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嵯峨野綺譚  京都嵯峨野を舞台にした奇妙な物語集

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京都 嵯峨野を舞台に物語をいくつか書いてみました。 「観光地 嵯峨野」のイメージとはまた違った嵯峨野の貌をみていただければ幸いです。
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#超短編小説

嵯峨野綺譚~カミノキ神社~

嵯峨野綺譚~カミノキ神社~

 ついこの間までな、大きな榎(エノキ)の木ィがようけ生えとったんやけどな、台風でな、折れてしもてん。
 榎の葉っぱの影でな、祠の前に立つとな、昼間でも薄暗かったもんや。涼しいてな。
 皆、ようお参りしはった。朝晩燈明絶やさんとな。
 いまではもう、スカスカや。殺風景なもんや。木ィ、みな切ってしもた。
 昔は子供の遊び場でな。
 狭い境内をぐるぐるぐるぐる走り回っとった。
 子供減って、もう、遊ぶ子

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嵯峨野綺譚 ~古墳の樟~

嵯峨野綺譚 ~古墳の樟~

「オマエら!なんヤァ~!」
「あっちぃ!いけぇ!」
「Gyeaaaaaaaaaaaa!」
おかるは喚き続ける。
怪鳥のような叫び声をあげて。
垢にまみれて茶色がかった紅白の着物で、白髪混じりの髪を振り乱して。
「オマエら!なんヤァ~!」
「あっちぃ!いけぇ!」
「Gyeaaaaaaaaaaaa!」
おかるは喚き続ける。
食べ残した残飯を投げつけつつ、怪鳥のような叫び声をあげて。
「オマエら!なんヤ

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嵯峨野綺譚~空電の彼方~

嵯峨野綺譚~空電の彼方~

 嵯峨野に降る夕立は二方向からやってくる。丹波山地を越えて愛宕山の方からやってくる夕立と、嵐山を越えて西方、北摂の山伝いにやってくる夕立と。
 土地の古老に聞くと「そらアンタ。嵐山のむこ(向こう)からくるヤツのほうがキツイがな」

 さっきまで、その嵐山の向こうからきた猛烈な夕立が降っていた。いつもなら夕暮れ時の残光が嵯峨の野を照らす時刻に、数時間早く夜が訪れたように空が掻き曇り、生暖かい風が数陣

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嵯峨野綺譚 ~白蛇~

嵯峨野綺譚 ~白蛇~

 京都盆地の西北の端にある愛宕山は古い修験の山だ。盆地を挟んで対峙する比叡山より高く、標高は1000メートルに少し足りない。

 山頂には千数百年の歴史を持つ愛宕神社があるが、山腹にも月輪寺や空也の滝といった古跡を抱いている。

 その日いつものように表参道から愛宕神社に詣で、下りは月輪寺経由の別ルートを辿った。けっこう険しくて整備の行き届いていない未舗装の登山道を降りきって林道に出るところから、

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