生もそれぞれの場所から遠隔で参加しているので、それらの「離れた世界をつなぐ」ということが不可欠となります。これは授業を行う上での前提ですので、避けて通ることはできません。

リアルな教室での授業に慣れている教員が最初にぶち当たり、面喰らうのは、まさにこの点です。これまで教室という空間が、当たり前のようにあったものが、無いのです。オンラインでは、教員が、分散されている人たちをつなぎ、インタラクションが生じやすい環境をつくる必要があります。それは、授業づくりの一部と言えるのです。大丈夫です。すぐに慣れて、問題なくできるようになりますから。

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【顔が見えるラジオ】

オンライン授業をやってみて、多くの教員が感じる最大のやりにくさは、学生たちのちょっとした反応・空気感が、リアルの教室のようには感じとれないということです。今までそのちょっとした反応や空気感を捉え、それを踏まえて語ることに長けていた分、「真空に向かって話す」というような、かなりのやりにくさを感じます。

そこで、発想の転換が必要になります。授業をスタジオから配信している「ラジオ番組」のようなものだと捉えるのです。もちろん、音声だけの本当のラジオとは異なり、授業では自分の映像や授業資料なども配信されるので、いわば【顔が見えるラジオ】と言うことができるでしょう。

まず、自分は《ラジオ・パーソナリティ》のように、遠くにいるリスナーに声を届けているのだと思うようにします。たったそれだけで、オンライン授業でもかなり話しやすくなります。

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授業は、できれば、一方通行な伝達ではなく、インタラクティブな授業にしたいと思うものです。しかし、質問や意見の吸い上げを、授業時間内にすべてやろうとすると、時間も限られているので難しいものです。そこで、ラジオ番組のメタファーで、リスナー=学生からの「お便り」を募集し、次の授業で取りあげるという工夫をすると、《時間差インタラクティブ》が可能になります。

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さらにラジオ番組のメタファーは、制作・運営においても、参考になります。ラジオ番組の収録で、トークも進行も機材の調整も一人ですべてやるなんてことがないように、オンライン授業も複数人の《運営チーム》で準備・実施するのです。そうすることで、よりよいスムースな配信が実現できます。

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【授業の世界に惹き込む】

【顔が見えるラジオ】としての授業をより魅力的にするためには、【授業の世界に惹き込む】ことが大切です。まず、それぞれのリスナー=学生は、家など日常生活の場から参加しているので、気持ちの切替えが必要でしょう。そこで、オープニングの映像をつくったり、日常的なゆるい話(雑談)などの《オープニング・コンテンツ》から入る先生方がいます。これは、とても好評のようです。

授業中は、パソコンやタブレットの前で単に情報を受け取っているというのではなく、ワクワクしたり好奇心が高まったりするような時間になってほしいものです。オンラインでは、遠くに離れているからこそ、《面白さが伝わる語り》を意識するのです。教員のパッションや熱量は、ネット経由でも伝わります

さらに、教員の一人だけの音声を聞くという密閉的な場にならないように、マイクを常時オンにしておいて、「へぇ」とか「なるほどぉ」などちょっとした反応を返してくれる《リアクション・メンバー》を置くと、この授業に複数の人がいるという気配も届けることができます。

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【反応をお互いに感じられる工夫】

もちろん、授業は、教員が学生に向かって語るというだけの場ではありません。学生同士がお互いの気配と反応を感じながら、一緒に授業を受けているということも大切です。【反応をお互いに感じられる工夫】によって、教員と学生の一対多ではなく、そこに参加する人全員の多対多の関係・コミュニケーションを促すようにします。

教室ではお互いに顔が見える関係のなかで学んでいましたが、オンライン上では、カメラをオンにもオフにもできます。みんな家から受けているということもあり、プライバシーへの配慮から、参加している学生たちにカメラをオンにしてもらうかどうかは、教員にとって実に悩ましい問題です。しかし、学生たちに聞いたところ、どうやら、カメラをオンにしている授業の方が「他の人と一緒に参加している感じがする」ということで、授業の方針として《カメラオンの推奨》をする方がよいという声が複数ありました。相手の顔が見えない状態は、教員も話しづらいものですが、ブレイクアウトで学生同士話したいをするときにも、とてもやりにくいので、《カメラオンの推奨》は、学生のためによいのです。もちろん、オフにしてもいいという選択肢は残しつつですけれども。

