マガジンのカバー画像

小説

277
物語です。
運営しているクリエイター

2020年9月の記事一覧

『オーケストラを観に行こう』1

 8月中旬。
 晴天に恵まれた街はヒートアイランド現象も相まって連日30度を超える気温を記録し続けている。
 この日曜日も当然の如く30度を超える炎天下で、歩いているだけでも汗が噴き出るほどだった。
 隣を歩く風島清景も堪えた様子はないものの、頻りに額を拭う動作をしている。
 私はというと、こっそりと能力を使ってその辺りを解決しているので、問題はない。
 普段ならば日常生活ではFP能力を基本的には

もっとみる

『人工勇者計画』

 かつて裏の世界は二分されていた
 最も多くの勢力をまとめていた『理事長』と呼ばれる男を筆頭にした【理事長派】と、理事長派に反発した勢力である【反理事長派】の2つ。
 裏の世界は数10年この均衡保ち、時は流れていた。
 が、ほんの数年前、理事長の『企み』に気付いた者たちが、それまで姿さえ掴ませなかった理事長を打倒した事で、裏の世界は大きな変貌を余儀なくされた。
 勢力は3つに分断された。
 未だ大

もっとみる

『キャンプ』

 夕日がすぐ近くの山々の間に落ちていくのをぼんやり眺めていた。
 昨日、一昨日とこの時間を同じように過ごしているが、飽きたとは微塵も思わなかった。
 普段の喧騒から離れた、こんな山奥でこうしてのんびりと過ごせる時間は貴重かつ贅沢極まりないものだろう。

 日が落ちれば気温は一気に下がる。
 が、それでもその風景を見つめていた。

 普段からぼんやりと風景を眺める時間が好きで、知人にはその行為を不思

もっとみる

『人工生命』

 活性化したマナの臭い。
 硝煙の臭い。
 あらゆるものが焦げた臭い。
 人間の焼けた臭い。

 戦場の痕は強烈な死の臭いがその場を支配していた。

 悲惨な戦だった。
 たくさんの味方がいともたやすく吹き飛んで、多くの生があったはずのその場に残ったのは死。
 そのはずだった。

 目の前に、小さな少女が一人。
 虚ろな目と表情で、生き残った青年を見つめていた。
 「……あなたは……だぁれ……?」

もっとみる

『落ちてきた男』

1/
 「あっちぃ~……」
 右手に持った一個65円のソーダ味アイスが溶け始めている。
 無地の白いTシャツの首元をパタパタと引っ張って風を送るが気休めにもならなかった。
 夏。
 紛れもなく夏だった。
  
 雲一つない晴天で気温は35℃を越えている。
 そんな中を木元鬼丸はあてどなく歩いていた。
 簡単に言えば、家を追い出された。
 お盆時期のために、木元宗家である鬼丸の家で分家筋の人間との会

もっとみる