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2023年8月の記事一覧

魔剣騒動 18

 首なし死体がとんでもない速度で襲いかかったのは空也でもアベルでもなく、後方で魔法陣を待機状態で構えていたアレンだった。
 「っ! 俺かよ!」
 素早く反応し、魔剣の振り下ろしを避けようと身を捻るが、一瞬間に合わない。
 凶刃がアレンに襲い掛かる、そのほんの手前でアレンの前にレイアが割り込んだ。
 「シッ!!」
 短い気合と共にレイアが振り下ろされた魔剣を迎撃するように、手に持った剣を下からすくい

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魔剣騒動 17

「 ……あれはもう助からなそうだね」
 もとより、仮に無事だったとしても助けるつもりはなかっただろうが、明らかに引き返せない雰囲気を見てアベルがそう呟いた。
 返答する者は誰もいなかったが、アベルの意見に反論する者もいなかった。
 おそらく目の前の彼の意識は既に剣に取り込まれてしまったのだろう。
 空也は視線を逸らさないままそう結論した。
 人の自意識を喰らい尽くす、ということを考えれば目の前の剣

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魔剣騒動 16

 隔壁の先は天井に点々と永久発光体が灯っていて、通路を薄暗く照らしていた。
 ここまで進めば『剣の勇者』神月空也でなくともトップクラスの冒険者である三人は剣の放つ圧力を感じ取れるようだった。
 そんな中でもアベルはいつもと変わらず楽しそうに笑みを浮かべていたが、流石に空気を茶化すようなことは無く四人の口数は自然と減り、最低限の会話をしながら通路を進んでいった。

 いくつかの隔壁(全て乱雑に破壊さ

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from white to scarlet 4

 「それでどれだけの人間が苦しむことになったと思っているんだ」
 押し殺したような言海の声は、実感を伴う多大なプレッシャーを放っていたが、しかしアメイシアは相変わらず優雅に頬杖を付いて、それから口を開いた。
 「さぁ? 興味の無い、意味のない数を数える趣味は無いもの」
 それは、あまりにも平坦に吐き出された言葉だった。
 俺には知る由もないことだが、こんな状況で、琴占言海と対面した状態でそんな言葉

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from white to scarlet 3

 「……あら、残念。もう見つかっちゃったのね」
 言海とアメイシアは睨み合うように視線を交錯させたが、数瞬ののちに驚くほどあっさりとアメイシアが身を引いた。
 アメイシアはそのまま椅子の背もたれに深く体重を預けると、わざとらしく艶めかしい動作で足を組んだ。
 対する言海は俺の方を見て短く微笑んだ後、持ったままだったメニュー表をテーブルの上に戻し、それから視線をアメイシアの方へ向けた。
 横顔から垣

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