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まんまるの本棚2022

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#小説

『賢者の書』喜多川泰

『賢者の書』喜多川泰

先日、喜多川泰さんの講演会に行った際に注文した一冊が届いた。

いくつになってもサイン本は嬉しい。

著者が私を知らなくても、そのとき名前の文字列をなぞってくれたという一瞬のつながりが嬉しいからだ。

喜多川さんの本を読むのは二冊目になる。

「ファンタジー×自己啓発」という異色の本書。

世界各地の賢者に会い、教えを乞うことで賢者の書という一冊の本を完成させる旅に出た少年サイードと、自分の人生に

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『氷点』三浦綾子

『氷点』三浦綾子

雪の匂いがある。

静謐で静かな匂い。

この作品が書かれた1964年ころとは比べ物にならないかもしれないけど、いまも北海道の冬は寂しく、厳しく、美しい。

生まれてこの方、北海道に暮らしている。

共感できるとか、わかるといってしまえば安易かもしれないけど、三浦綾子の小説から立ち上る匂いはまぎれもなく北国の匂いで、それにとても心安らぐ。

三浦綾子の代表作ともいえる本作を初めて読んだ。

なぜか

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『よくがんばりました。』喜多川泰

『よくがんばりました。』喜多川泰

同居人は教員だったころ、学級文庫に喜多川さんの本を置いていたという。

私はその話を聞くまで喜多川さんのことを知らなかった。

学級文庫は家に引き上げてきたから、家にはたくさん本があるけど、今にいたるまで読んだことがなかった。

そんなとき、近所で喜多川さんの講演会があるというので、参加することになった。

講演会に行くというのに著書を読んだことがないというのはいかがなものかと思って読んだ一冊。

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『サラバ!上・下』西加奈子

『サラバ!上・下』西加奈子

名作、名作といたるところで見たような気がするので、いつか読んでみようと思っていた一作。

あるとき、棚の中で自然に目に飛び込んできたので購入した。

(ハードカバーで購入したので)上下本を読むのは久しぶりだったし、ページ数もそれなりだったので読み終わるのにどれくらいかかるかと覚悟したが、一度読み始めると止まらなかった。

なぜもっと早く読まなかったのだろう。

まちがいなく、今年読んだ本の中でいち

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『武道館』朝井リョウ

『武道館』朝井リョウ

本屋が好きだ。

新刊を売る本屋も、中古本を売る本屋も好きだ。

一生かかっても読み切ることができないような本の量。絶望であり幸福だと思う。まだまだ読んだことのない本がたくさんあって焦りと安心がともにやってくる。

というわけで、積読している本がたくさんあるくせに本屋に行った。

そこで目に入ってきた一冊。

私は二次元・三次元問わず女性アイドルが好きで、しかし、どうして彼女らが好きなのか言語化で

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『傲慢と善良』辻村深月

『傲慢と善良』辻村深月

人に勧められて本書を手に取る。

最近は人に勧められた本を読むことが多い。

それは、いまの自分に何かが足りないと思っているからで、その何かが本や音楽や、あるいは何らかの対話から得られればいいと思っているからだ。

要は、アウトプットよりもインプットがしたいということだと思う。

本書では「選択するとはどういうことか」について徹底的に書かれている。

ともに30代も佳境の架と真実のふたりの恋愛と結

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『僕の狂ったフェミ彼女』ミン・ジヒョン(加藤慧訳)

『僕の狂ったフェミ彼女』ミン・ジヒョン(加藤慧訳)

