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私の今年のベスト本

こんにちは!安っさんです。

今年(2023年)の初めから現在のかたちでの投稿を開始し、ご紹介した本も100冊となりました。そこで、今年ご紹介した本から、私のベスト本を選びました。5冊くらいにしぼりたかったのですが、10冊になってしまいました。投稿日順となっています。コメントはブログに書いたものです。

今年一年、拙文を読んでいただきまして、本当にありがとうございました。年末年始、noteはしばらくお休みします。来年もよろしくお願い申し上げます。

※わたくしのnote全般については、「プロフィール(固定記事:このnoteについて)」をご覧ください。

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1.日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ 森下典子

近年の日本語で書かれた文章としては最良のものの一つだと思います。
映画化もされましたが、本のほうがいい。日本語が美しい。

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2.形容詞を使わない大人の文章表現力 石黒圭

文章術の本は数あれど、名著です。内容はタイトルのとおり。
「すごい」「おいしい」などのおおざっぱな発想や、「多い」「むずかしい」などの自己中心的な発想を排除して、力のある表現に変えていく方法を教えてくれます。文章を書く人、必読。

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3.あきらめない 働くあなたに贈る真実のメッセージ 村木厚子

自己啓発本のようなタイトルですが、そうではありません。国家権力に無実の罪で捕らわれたときどうしたか、家族の絆、一種のサバイバル本としても読めます。村木さんのような公務員がもっといれば、いまの日本はよくなったのでは。

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4.ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー プレディみかこ

この本で、英国の子どもたちは小学生のときから子どもの権利について繰り返し教わること、エンパシー(他人の感情や経験などを理解する能力)が重要視されることを知りました。書かれていないこともあるのでしょうが、彼我の教育観の違いに呆然とします。

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5.一色一生 志村ふくみ

その時(九月)の桜は三月の桜と全然違って、匂い立つことはありませんでした。
その時はじめて知ったのです。桜が花を咲かすために樹全体に宿している命のことを。一年中、桜はその時期の来るのを待ちながらじっと貯めていたのです。
知らずしてその花の命を私はいただいていたのです。それならば私は桜の花を、私の着物の中に咲かせずにはいられないと、その時、桜から教えられたのです。

一色一生 志村ふくみ

この文章にやられました。美しい日本語で書かれた本です。

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6.無私の日本人 磯田道史

江戸期の無名の人々の評伝です。一人めは、貧しい郷里を救おうと一家離散を覚悟で奔走する一商人の話。映画『殿、利息でござる!』の原作です。次の一文に磯田さんの思いが凝縮されています。

江戸時代、とくにその後期は、庶民の輝いた時代である。江戸期の庶民は、
- 親切、やさしさ
ということでは、この地球上のあらゆる文明が経験したことがないほどの美しさを見せた。倫理道徳において、一般人が、これほどまでに、端然としていた時代もめずらしい。

無私の日本人 磯田道史

熱いあとがきも、感動です。

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7.BARレモン・ハート 古谷三敏

古谷三敏さんは、惜しくも2021年12月8日(関係ないけどわたくしの誕生日です)に亡くなられました。その直前まで描き続けられたコミック。
舞台はある一軒のバー「レモン・ハート」。お酒についてマスターと客が繰り広げる会話がメインとなっている、一話完結のストーリーです。毎回、お酒についてのウンチクがお約束となっています。
心温まる話、洒落た話が多いオトナのマンガです。

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8.脳科学者の母が、認知症になる 恩蔵絢子

はじめのうちは、身近な人が認知症になることのとまどいやいらだちについて、あーわかると共感をいだきました。
しかし、その後の、精神科の医者が書く本とはちがった、脳科学者らしいアプローチと、母親への共感が新鮮でした。
そして、「感情こそ知性である」という見解への到達は、感動的でありました。

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9.JR上野公園口 柳美里

刊行は2014年。アメリカで最も権威のある文学賞の一つである、全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞(2020年)。
福島県相馬郡(現在の南相馬市)出身、1933年生まれの一人の男が、出稼ぎ労働者として上野駅に降り立ち、その後一度は帰郷するも再び上京、ホームレスとなった人生を描いたもの。ラストは東日本大震災を思わせる場面で終わります。

人生には過去と現在未来の分け隔てはない。誰もが、たった一人で抱えきれないほど膨大な時間を抱えて、生きて、死ぬ―

JR上野公園口 柳美里

「見えない」ことになっている人、死者、そのような人々への著者のまなざしが私たちを照らす。ストーリは要約しきれないのではぶきます。『家屋シネマ』から20年、これほどまでに思索が深まり、技量が高まったのかとすなおに驚きました。

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10.想像ラジオ いとうせいこう

2013年刊行。芥川賞候補ともなった作品です。

こんばんは。
あるいはおはよう。
もしくはこんにちは。
想像ラジオです。

こんな呼びかけで物語は始まります。

震災で亡くなった男性が想像上のラジオ放送のディスクジョッキーとして亡くなったさまざまな人たちの声を伝える物語です。

声は想像力という電波に乗って届く。

想像力豊かな人には聞こえるが大きな悲しみで想像力が心から締め出されている人には届かない。

ディスクジョッキーの冗舌なおしゃべりは語ることができない死者のことばを代弁するようにユーモアを持ちながらも心に迫ります。

彼は言います

「想像してください」
「想像しよう!」

生き残った者の声はメディアが伝えてくれます。

しかし 死者の声は聞くことができない。

文学の力は想像力によって亡くなった人を思い、「ユーモア」によって絶望を乗り越えさせてくれる。

そんなことを考えさせてくれる、心にのこる小説でした。3.11後の文学としても屈指のものだと個人的には思います。


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