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そして、多くの先生が、オンライン授業中のチャット機能をよく活用しています。自由に書き込んでもらい、それを適宜拾ったりするのです。音声での発言は、リアルな教室で手を挙げて発言するときのように、心理的なハードルが高いのですが、チャットへの書き込みは気楽に行えると、学生たちは言います。実際、これまでのリアルの授業では得られなかった、ちょっとした反応や感想、発想などが、チャットに書き込まれます。このように、音声による発言だけでなく、チャットへの《書き込み発言》も促します。

とはいえ、やっぱり最初にチャットに書き込むというのは、少し勇気がいるようです。そこで、TA(Teaching Assitant)などに、《チャットの呼び水》となる最初の書き込みをしてもらったり、適宜書き込んでもらったりすることで、書き込みやすい雰囲気と流れをつくります。どんどん書き込まれ、流れていくチャットには、ますます書き込みがしやすいのです。

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このような工夫によって、学生同士、一緒に授業を受けているということを感じながら、授業に臨むことができます

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【学生同士のインタラクション】

ブレイクアウトルームなどを活用することで、音声での【学生同士のインタラクション】を促すこともできます。

おすすめなのは、30分とか1時間ほど、講義をしたら、学生同士で感想を言い合う《感想おしゃべりタイム》を設けることです。これは、リアルな教室では自然にできていた、隣の人に「面白いね」と言ったり、聞き損ねたことやわからないことをこっそり聞いたりというようなちょっとした会話をオンラインで実現するためです。ポイントは、「感想おしゃべり」と言っているように、感じたことや思ったことを共有し合うゆるい時間として設定するのであって、話し合いや議論の時間にはしないということです。この時間が終わった後も、どんな話が出たかを全体で取り上げたりはしません。息を吸ったら吐くように、話を聴いたときに感じたり思ったりしたことを出して共有するという、自然な営みの時間なのです。

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また、そのような《感想おしゃべりタイム》や、話し合いのグループワークなどで、ブレイクアウトルームに分けるときには、《話し始めのルール》を設定してあげると、最初からスムースに話し始めることができるようです。空気感が読みにくいオンライン環境では特に、誰から話し始めるのか・仕切るのかを巡って、なんとも居心地の悪い牽制し合いで時間がたってしまいがちです。そこで、「ファースト・ネームのあいうえお順」や「今日以降最も誕生日が近い人から」など、わかりやすく一意に決まるルールを設定すると、すごく話しやすくなると、学生たちは言っています。

そして、授業中に何度か《感想おしゃべりタイム》や話し合いの時間をつくるときには、《同じメンバー》でブレイクアウトするようにします。そうしないと、毎回自己紹介をしなければならなくなります。《同じメンバー》で集まれば、自己紹介がいらないだけでなく、徐々に打ち解け、心理的安全性も高まり、話しやすくなります

このように、オンラインでのコミュニケーションのとりにくさをうまく解消・克服するための支援も、授業づくりの一貫だと言えるでしょう。

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以上のような「離れた世界をつなぐ」ということが、オンライン授業を成り立たせる前提として重要です。それが成り立つことで、ようやく、「新しい学びのかたちをつくる」ということが可能になります。


■新しい学びのかたちをつくる

リアルの教室に慣れている私たちは、オンライン授業で失われてしまったものに意識が向きがちです。しかし、実は、オンラインであることは残念なことばかりではなく、オンラインであることの良さもあります。リアルな教室ではできないような、「オンラインならでは」の授業をつくることができるのです。

その良さとはどういうもので、どう授業に活かすことができるのでしょうか?ここからは、そのことについて見ていくことにしましょう。

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【分散された環境を活かす】

まず、それぞれが別々の場所から参加しているという前提を逆手に取り、【分散された環境を活かす】ことができます。学生がそれぞれ違う地域に住んでいることから、家の周辺を観察したり、家の中の物を活用したりすることで、《それぞれの場所》から参加しているからこその学びを実現するのです。

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また、ゲストスピーカーや教員が、遠方に住んでいる場合、いま居る場所から《現地からのリアリティ》を共有するような中継や現地レポートが可能です。これは、学生たちに本人に教室に来てもらって話してもらうことでは味わえないリアリティを感じてもらうことができます。

