魔剣騒動 18

 首なし死体がとんでもない速度で襲いかかったのは空也でもアベルでもなく、後方で魔法陣を待機状態で構えていたアレンだった。
 「っ! 俺かよ!」
 素早く反応し、魔剣の振り下ろしを避けようと身を捻るが、一瞬間に合わない。
 凶刃がアレンに襲い掛かる、そのほんの手前でアレンの前にレイアが割り込んだ。
 「シッ!!」
 短い気合と共にレイアが振り下ろされた魔剣を迎撃するように、手に持った剣を下からすくい上げるように斬り上げる。
 ゴッ、と金属同士のぶつかる鈍い音が響く。
 両者の刃が交わり、一瞬動きを止めるが均衡はすぐに崩れる。
 決して膂力に優れているとは言えないレイアの剣が明確に押し込まれ始める。
 だが、レイアの表情に焦りは無い。
 不意にレイアの持つ剣の刀身が薄らと光を帯び始める。
 死体の持つ魔剣がレイアの額に触れる、その寸前にレイアは短く呟いた。
 「バースト!!」
 直後、レイアの手元で魔力が破裂するように膨らんだ。
 それは刀身を押し出す強烈な推進力にすぐに変化。
 一瞬にして膂力の不利を覆し、魔剣をかち上げた。
 「アベルッ!!」
 「ほい来た」
 阿吽の呼吸というものだろう。
 その一瞬を逃さず、首なし死体の足元に小さな魔法陣が光った。
 間を置かずに起こった小規模の爆発が死体の足を簡単に破壊。
 魔剣を両手で握ったままの巨体は為す術もなく地面に倒れ込んだ。
 「悪いが手加減せんぞ」
 バランスを取れなくなった死体が落とした魔剣の刀身に狙いを定め、レイアは剣を大上段に構えた。
 レイアの剣の刀身がまた薄らと光を帯び、今度はブゥンという低音を伴った。
 「シッ!!」
 再び気合と共にレイアが剣を振り下ろした。
 振り下ろした剣は吸い込まれるように、正確に魔剣の横っ腹を打ちつける。
 ガギィ!!と激しい音が空間に鳴り響くがその音はすぐに甲高い高音に変わった。
 魔剣とレイアの剣がぶつかり、せめぎ合い、火花を散らす。

 レイア・ウルトゥスの扱う武器は全て例外なく魔導機である。
 レイアの持つ魔導機はそのほぼ全てが自ら発掘や修理、パーツを組み合わせた開発を行った代物で、七大ギルド連合公認遺物調査官というレイアの強みを遺憾無く発揮させる。
 その中でも剣は最も手に取る武器であり、レイアが複数の機構やパーツを使い組み上げた特別製魔導機の一つだ。
 剣に搭載された最も重要な機構の一つが魔力を溜める機関で、ここに溜めた魔力を使い様々なかたちで刀身を強化する。
 特に強力な機能の一つが、超高速振動による切断力の超強化。
 レイアによって組み上げられたこの超高速振動システムは物理的振動だけでなく、魔力的振動を含んだ特殊な振動を発生させる。
 生み出された振動は、先のゴーレムとの戦闘時のような特殊な加工を施された装甲でさえ容易に切り裂く斬撃を発生させる。
 
 つまりは、相手がいかに魔剣であろうとその切れ味には一切容赦がない。


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