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人的資本経営のその先へ⑤「優れた測定の原則」

あらすじ

登場人物

佐藤 優子(さとう ゆうこ)

  • 役職: HRマネージャー

  • 年齢: 38歳

  • 性格と特徴:
    冷静沈着で分析力に優れる一方、現場との対話を大切にする。HRスコアカード導入プロジェクトをリードする中で、スコアカードを単なる管理ツールではなく、組織文化を変革する手段として活用することに挑戦している。仕事に対する情熱とともに、部下への思いやりを持つリーダー。


山下 一樹(やました かずき)

  • 役職: CEO

  • 年齢: 55歳

  • 性格と特徴:
    先見性があり、変革を厭わないリーダー。HRスコアカードを企業全体の成長に結びつけることを期待し、佐藤にプロジェクトを託した。厳しい指摘をしつつも、部下に大きな裁量を与えることで信頼を示す。


渡辺 涼子(わたなべ りょうこ)

  • 役職: 製造部門のシニアリーダー

  • 年齢: 41歳

  • 性格と特徴:
    データ分析に長けたプロフェッショナルで、現場の改善活動を地道に進める実直なタイプ。新しい取り組みに前向きで、スコアカードを活用した製造プロセス改善のリーダー役を担う。チーム内では頼りがいのある存在。


高橋 真一(たかはし しんいち)

  • 役職: 営業部門部長

  • 年齢: 45歳

  • 性格と特徴:
    顧客志向が強く、顧客満足度向上のために部下と共に実務に積極的に関わるタイプ。スコアカードの導入に際しては、指標の具体性を重視し、実行力のあるリーダーシップを発揮。部門間の調整役としても活躍する。


田中 圭(たなか けい)

  • 役職: 製造部門課長

  • 年齢: 39歳

  • 性格と特徴:
    製造現場に深い理解があり、細部にわたる管理能力で評価されている。スコアカード推進チームの中心として、現場の意見を吸い上げつつ、改善活動を先導する。現場との信頼関係を築くのが得意。


中島 美咲(なかじま みさき)

  • 役職: 営業部門の中堅社員

  • 年齢: 33歳

  • 性格と特徴:
    顧客対応の経験が豊富で、柔軟なコミュニケーション能力を持つ。スコアカードの導入に不安を感じつつも、自分の価値が数字に限定されるのではないかと懸念している。チームでのディスカッションを通じて成長を目指す。


村瀬 智也(むらせ ともや)

  • 役職: 外部コンサルタント

  • 年齢: 50歳

  • 性格と特徴:
    スコアカード導入の専門家。理論的なアプローチを得意とし、プロジェクトの進行を支える。豊富な現場経験を活かして、フレームワークの提案や課題解決に貢献する。厳しさと優しさを兼ね備えた頼れる存在。


佐野 英二(さの えいじ)

  • 役職: 製造現場のベテランリーダー

  • 年齢: 52歳

  • 性格と特徴:
    長年の現場経験を持つ保守的な性格。数字を追求するスコアカードに最初は抵抗を示したが、対話を重ねる中でその意義を理解。現場の声を代弁しつつも、変革の必要性を認識している。


プロローグ:変革の始まり

プロローグ:測定の必要性と限界

「佐藤さん、優先度の高い施策が見えてきたのは良い成果だ。しかし、まだ十分ではない。」

CEO山下は、人事施策の費用対効果分析に関する報告を受けた翌週、経営会議の場でこう切り出した。
「現場からは、『測定のための測定』が増えていて、実際の改善には繋がらないという声も上がっている。施策を絞り込むだけでなく、測定自体がもっとシンプルで効果的になる必要がある。」

佐藤優子はその言葉を重く受け止めた。これまでの取り組みで人事施策の重要性を経営層に示すことには成功したが、その測定手法が現場にとって負担となっていることも事実だった。

「優れた測定とは何か――これが次の課題ね。」

佐藤の心の中に新たな責任感が芽生えた。現場の信頼を維持しながら、効果的で簡潔な測定方法を確立しなければならない。


第一章:課題の再認識

オフィスに戻った佐藤は、部下たちを集めた。今回の議題は、現場の負担を減らしつつ正確な測定を実現する方法についてだった。

「まず、現状の測定プロセスを整理しましょう。」

若手の渡辺が最初に発言した。
「現場からのフィードバックを見ると、測定が複雑すぎてデータを正確に入力する時間が取れないという声が多いですね。それと、同じような指標がいくつもあって、どれを優先するべきか分からないと混乱しています。」