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さらに、リアルな教室では絶対にできないようなことが、匿名やハンドルネームでコミュニケーションができるオンラインでは可能です。そのように、リアルではできないような、オンラインならではのやり方も、《匿名のメリット》として活かすことができます。

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【情報空間を介した学びの設計】

次に、オンライン授業では、全員がパソコンやタブレットを用いて授業に参加しているということをうまく活かすと、リアルな教室空間では難しかったようなことがやりやすくなります。工夫次第で、【情報空間を介した学びの設計】が可能です

例えば、絵や図を描くということを、カメラ映像やアプリの画面共有で共有することができます。実際に《目の前でつくる》のを見せることができるのです。教室で遠くのスクリーンに映し出されたデモを見ているよりも、自分のパソコンやタブレットの画面という、すぐ目の前で起きているように表示されるので、なんだか、まるで自分でつくっているかのような擬似体験になります。

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また、ブレイクアウトルームを簡単にたくさんつくることができるというメリットを活かすと、成果発表会などのつくり方も変わってきます。例えば、グループワークの成果を発表するときに、代表者がプレゼンをするのではなく、グループ・メンバー人数分のブレイクアウトルームを設け、メンバー全員が(それぞれの部屋で)発表するということができます。クラスの他の人は、各部屋にランダムに割り振りするのですが、少人数なので、質問をしやすくなるメリットもあります。このように、リアルな空間では、部屋を必要に応じて増やすということは、なかなか難しく、移動にも時間がかかりますが、情報空間では《パラレル・ルーム》をつくることは簡単です。

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また、履修者が全員参加するコミュニケーション・プラットフォーム(slackやLMSなど)を用いると、学生同士、《他の人の感想》を読むことができるようになります。例えば、授業の感想であったり、課題文献への感想であったり、プレゼンに対する感想などを、そのプラットフォーム上に提出してもらうようにするのです。そうすると、同じ内容に触れた他の学生が何を感じたのかを知ることができます。これは、紙に書いて提出してもらったのでは、実現が難しいことです。実際に、他の学生の感想を読んで気づきや学びがあった、という声が多くあります。

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【部分から全体を編み上げる】

リアルにおいてもオンラインにおいても、クラス全体で何かを生み出すということは難しいものです。授業・クラス全体としての学びや発見を生み出すためには、【部分から全体を編み上げる】ようにして、学びや発見を紡いでいくことが大切です。これは、オンラインの場合、より効果的に行うことができるようです。

まず、全体での話し合いで、いきなり発言を求めても、躊躇してしまうことが多いと思います。あるいは、いつも同じ人が話したり、上級生だけが手をあげたり、ということになりがちです。そこで、まずは《小さなグループから》話し合いを始めるようにして、それから人数の多い場へと移っていくことにします。小さいグループ → 全体、もしくは、小 → 中 → 大と展開します。そうすると、少人数の場は話しやすいので、いろいろな話が出てくるし、「私もそう思った」とか「それ、面白い!」というような会話になり、意見やアイデアが、未評価な不安なものではなくなります。その上で、より人数の多い場になったときに、自分たちの部屋でどんな話が出たのかを、部屋の誰かに話してもらいます。こうすると、自然と意見・アイデアが吸い上げられ、全体の場に出るようになります。

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さて、まったく別の観点の話をしたいと思います。かつて、教育に大きな影響を及ぼした心理学者 ジャン・ピアジェがこんなことを言っています。「本当に大切なことは、子どもが自分自身の教材を作ることなのです」(リチャード・エヴァンス, 『ピアジェとの対話』, 宇津木保訳, 誠信書房, 一九七五年, p.103)と。学生たちは、与えられた教材から学ぶだけではなく、自分たちが学ぶ教材をつくりながら学び、そのつくった教材から学ぶことができます。これは、「クリエイティブ・ラーニング」(創造的な学び)の重要なひとつのあり方だと思います(詳しくは、『井庭 崇 編著, 鈴木 寛, 岩瀬 直樹, 今井 むつみ, 市川 力, 『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』, 慶應義塾大学出版会, 2019年をご覧ください)。

個人や少人数のグループで《学びの素材づくり》をし、それを取り上げて、その話し合いから始まるというような授業のつくり方も、もしかしたら、オンラインの方がやりやすいくらいかもしれません。つくったものを表示したり共有したりするのが、リアルの教室のときよりもやりやすいからです。

