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嵯峨野綺譚  京都嵯峨野を舞台にした奇妙な物語集

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京都 嵯峨野を舞台に物語をいくつか書いてみました。 「観光地 嵯峨野」のイメージとはまた違った嵯峨野の貌をみていただければ幸いです。
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#掌編小説

嵯峨野綺譚~子狐~

嵯峨野綺譚~子狐~

 夕暮れが近づいていた。
 湿った雪がほとんど横殴りに降りしきっていた。

 寒うぅ・・・。
 薄手のセーターの上に黄色いジャンパー、手袋はしていなかった。
 手の甲のあかぎれから血が滲んできたが、かじかんでしまって痛みの感覚がない。
 風が一陣吹き過ぎて、雪が舞い上がった。

 僕はあたりを見回した。
 とっくに稲刈りの終わった田圃の向こうに大沢の池を取り囲む木々が、その手前には小さな古墳が、黒

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嵯峨野綺譚~カミノキ神社~

嵯峨野綺譚~カミノキ神社~

 ついこの間までな、大きな榎(エノキ)の木ィがようけ生えとったんやけどな、台風でな、折れてしもてん。
 榎の葉っぱの影でな、祠の前に立つとな、昼間でも薄暗かったもんや。涼しいてな。
 皆、ようお参りしはった。朝晩燈明絶やさんとな。
 いまではもう、スカスカや。殺風景なもんや。木ィ、みな切ってしもた。
 昔は子供の遊び場でな。
 狭い境内をぐるぐるぐるぐる走り回っとった。
 子供減って、もう、遊ぶ子

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嵯峨野綺譚 ~白鷺の池~

嵯峨野綺譚 ~白鷺の池~

そうなんです。昔、ここは釣り堀だったんです。私の両親が経営していました。何十年も前のことです。
昭和の時代ならどこにでもある釣り堀でした。嵯峨にも、ここ以外に二ヶ所ありました。今では広沢の池の近くに一つ残っているだけです。
 ほら、そこの空き地のところ。そこに建屋があったんです。簡単な食堂があって、釣り道具を貸したり、餌を売ったりしてました。横には駐車場があってね。5-6台くらいは停められまし

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