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Diversity&Inclusion for Japan⑨〜女性の採用に関する科学的アプローチ

なぜ書くか

Diversity&Inclusion(ダイバーシティ・インクルージョン ※以下D&I)というコンセプトがビジネスの世界において重要になる中、日本に住む約1億人には細心の取り組みやトレンドを学ぶ機会が多くありません。Every Inc.では「HRからパフォーマンスとワクワクを」というビジョンを掲げ、グローバルな取組みやアカデミックな文献からD&Iに関する歴史、取組み、事例など”日本なら”ではなく、”グローバルスタンダード”な情報を提供しています。

はじめに

以前の記事では、ジェンダーステレオタイプ(性別に対する固定概念)が女性がリーダーシップをとる上でどのように障壁となっているかについて書きました。


マスデータを見てみると、2020年における世界の管理職に占める女性の割合は27.1%、日本の女性管理職の割合は12%となっています。

このジェンダーギャップに関連する言葉として、能力や過去の実績に関わらず、女性がキャリアの一定の時点でそれ以上の高い地位に上がることが難しいことを表す glass ceiling(ガラスの天井)という比喩が使われます。ヒラリー・クリントンが大統領選にチャレンジしていた際にはこの言葉が多く使われていました。


多くの企業がジェンダーギャップに問題意識を持つ中で、どのようなアプローチをとることが効果的なのかはまだまだ不透明な状態だと思います。そこで、今回は女性の採用に焦点を当てて「女性採用に関する科学的なアプローチ」についてご紹介していきたいと思います。


優秀な女性の採用を阻む要因は何か?シリコンバレーの企業をはじめとする企業のデータ分析やビジネススクールによる研究から、これらのデータに基づく改革を紹介し、女性が活躍しやすい組織を作ろうと考える方の実践に役立てればいいと思います。


応募資格を100%満たしていないと職に応募しない女性

HBRの記事によると、Hewlett Packardの企業内部レポートから、男性は職の応募資格の60%を満たしていればポジションに応募する一方で、女性は応募資格を100%満たしていないと応募しないことが分かっています

このデータの背景にはジェンダー間の自信のレベルの差が関係している可能性があります。

Barberら(2001)によれば、金融などの業界で男性は女性より自信過剰であることが分かっています。Barberらは1991年2月から1997年1月までの35,000の世帯からlarge discount brokerage(証券売買委託業者)の男性と女性の株の投資を分析した結果、男性は女性より45%多く取引をしており、女性が1.72 %ポイントの損をした一方、男性は2.65%の損をしたことが分かっています。


また、Zengerと Folkman(2019)によれば、 2016年から2019年(3,876人の男性、4,779人の女性)のデータの年齢別の分析の結果、リーダーの自信に関する興味深い傾向が分かっています。

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男性と女性の自信のレベルを比べたとき、女性は40代中盤に入るまで男性より自信が低いことが分かっています。
また、最も自身のレベル男女差が大きいのは25歳となっています。この年代の女性は自分が評価するよりはるかに実際の能力が高い可能性があります


これらの研究結果から、女性と男性では、同じ実績を持っていてかつ高いポジションに就くには経験が欠けている場合、男性は昇進に関する打診をする一方、女性はそうしない可能性が高いことが分かります。

女性が応募しないのは基準を満たしていないという「自信のなさ」が原因なのか?

一方、Mohr(2014)は「男性に比べ女性が職に応募しないのは本当に自信のなさが原因なのか」ということを疑問に持ち、千人以上の男性と女性を対象に、「あなたがとある仕事に興味を持ちました。応募資格を見ると全ての基準を満たしていない様です。結果的に、その仕事に応募しないと決めました。その理由は何ですか?」というアンケート取りました。

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その結果、78%の女性の応募をしない理由は、「応募資格を満たしていないのに応募するのは時間と労力の無駄」、「資格を満たしていないのに応募することで、採用者の手間を取らせたくない」といった、「自分に自信がないから」ではなく、「応募資格を完全に満たしていないから」ということ関連していることが分かりました。

男性を含む、多くのアンケート回答者が、仕事を上手くこなせるかというか以前の、採用の時点で全ての資格を満たしていないといけないと考えていることが分かりました。
しかし、実際の採用は、自身の主張、相手との関係性、クリエイティブな方法で自分の専門性を伝えることで自分に欠けているスキルや経験を補うこと、によって決まるものです

つまりこのデータから分かるのことはは、多くの女性が応募をためらうのは自分自身に関する間違った認識ではなく、採用プロセスに関する間違った認識であるということです。つまりHRが採用のプロセスについて明確に伝えることで、女性の応募者を増やすことができる可能性があります。