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さらに、探究や研究に関わる授業・ゼミなどであれば、それぞれの個人やグループが見出した発見を、全体の場で組み合わせ、編集して、より大きな《発見の編み上げ》につなげることもできるでしょう。

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【時間割の枠を超える】

これまでは、リアルタイムにライブで行うような授業をイメージされたかもしれません。たしかに一部のパターンは、リアルタイムに特化したものでした。しかしながら、実は多くのパターンは、オンデマンドの授業でも実現可能です。これまで出てきたもので言うと、1. ラジオ・パーソナリティ、2. 時間差インタラクティブ、3. 運営チーム、4. オープニング・コンテンツ、5. 面白さが伝わる語り、6. リアクション・メンバー、13. それぞれの場所、14. 現地からのリアリティ、15. 匿名のメリット、16. 目の前でつくる、18. 他の人の感想、20. 学びの素材づくり、21. 発見の編み上げ、は、オンデマンドでも実践できます。

それでは、オンデマンド授業の良さとは何でしょうか?

オンデマンドの良さは、【時間割の枠を超える】ことができることです。翻って考えてみると、これまでリアルな教室での授業では、特定の時間特定の空間で授業に参加することが強制されていたと言えます。リアルタイムのライブのオンライン授業は、空間の制約を外し、どこからでも受けられるようになりました。しかし、ある特定の時間への固定は、変わらずありました。それに対して、オンデマンド映像による授業は、時間の制約も外します。それは、つまり、「時間割」の制約から自由になるということで、新しい学び方のデザインが可能だということです。

どちらか一方だけを選ぶ必要はありません。《オンデマンド・ライブ・ミックス》の授業として設計することで、レクチャーを聴くパートをオンデマンド映像で提供し、話し合いやグループワークを授業時間内に行うという「反転授業」を行うことができるでしょう。

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オンデマンド授業の場合、その映像を見ないまま溜め込んでしまっては、あとで大変になったり、学習効果が薄れたり、結局見ないままになってしまうかもしれません。「いつでも見ることができる」は「いつも見ない」になってしまいやすいのです。そこで、いついつまでに見て課題を提出する、など《視聴期限》を設けるようにするとよいでしょう。賞味期限があるから、きちんと食べ物を使っていくことができるように、視聴期限があるからこそ、きちんと見ていくことができるのです。

さらに、《おまけのオンデマンド》の映像を追加のコンテンツとして提供することもできるので、工夫次第では、学生の理解レベルに合わせたより高度な内容やフォローアップの内容、あるいは、興味・関心に合わせた関連知識の提供なども可能になります。まさにデマンド(要求)に応じての映像だと言えます。


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以上のように、工夫次第で、オンラインならではの「新しい学びのかたちをつくる」ことができるのです。

■居場所をつくる

学校・キャンパスに行くことができない状況において、大きく失われてしまっているのは、学生たちの居場所です。これは、「授業」という範囲を超えているものですが、学校・キャンパスが持っていたこの潜在機能を、誰が代わりに担うことができるのかというと、それは教員ではないでしょうか。授業のなかで、あるいは、授業のちょっと外側で、「私はここに居てよいのだ」「ここが私の居場所だ」と感じてもらえるような取り組みは可能です。そこで、オンライン授業時代の教育の一環として、「居場所をつくる」ということについても考えてみましょう。

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【心地よい場を一緒につくる】

まず、授業に関してできることは何か。教員から一方的に授業を受け取るのではなく、学生たちにも、【心地よい場を一緒につくる】ということに参加してもらうことができます。一緒に場をつくる仲間に迎え入れるのです。

まず、授業中にチャットで《書き込み発言》をしても、一部の人の書き込みだけが取り上げられ、自分の書き込みが取り上げられなかったりすると、それ以降、書き込みを控えるようになってしまうかもしれません。この場に承認されていないような、肩身の狭い思いを感じてしまうかもしれません。そう考え、チャットへの書き込みを《すべて拾う》ようにしている先生もいます。どんな些細な反応や書き込みにも、さらっとだけでも言及する。そうすると、学生は「触れられた」ということで、書いてよかったと思うようです。実際にそれをやってのけている先生は、すごいなと思いますが、教員が口頭ですべてに言及するのは、時間的に難しいかもしれません。その場合には、《運営チーム》のメンバーが、チャットで反応するということも含めれば、《すべて拾う》ことはできるかもしれません。