中堅社員の木村も頷きながら言った。
「それと、測定項目が現場の実態に合っていないという指摘も多いです。例えば、製造現場でのエラー削減率よりも、チーム内のスムーズな連携が重要だと感じている人もいます。」

佐藤はホワイトボードに「測定の課題」として以下を記した。

  1. 複雑さ:項目が多すぎる。

  2. 不整合:現場の実態と指標が乖離している。

  3. 正確性の欠如:データ入力の負担が高く、信頼性に欠ける。


第二章:村瀬との再協力

「測定の簡素化と正確性を両立する方法を見つけたいんだ。」

佐藤は外部コンサルタントの村瀬智也に再び助言を求めた。村瀬は、データ分析の専門家としての視点から具体的な提案を行った。
「優れた測定の原則を確立するには、次の3つのポイントが重要だ。」

  1. 少数精鋭の指標に絞る:全てを測定しようとせず、最も重要なKPI(Key Performance Indicators)だけに集中する。

  2. データの自動化:クラウドシステムやセンサー技術を活用して、データ入力の手間を削減する。

  3. 現場の意見を反映:測定項目を現場主導で決定し、彼らがその意義を理解できる形にする。

佐藤はこの助言に基づき、製造現場、営業部門、そして人事部全体を巻き込んだプロジェクトを立ち上げることを決意した。


第三章:現場との対話

プロジェクトの第一歩は、現場の意見を直接聞くことだった。佐藤は製造現場の田中課長と再び会話の機会を持った。

「田中課長、これまでの測定項目について、現場の視点からどのように感じていますか?」

田中は苦笑いを浮かべながら答えた。
「正直なところ、現場では指標が多すぎて、どれが重要なのか分からなくなっています。例えば、エラー削減率は確かに大事ですが、それよりも現場のモチベーションやスムーズな情報共有がもっと重要だと思う場面も多いです。」

佐藤は田中の言葉をメモしながら答えた。
「分かりました。現場の優先順位に合わせて、測定項目を見直しましょう。具体的に、どの指標が現場にとって有益だと思いますか?」

田中は少し考えた後、次のような提案をした。
「情報共有の頻度や品質、リーダーと現場作業員のコミュニケーションスコアなどが、うちの現場では改善の鍵になると思います。」


第四章:新しい測定基準の設計

村瀬の助言と現場の意見を取り入れ、佐藤は新しい測定基準を設計した。この基準では、以下の要素が重要視された。

  1. 少数精鋭の指標

    • 製造現場:エラー削減率、情報共有スコア。

    • 営業部門:リーダーシップ評価スコア、顧客満足度。

    • 全社共通:従業員エンゲージメントスコア。

  2. データ収集の効率化

    • 新しいHR管理システムを導入し、データ入力を簡素化。

    • 製造現場ではセンサーを活用してエラー率を自動的に記録。

  3. 現場との協働

    • 測定項目の意義を各部門に説明し、運用開始前に現場リーダーからのフィードバックを収集。

第五章:運用開始と初期の成功

新しい測定基準が全社的に導入されてから最初の3ヶ月間、佐藤優子とチームは毎日のように現場や部門長と対話を続けた。製造現場のエラー削減率や営業部門のリーダーシップ評価スコアが徐々に改善する中、手応えを感じ始めていた。

しかし、ある朝、製造現場の田中課長から緊急の呼び出しがあった。

「佐藤さん、現場でトラブルが起きているんです。」

佐藤が製造フロアに駆けつけると、リーダーシップ評価スコアを集計していた若手社員たちが混乱している様子が見られた。特定のリーダーが部下に対して高評価を無理強いしているという告発があったのだ。これにより、データの信頼性が疑問視されていた。

田中課長は険しい表情で言った。
「このままでは、測定が現場を壊す原因になります。リーダーたちがスコアを意識しすぎて、現場の空気がギスギスしているんですよ。」

佐藤は深くため息をつきながら答えた。
「課長のおっしゃることはもっともです。でも、このスコアが会社の未来を変える鍵でもある。どうにか、信頼できる方法でデータを集め直す必要があります。」


トラブルの解決策

佐藤は村瀬と相談し、データ収集方法を改善する計画を立てた。
「直接的な評価スコアを使うのではなく、行動に基づく間接的な指標を導入するのが良いでしょう。」村瀬は冷静に提案した。