なぜ女性が応募資格を完全に満たしていないと応募するべきではないと考える傾向があるのかの理由について、1一部の職場では実際に、女性が採用されるには男性より多くの資格が求められる (男性は将来のポテンシャルで採用される)2女性は子供の頃からルールを守ることで褒められてきたなどの理由を挙げています。

Googleの女性採用戦略

以前の記事でも紹介しましたが、グーグルはこの応募資格に関する記述を改めることで、女性の応募者を増やすことに成功しています。

2020年のダイバーシティーレポートによれば、グーグルは、採用において、応募資格に関する記述が54字以上になると女性の応募者が圧倒的に減るという分析結果を出しました。これをもとに、グーグルは応募資格に関する記述を分析し、応募をためらわせるようなバイアスのかかった単語やフレーズを取り除くことで、女性の応募者を11%増加させました。

優秀な女性を採用するためには、「ローコンテクストでシンプルな応募資格」を書こう

今回紹介したのデータをもとに、HRが女性の視点から社員とコミュニケーションを取ることで、より優秀な人材を適切なポジションにつけることができるかもしれません。例えば以下のようにバイアスのかかった単語やフレーズを取り除くことができます。

応募資格① 製薬業界における幅広く深い知識
 → 製薬業界における15以上の病院担当経験

応募資格② 危機的な状況を乗り越える精神的体力 
 → 表記しない


特に日本では、言葉が暗に意味することの解釈が求められたり、その場の状況から言葉の意味を推測することが求められることが多く、日本の文化はハイコンテクストカルチャーと呼ばれています。一方でアメリカなどで見られるローコンテクストカルチャーにおいては、欠けている情報を全て説明するために全てをはっきりと言葉にすることが求められます。(Nishimura et.al, 2008)

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実際に、アメリカでは職の応募資格を決める際、その応募資格がどのように仕事のパフォーマンスに影響するかを詳細に分析し(job analysisと呼ばれる)、明確な記載しています。というのも、仕事のパフォーマンスに関係のない資格を載せた場合、その意図に関わらず、差別として訴えられる可能性があるからです。

Griggs vs. Duke Power (1971)における裁判では、ある会社が応募資格に高校卒業資格を載せていましたが、実際の仕事のパフォーマンスに高校卒業資格が必要であることを証明できず、また、高校卒業資格を持っていない黒人が圧倒的に多かったことから、この応募資格は黒人に対する差別に値するとされました。(Cascio and Aguinis, 2018).

日本とアメリカには法律、文化という側面の違いはあるものの、応募資格を明確にすることは日本においても、より平等でフェアな職場を作る第一歩と言えるかもしれません。

最後まで読んで頂き有り難うございました。

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どうぞ宜しくお願いします。

参考文献

Barber, B. M., & Odean, T. (2001). Boys will be boys: Gender, overconfidence, and common stock investment. The quarterly journal of economics, 116(1), 261-292.

Cascio, W. F., & Aguinis, H. (2018). Applied psychology in talent management. SAGE Publications.

Mohr, T. S. Why women don’t apply for jobs unless they’re 100% qualified. 2014.

Nishimura, S., Nevgi, A., & Tella, S. (2008). Communication style and cultural features in high/low context communication cultures: A case study of Finland, Japan and India. Teoksessa A. Kallioniemi (toim.), Uudistuva ja kehittyvä ainedidaktiikka. Ainedidaktinen symposiumi, 8(2008), 783-796.

Zenger, J., & Folkman, J. (2019). Research: Women score higher than men in most leadership skills. Harvard Business Review.

Google Diversity, Equity & Inclusion, https://diversity.google/

著者紹介:松澤 勝充(Masamitsu Matsuzawa)

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神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事。2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。採用や人材育成、評価制度など、企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発した3カ月プログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶHRBP講座を展開している。

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著者紹介:池田 梨帆

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株式会社EVERY インターン

2021年5月、世界トップクラスの心理学部、University of California, Berkeley(以下UCバークレー)心理学部を卒業。在学中、UCバークレーのビジネススクール、Haas School of Businessのダイバーシティー・ジェンダー研究室で研究助手を務める。心理学を使うことで、人の思考や、グループ内のダイナミズムなど目に見えない要因を可視化し、効果的な問題解決をすることができると考え、特に心理学を使ってビジネスの効率性を上げることに興味がある。2021年8月より、George Mason University大学院で、Industrial Organizational Psychology(産業組織心理学)を学ぶ。
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