また、授業のやり方や進め方について、学生たちの声を取り入れ《こまめな反映》をして、改善していくとよいでしょう。それは授業がよくなるというだけでなく、学生が自分たちの場をつくることに貢献していると感じてくれることにつながります。実際、学生たちの声がどんどん反映されていく授業では、自分たちの場だと感じる人が多いようです。

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もっと《つくる側に招く》こともできます。授業づくりに積極的に参加したい人を募り、《運営チーム》と履修者の間をつなぐ役割を担ってもらったという授業もあります。その結果、そこでつくる側に参加した人も、そこには参加しなかった他の学生も、自分たちの居場所だという意識が高まったそうです。

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【横のつながりを支援する】

授業時間内でのことだけでなく、授業時間外でのつながりも、促すことができます。授業時間外は、その授業の担当教員の責任の範囲外かもしれませんし、ちょっとおせっかいすぎると思うかもしれません。

しかし、リアルな空間では自然に起きていたような関係・コミュニケーションがオンラインだと原理上生じ得ない現在の状況では、【横のつながりを支援する】ことができるのは、教員くらいしかいないのも事実です。そこで、授業に絡めて、授業外のゆるやかなつながり・余白もつくるようにします。

まず、授業が終わった後に、ブレイクアウトルームをつくり、《感想おしゃべりタイム》で話していたのと《同じメンバー》で話せるようにして、そこから流れ解散にします。ブレイクアウトルームの設定は、自由に移動できる設定にして、自分の部屋の人が少なくなったり、他の人と話したくなったら、移動できるようにしておきます。こうすることで、教室に少し残っておしゃべりしたり、授業やその他のことについて話しながら教室を出ていく、というようなことに近い、授業後の余白・余韻の時間をつくることができます。これを、《おしゃべり解散》と呼んでいます。

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また、オンライン授業を次々と受けている状況は、学生にとって、いろいろなコミュニティがプツプツと細切れに切れているような感じの日々となります。そこで、授業時間以外もその授業の他の学生や先生とやりとりできる《つながりのプラットフォーム》をつくると、そこが間を埋める土台の役割を担ってくれます。頻繁にやりとりが生じなくてよいのです。ここで大切なのは、いつでも気軽に連絡が取れるというつながりの安心感と、他の人もそこにいるという仲間の存在だからです。

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また、クラス全体で継続的な場を持つだけではなく、少人数のチームを組んで、継続して関わるようにすることで《小さな居場所》を持つことができます。例えば、学期を通じて一緒に何かに取り組むグループワークを設定したりするというようなことです。これは、リアルな教室でも行っていたことだと思いますが、オンラインでは、いろいろなつながりを多重に持つことの支援になるでしょう。

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【思い出に残るような一体感を生む】

今の状況では、学生たちも、思いっきり遊びや旅行に行けるわけではなく、比較的単調な日々を過ごしているでしょう。あとで思い返したときに、この時期は残念な時期だったという漠然とした印象しか残らないかもしれません。

しかし、学生たちにとって、学校に所属する限られた期間の一部ですし、人生の大切な1ページです(いや、数ページ、数十ページかもしれません)。そう思うと、この時間は、ただ「やり過ごす」空白の時期というのはちょっとかわいそうだと思いませんか。オンラインのこの状況でも、もっと自分たちにできることはあるのではないでしょうか?【思い出に残るような一体感を生む】企画をしてみるのです。

まず、授業などに、ちょっとした《お祭り感》をもたらすことはできます。クリスマスやハロウィンの仮装、地域の季節行事など、ちょっとした彩りを加えるのです。

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また、オンラインでのつながりだけでなく、リアルな物を郵送することで、《特別なつながりを感じる物》をみんなで持って、一体感を感じるということもできます。BBQ用のお肉を送り、それぞれ焼いて同じお肉を食べるオンラインBBQをした研究室もあります。井庭研では、みんなにKazooという小さな楽器を送って、みんなで合奏するということをやりました。

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それは、《お祭り感》《特別なつながりを感じる物》の実践と言えます。そのときの雰囲気は、次の映像でご覧ください。