目を惹く鮮やかな黄色の表紙。タイトル。

書店で見かけ、おもわず手に取った。

結局、韓国でも日本でも吐き気を催すようなミソジニーは大差ない。

韓国では「メガル」、日本では「フェミ」がフェミニストの蔑称として使われ、フェミニストであることは不名誉なことであるかのように語られる。

本著の主人公とその友人のような「ハンナム(ホモソーシャルのなかにいて家父長制とミソジニーを内面化した男性)」は、両国

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『スモールワールズ』一穂ミチ

『スモールワールズ』一穂ミチ

いわた書店さんの一万円選書、六冊目。

積読をしていることがいまは苦痛で、少しでも未読の本を減らそうと半ば義務感から読み始める。

しかし、読み始めると止まらない。

適当に読み進めていこうと思っていたけど、気が付くと夜が更けるまで一気読みしてしまった。

六つの短編から成る本作は各話が繋がっていたりいなかったりする。

後味の悪いもの、背筋がぞくりとするもの、思わず笑ってしまうもの、心が温まるも

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『風よ あらしよ』村山由佳

『風よ あらしよ』村山由佳

人に勧められて本書を読む。

フェミニズムやジェンダー論に関わってきながら、伊藤野枝に触れてこなかったのが恥ずかしい。

現代と重なる時分的な読みごたえもあろうが(実際、勧めてくれた人は「今だからこそ読む価値のある本」と評していた)、私は普遍的な自己と社会との闘争として本書に鼓舞された。

上に引用したように、平凡な幸せに執着し抗うことを忘れてしまうのであれば、それこそ「死んだ方がましだ」。

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『カーテンコール!』加納朋子

『カーテンコール!』加納朋子

いわた書店さんの一万円選書の四冊目。

自分なりのペースだけど、一冊一冊楽しんでいる。

ここまで読んだ選書の中でいちばん好みの一冊だった。

トランス、ナルコレプシー、摂食障害、予期せぬ妊娠…などなど、

これまでは光が当たってこなかったけれど確かに存在していた人々を拾ってくれるような話たち。

こんな人生やあんな人生もあるよね、と励ましてくれる一冊。

誰もが大なり小なり問題を抱えながら生きて

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『永遠のお出かけ』益田ミリ

『永遠のお出かけ』益田ミリ

いわた書店さんの一万円選書のうちの三冊目。

特段好きな作家さんというわけではないけれど、最近益田ミリさんの作品に触れることが多い。

母親と同じ世代の方だから、価値観や考え方に自分と相違があるのはもちろんだけど(別に世代だけが要因ではないか)、文章からやさしい雰囲気が伝わってくるのは好きだ。

本書は父親の死について書かれた一冊である。

世代の話をしたけれど、この本は読むときどきの年齢によって

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『人質の朗読会』小川洋子

『人質の朗読会』小川洋子

いわた書店さんの一万円選書のうちの一冊。

表紙の子羊の瞳に惹かれ、二番目に手に取った。

南米でテロに巻き込まれた8人が自らの人生の物語を順番に語っていく物語。それらはささいな物語だけれども、ささいだからこそ、その人の人柄や人生の重みを感じさせる。

人は、案外簡単にいなくなってしまうのだとおもう。

そして、一人という個はどこまでも「個」であるとともに、人間という「全」でもあるのだともおもう。

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『こっちへお入り』平安寿子

『こっちへお入り』平安寿子

岩田書店さんの一万円選書の中の1冊。
自分では選ばないような、それでいてどこかで自分が求めていたような、そんな本たちとの出会いをくれる。

つまらない日常を重ねる平凡なOLの日常が落語と出会うことで劇的に変わっていく話。

少し前、大学院に通う主婦の方に対して「大学院は主婦のカルチャーセンターではない」という書き込みがされ、炎上したことがあったが、そもそもカルチャーセンターだって馬鹿にできない。

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『正しい女たち』千早茜

『正しい女たち』千早茜

 千早さんの本を読むのは2冊目だ。
 小説という形をとりながら、今日の女性たちの抱える問題(もっとも、女性たちが抱えさせられていると言った方が正確かもしれないが)について、まるで論文を読まされているかのように切り込んでくる。

・温室の友情

 遼子、環、麻美、恵奈の4人をめぐって進行していく。本書は群像劇のような構成になっており、彼女らはおおよそ全編にわたって登場する。
 男から見た「女の友情」

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