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Zrcadlo

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夢からほどけた幻想詩
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#自由詩

鳥が羽ばたく

鳥が羽ばたく

鳥が羽ばたく
丸まった手の中から
ふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさ
やってきたことを思い出す

鳥が羽ばたく
閉じられた目蓋から
ふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさ
すべてだったことを知る

鳥が羽ばたく
窪んだ胸元から
ふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさふぁさ
やがて全部忘れてしまう

鳥

躰の中から鳥がはばたく
ひらりと飛んで風にのる
おなかのあたりの鳥だまりから
夜ごと一羽ずつ飛んでいく
液状の鳥が詰まった池には
まあるい月が映っている
夜になるとゆらゆら揺れて
緋色の鳥がしゅっと飛び立つ
どんどんどんどんはばたいて
やがて空っぽになるだろう
そしたら全部ひっくりかえって
アークトゥルスにかえるんだ

河童

河童

池の周りに河童が数匹
何をしているかしらないが
みなめいめいに働いている
河童の躰には贅肉がなく
その動きには迷いがない
池の向こうから男が一人
釣竿を肩にかけている
河童がすばやく男を捕らえ
池の中へ引きずり込む
男は声すら上げられない

完璧だった
一瞬だった
天晴だった
恐ろしかった

男の体は河童に喰われ
河童を作る材料になる
河童になる
河童になる

カノープス

カノープス

気づいたら川沿いの道を歩いていた
ゆったりと流れる大きな川は濁った青緑色
向こう岸には深緑の森が広がっている
誰もいない とても静かだ

ぽつんと小さな魚屋があるのを見つけた
陽はまだ高いがもう店じまいをしている
発泡スチロールの上に置かれたホタテ貝
乳白色の立派な貝柱に引き寄せられる

まだホタテ貝はありますかと尋ねた
水を撒いていた女性が無言でうなずく
六つ、七つ、いや、九つくださいとお願いす

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罪人

罪人

木で組まれた簡素な小屋で
男が最後の飯を待っている
どんな罪を犯したのか
これから死ぬことになっている
料理係は浅黒い肌の女
がっしりと豊満な体つき
いとも長閑やかな動きで
四角い膳に飯を載せる
小屋の中には骸骨が一体
過去に処刑された者らしい
男は骸骨に見つからぬよう
柱に隠れて食わねばならない
熱帯樹の枝の上では
極楽鳥が下界を見ている
骸骨が飯の匂いを嗅ぎ
かたかたぎこちなく動いている
女は

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