謎楽器Kazooで、みんなで「ジングルベル」を吹いてみた(慶応SFC井庭研)/ Jingle Bell, played remotely with Kazoos (Iba Lab, Keio SFC)

そして、オンラインであっても、みんなの《いきいきとした瞬間》の記録として残しておくとよいでしょう。四角にそれぞれ区切られたなかにいたとしても、そのときのやりとり・出来事のなかで、笑顔がこぼれたり、笑いが起きるときがあります。そういう瞬間の写真(スクリーンショット)は、この時期のことになつかしく思いを馳せる、かけがえのない思い出となるでしょう。

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【ヴァーチャルな居場所】

失われて初めて気づく、というのは人生の常ですが、今回の変化においても、学校・キャンパスが重要な機能を担ってくれていたことを思い知らされました。何気ない場の共有、偶然的な出会い・立ち話、所属しているという感覚 ----- そういったものは、オンラインでは自然には生じません。誰かがきっかけをつくらないと生まれようがないのです。

もちろん学生もそれぞれにやればいいのですが、教員としても、できることはあるでしょう。授業の外側の、しかしその重要な環境となる【ヴァーチャルな居場所】をつくるということも、私たちのできることの一部なのです。

オンライン以前は、宿題や自習、作業などを、図書館や空き教室、研究室などでやっていた人もいました。いまは、そういう場へのアクセスも難しく、それぞれが家で孤独に取り組んでいます。オンラインでこのような場をつくっている人たちがいます。《もくもく作業部屋》です。オンラインで接続するのですが、それぞれが宿題や自習、作業などに黙々と取り組むのです。ちょこっとした会話をしたり、質問したりもできますが、互いの邪魔にならないように、静かに作業しています。オンラインの場は、話すためだけに、つなぐのではないのです。

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教員がヴァーチャルな職員室や研究室を開いて、《遠隔オフィス・アワー》を行うこともできます。高校でヴァーチャル職員室を開いて勉強の相談に乗っている先生もいれば、学生が自由に来ることができる遠隔オフィス・アワーを開いている先生もいます。Zoomで開催してもよいですが、Spatial Chatなど、分散的におしゃべりができるコミュニケーション・ツールを使うのもよいでしょう。

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最後は、よりすごいのは、《ヴァーチャル・キャンパス》をつくることです。単にコミュニケーションでつながるというのではなく、ヴァーチャルに「場所」を再現・構築し、そこに学生たちが集うことができるというものです。キャンパスや学校の空間に入ることができると、所属感も高まります。ここまでつくるのは大変なのですが、有志の教職員で取り組んだり、学生とともに、つくってみるのもよいかもしれません。

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以上が、「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」(オジパタ)としてまとめられた、オンライン授業時代の学びの場づくりにおける大切なことでした。これらのすべてをやろうと思うと、苦しくなってしまうでしょう。そうではなく、「ああ、これ、いいな。やってみようかな」と思えるものを取り入れたり、「なるほど、〇〇でこうやってやってみよう」という発想の種にしたり、というかたちで活かしていただけでばと思います。

それぞれのパターン(型)には、実際にそれをやっている事例がいくつもあります。みなさんがこれまでやってきたものと重なるものもあるでしょう。《現地からのリアリティ》《つながりのプラットフォーム》というような言葉(パターン名)は、これを共通言語として、他の人と語り合うときに、わかりやすく伝えることができるとともに、それらに紐づく経験談を語り合って、教員同士で学び合うことができるようになります。

また、それらの言葉を、学生向けのシラバス授業の進め方の説明で、用いるのもよいでしょう。私も、授業シラバスで「この授業は、《オンデマンド・ライブ・ミックス》で行います」と書いたり、授業スライドでも《感想おしゃべりタイム》という言葉で、その時間の説明を書いています。このように、授業についてのコミュニケーションのボキャブラリーとしても活かしていただければ幸いです。

来月から、新年度・新学期が始まりますね。

将来、いまの時代をふりかえったときに、オンラインになって「損なわれた時代」ではなく、「新しいスタイルが生まれた時代」として、今が捉えられることになるように。

全国各地で、素敵な新しい学びの場づくりが行われることを祈っています。

工夫・試行錯誤しながら、楽しくがんばっていきましょう!


※「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」についてと、さらに多くの事例を紹介している動画が、以下にあります。そちらも併せてご覧ください。
https://youtu.be/neP0EEh-BTM














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