例えば、以下のような新たな指標が導入された:

  1. リーダーのフィードバック頻度:部下への建設的なフィードバックの回数を測定する。

  2. チームミーティングの参加率:リーダー主導のミーティングがどれだけ効果的に行われているか。

さらに、現場の士気を高めるために、リーダーシップ評価スコアの公開方法を変更し、個別評価ではなくチーム全体の傾向として共有する仕組みに変更した。


初期の成功

これらの改善策を導入してから1ヶ月後、製造現場の雰囲気が徐々に改善してきた。ある日、田中課長が佐藤に話しかけた。

「正直、最初は測定なんて役に立たないと思っていました。でも、最近の取り組みで、リーダーたちが本当に変わり始めているのを感じます。特にフィードバック頻度を上げたことで、部下のモチベーションが上がっています。」

さらに、営業部門ではリーダーシップ評価スコアが改善し、顧客満足度が過去最高を記録した。

経営会議でこれらの結果を報告すると、山下CEOは満足げに頷きながらこう言った。
「これは大きな進歩だ。現場が納得し、データも正確なら、これ以上の成果はない。」

しかし、佐藤の頭には新たな課題が浮かんでいた。測定結果を継続的に改善するためには、運用の柔軟性と現場リーダーのさらなる理解が必要だった。


第六章:持続的な改善の必要性

現場での抵抗

新しい測定フレームワークの効果が現れ始めた一方で、一部の現場リーダーからは再び反発の声が上がり始めた。特に、製造現場のベテランリーダーである佐野が、現場ミーティングで次のような不満を述べた。

「測定の仕組みは確かに役立つ部分もあるが、現場の感覚や長年の経験が無視されているように感じる。数字だけで全てが判断されるのは違うと思う。」

佐藤は現場訪問の際、佐野の意見を直接聞いた。
「確かに、数字だけで現場の全てを評価するのは間違いです。でも、数字は改善のヒントをくれるものです。どうか測定を改善の道具として使っていただけませんか?」

佐野はしばらく沈黙した後、少し和らいだ表情で答えた。
「佐藤さんがそこまで言うなら、もう少し付き合ってみるか。でも、現場の声をもっと聞いてくれるなら、それに越したことはない。」


研修と文化の変化

佐藤は、現場リーダー向けに新しい研修プログラムを提案した。このプログラムでは、以下の内容が重点的に扱われた:

  1. 測定の意義の理解:なぜ測定が必要なのかを具体的な事例を交えて説明。

  2. データの活用法:データを日常業務でどのように活かすかをワークショップ形式で学ぶ。

  3. 現場のフィードバックを反映する仕組み:リーダーたちが定期的に測定指標を提案・修正できる仕組みを導入。

研修終了後、リーダーたちの測定に対する理解が深まり、「測定が現場の改善に繋がる」という認識が広がり始めた。


全社的な成果と新たな展望

新しい測定基準が運用されてから半年後、全社的な成果が見え始めた。特に以下の改善が注目された:

  • 製造現場のエラー削減率が30%改善

  • 営業部門の顧客満足度が前年同期比で20%向上

  • 従業員エンゲージメントスコアが15%向上

ある日の経営会議で、山下CEOは佐藤を賞賛した。
「佐藤さん、この測定基準は、まさに東和製作所が必要としていたものだ。この調子で、次はさらなるイノベーションに繋がる施策を期待しているよ。」


持続的な改善と次なる挑戦

佐藤は、新たな測定基準が成果を生み出したことに満足しつつも、「測定基準自体も時代や組織の変化に応じて進化させるべきだ」という信念を持っていた。

村瀬や渡辺たちと共に、次なる挑戦として、AIを活用したリアルタイム測定システムの導入計画を立案。これにより、さらなる効率化と精度向上を目指した。

「優れた測定は、常に変化し続ける。」佐藤のその言葉は、チーム全体の新たなモチベーションとなった。

学術的な要点:優れた測定の原則


1. 優れた測定の重要性

測定の役割は、組織が目標達成に向けて進捗を追跡し、施策の効果を評価し、必要に応じて戦略を修正することにあります。これを支えるのが「測定の原則」です。以下に代表的な理論とフレームワークを示します。


2. 測定の原則

(1) SMART原則

SMARTは、測定指標を設定する際の基準として広く用いられるフレームワークで、以下の要素から成り立ちます:

