魔剣騒動 16

 隔壁の先は天井に点々と永久発光体が灯っていて、通路を薄暗く照らしていた。
 ここまで進めば『剣の勇者』神月空也でなくともトップクラスの冒険者である三人は剣の放つ圧力を感じ取れるようだった。
 そんな中でもアベルはいつもと変わらず楽しそうに笑みを浮かべていたが、流石に空気を茶化すようなことは無く四人の口数は自然と減り、最低限の会話をしながら通路を進んでいった。

 いくつかの隔壁(全て乱雑に破壊されていた)と、いくつかの粗雑な階段を下ると――
 「おっ。到着、かな」
 広い、とにかく広い空間に出た。
 「……」
 呑気に声を出したアベルへの反応を後にして、空也は素早く周囲を確認する。
 広さは飛行機を数台収めても余裕を持てるような広さ。
 随分と高い天井にはいくつもの永久発光体が煌々と明かりを放っており、暗さに目が慣れていたせいで一瞬目が眩んだ。
 目が霞むのを無視してさらに視線を動かす。
 広い床にはいくつか大型のコンテナのようなもの、計測器の類に見える大型の魔導機、重機や先程倒したのと同じようなゴーレムの残骸があり、更には他にも何かが見えた。
 予想しつつも目の霞みが和らいだ数瞬ののちにその正体が分かった。
 まだ新しく見える死体。
 確実に自警団の連中のものだろう。
 視線を凝らす。
 首が切り離されているものや胴が断ち切られているものがいくつか見える。
 傷口が綺麗だ。
 確実に斬撃の痕だろう。

 そう結論付け、報告しようと視線を切り替える、その寸前。
 空也の、ほとんど無意識と言っていい視界の端の端に影が映った。
 ほぼ自動的に空也は手に持っていた水晶の剣で身を守った。
 ガァンッ!!
 「ッ!?」
 凄まじい音が空也の耳元で炸裂した。
 空也の剣が強襲者の剣を迎え撃った音だ。
 防御が一瞬でも間に合わなければ首が飛んでいた。
 寸前で間に合った防御だったが、そのために体勢は悪く、じりじりと剣がとんでもない力で押し込まれる。
 不利な状況、だが焦りは無い。
 空也が体勢を立て直すよりも速く魔法陣が輝いた。
 直後、爆音。
 小規模の爆発は強襲者を空也から簡単に引きはがした。
 それで終わりではない。
 一撃めの爆発を躱した強襲者を追撃するように爆音が続く。
 一発、二発、三発、と立て続けに小爆発が追い立てるが強襲者は難なく躱した。
 最後、五発目の爆発は爆発を引き起こす前にその魔法陣が断ち切られ不発に終わった。
 「おや、意外とやるねぇ」
 手元に魔法陣を光らせるアベルが口角を上げた。
 「大丈夫かい?」
 アベルの目的は牽制。
 強襲者との距離は十分に取れた。
 空也は構え直す。
 「何とか」
 アベルの後ろではレイアとアレンもそれぞれ戦闘態勢だった。

 改めて、強襲者と対峙する。
 こちらを警戒するように剣を構える強襲者は、一目見て正気ではないことがわかる。
 血走って瞳孔が開いたままの目、一体どれだけの力で剣を握りこんでいるのか常に血管が浮き出ている腕、剣を構える姿勢としてはあまりにも可笑しなほどに背中を丸めている姿勢。
 どこを見ても、既に相対する人間の中に意思というものが存在しているようには見えなかった。




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