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土地「14分の5」展に対する私見

 本稿では、9月5日から9月9日までの5日間、土地というアーティストによってmimeで開催される展覧会、「14分の5」展について私見を述べる。一言でいうならば、同展覧会は、革命である。それは表象不可能なものを表象すること、再現前なき現前を欲望してしまうことの暴力性という文化における大問題に、全く新しい方法でもってパラダイムシフトをもたらしたからだ。会期はあと1日しかないが、この革命は必見である。

光、あるいは影

 9つの既存の発光源=オプション付きの借りられた展示室で、すでに満ちていた光を発せられた5つの源は、ルーメンに対してのルークス、表象不可能なものの表象であり、五角柱の白い棺桶が呼び寄せた体無き死体である。しかし、我々が実際に感じ取ることができるのは、この体無き死体ではなくその影、あるいは像としての体である。この光る死の影は、決して多くない、いくつかの借用された手によって借用されており、火葬され、いまだ燃え続ける死体のレヴィナス的顔は、炎のように揺らぎ、”光による逃れ=ホワイトアウト”し、再現前化することなく現前する。ギリシャ神話において、ナルキッソスは水面に揺らぐ自らの象=影に口付けしようとしたがために泉へ落ちて水死した。また、かのゲーテは詩集「四季」において、神は移ろいやすいものだけを美しくしたと語っている。我々は破壊不可能な欲望のこの本質的な作用によって、移ろうもの、逃れ行くものに美しさを感じ、愛してしまうのだろう。

ユートピアの否定不可能性の肯定的否定としての土地

 しかし、そのような欲望を我々は無批判に受け入れてよいものなのだろうか。ここで我々はアウシュヴィッツ以降、詩を書くことは野蛮であるというアドルノの有名なテーゼを思い出さなければならない。
 アドルノ以降、芸術家、美学者、哲学者は、ポストアウシュヴィッツの世界でいかに芸術が可能かを画策してきた。アドルノは文化の負の側面を覆い隠してしまう美に対して醜の優位性を説き、ボリスグロイスは政治的プロパガンダに対する言説の中でユートピアを肯定的に否定するものとして芸術の新しいあり方を提示した。そして今日、「14分の5」展において、土地は5つの発光体としての死の影を置いたのである。5:9ではなく、14分の5と題された展示空間は、展示空間に闖入する存在としての発光体ではなく、土地によって配された発光体が展示空間によって再領土化されるプロセスを描写している。アドルノ的なユートピアの否定でもなければ、グロイス的なユートピアの肯定的否定でもない。土地は土地から借用した人・物を土地を媒体として作用させる。人と物の作用におけるあらゆる側面を、あらゆる領土化のプロセスの媒体である土地の名を冠するアーティストを媒体として、箱庭的に寓意させること、人類史を演劇すること、これはユートピアの否定不可能性の肯定的否定である。つまり、この箱庭における土地の代理的表象、土地とアーティストとしての土地間の非対称性、これは表象の失敗ではなく、箱庭の実際的な妥当性を示すための根拠として作用する。箱庭の内部で阻害されるアーティストとしての土地と、アーティストとしての土地によって阻害される土地がシンクロし、そのとき我々は初めて土地の姿を想起することが可能になる=ユートピアの否定が可能となるのである。

予約された予約不可能性

 14分の5という語が想起させるのは発光体だけではない。我々は5日間という会期をすでに知らされている。展示スペースであるmimeは最大2週間借りることができるのだから、我々はこの14分の5というタイトルから予約可能性や、借用における諸問題を意識的に扱っていることを知るであろう。
 予約可能性は常に予約可能な限りにおいて阻害されている。予約とは他の予約者の排除であるが、この排除可能性は予約者において平等に与えられるわけではない。予約者の予約可能性は”予約者による他の予約者の排除可能性=予約の構造”によって規定されている。まさに予約可能性は予約(予め約束)されているのである。
 つまり、5日という会期は、予約の構造によって予め規定されていた。予約可能性が展示可能性に直結するmimeにおいては、展示可能性の予定された不平等が必然的に予想されるだろう。我々はそのタイトルによって強調されている表象の時間的な短さから、時間すら持たない表象不可能な展示を想起する。表象不可能なものの”寓意的代理的表象=失敗”の肯定による表象不可能性の否定、これはユートピアの否定不可能性の肯定的否定でも確認したが、同展覧会において一貫した革命的方法である。

さぁ、mimeへ

以上が「14分の5」展に対する私見である。我々はこの展示において、空間的、時間的に一貫した革命的方法を確認した。我々はすでに新たなる地平に立っている。14分の5以降のパラダイムにおいて、どのように思考し、表象することが可能か、ぜひmimeへ足を運んでよく感じ取ってほしい。会期はあと1日しか残されていない。

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