  • Specific(具体的):指標は具体的でなければならない。例:「生産性を向上させる」ではなく「エラー発生率を20%削減する」。

  • Measurable(測定可能):指標は定量的に測定可能であるべき。例:プロジェクト納期達成率。

  • Achievable(達成可能):実現可能な目標を設定。

  • Relevant(関連性がある):企業目標や戦略に関連する指標を選ぶ。

  • Time-bound(期限が設定されている):達成期限を明確にする。


(2) バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard: BSC)

カプラン(Kaplan)とノートン(Norton)が提唱したBSCは、財務的な成果だけでなく、顧客、内部プロセス、学習と成長という4つの視点でパフォーマンスを測定するフレームワークです。これをHRに応用したのがHRスコアカードであり、以下の原則を含みます:

  1. 財務的視点:測定指標がどのように収益やコスト削減に貢献するかを示す。

  2. 顧客的視点:施策が顧客満足度やブランド価値にどう影響するかを測定。

  3. 内部プロセス視点:プロセス効率や品質改善の指標を測定。

  4. 学習と成長視点:社員のスキル向上やエンゲージメントを測定。

  • 参考文献: Kaplan, R.S. & Norton, D.P. (1996). The Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action.


(3) PhillipsのROIモデル

Jack J. Phillips(2003)は、人事施策の費用対効果を測定するためのROIモデルを提唱しました。このモデルでは、投資効果を以下の式で測定します:

ROI (%) = (施策による利益 - 投資コスト) ÷ 投資コスト × 100

具体的な例として、研修施策を評価する場合、以下のデータを収集します:

  1. 研修の直接コスト(講師料、教材費など)。

  2. 研修後の生産性向上による収益増加額。

  3. ROIとしての利益率。

  • 参考文献: Phillips, J. J. (2003). Return on Investment in Training and Performance Improvement Programs.


3. 測定の課題と解決策

(1) 課題:測定指標の多さと複雑さ

  • 現状: 指標が多すぎると、現場が混乱し、データ入力の正確性が損なわれる。

  • 解決策: 指標を少数精鋭に絞る。特に、財務視点に直結するものを優先。


(2) 課題:データ収集の負担

  • 現状: 測定データの収集が手作業で行われ、現場の負担が増加。

  • 解決策: 自動化技術の活用(例:センサーやHR管理システムの導入)。


(3) 課題:データの信頼性

  • 現状: リーダーや従業員の主観的評価に依存し、データの信頼性にばらつきが出る。

  • 解決策: 行動ベースの指標(例:フィードバック頻度、ミーティング参加率)を導入し、客観性を確保する。


4. 成功事例

(1) マクドナルドの従業員スキル評価

  • マクドナルドは、従業員のスキルアップが顧客満足度にどう影響するかを測定する指標を導入。これにより、スキル評価の信頼性が向上し、業績改善に直結。

(2) IBMのリーダーシッププログラム

  • IBMは、リーダーシップ研修後のエンゲージメントスコアやプロジェクト成果を測定するフレームワークを導入。これにより、リーダー育成施策のROIを実証。


5. 理論と現場を結ぶ優れた測定の特徴

  1. 現場の視点を尊重

    • 測定項目を現場リーダーと共同で設計することで、現場のニーズと経営目標を両立。

  2. データの透明性

    • 測定結果を可視化し、社員全員が理解できる形で共有する。

  3. 持続的な改善

    • 測定基準は定期的に見直し、組織の成長や市場環境の変化に適応する。


6. 学術的な参考文献

  • Kaplan, R.S., & Norton, D.P. (1996). The Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action.

  • Phillips, J.J. (2003). Return on Investment in Training and Performance Improvement Programs.

  • Huselid, M. A., Becker, B. E., & Beatty, R. W. (2005). The Workforce Scorecard: Managing Human Capital to Execute Strategy.

  • Ulrich, D. (1997). Human Resource Champions: The Next Agenda for Adding Value and Delivering Results.

※上記のブログは以下参考書を元に、著者がAIツールを用いて作成したフィクションです。

最後まで読んでいただき有難うございました。

グローバルスタンダードなHRをセルフペースで学べるE-Learning

著者:松澤 勝充

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事

2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶEvery HR Academyを展開している。

保有資格:
・SHRM-SCP(SHRM)
・Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
・Global Professional in Human Resources (HRCI)
・The Science of Happiness(UC Berkeley)、他

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