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家庭とオフィスの中間に位置する環境配慮型複合施設、La REcyclerieのミッションとは?Sinny&Ooko Marion Bocahutさん

La REcyclerie(ラ・ルスクルリー)は、サステナビリティとエコロジーに特化した複合施設です。今回は、この施設の立ち上げ時から運営に携わっているSinny&Ooko(シニーアンドオーコ)社のMarion Bocahut(マリオン・ボカウ)さんに、La REcyclerieのミッションや主な活動、課題などについてお話を伺います。


エコロジーや環境問題を楽しくポジティブに捉えるために

―まずLa REcyclerieの概要を教えてください。

La REcyclerieはパリの北部にあります。廃止された鉄道の古い駅を改装し、2014年夏にサステナビリティとエコロジーに特化したサードプレイスとして開業しました。サードプレイスとは、家でもオフィスでもない、その中間に位置する場所のことです。そこでは人々が出会い、交流し、さまざまな出来事が起こります。

La REcyclerieのミッションは、一般の人々や組織、公的機関の環境問題に対する意識を高めることです。すべての人々が自然環境について考える場所で、ポジティブで楽しい方法によって、さまざまなソリューションを提供したいと考えています。

特に「ポジティブに」という点は非常に重要です。エコロジーや環境問題は重いテーマとして捉えられがちですし、退屈で古いトピックというイメージを持たれがちでした。とにかく私たちは前向きな方法でこうしたトピックについて話したいと考えました。そして、起きている事実を説明するだけでなく、具体的な解決策があることを示したかったのです。

©AdrienRoux

―La REcyclerieで展開している具体的な活動についてお聞かせください。

La REcyclerieではいくつかの特徴的な活動を行っています。

まず、修理コーナー。ここではトースターやコーヒーマシンなどの道具や機械をプロのスタッフやボランティアの方々に修理してもらうことができます。修理方法を教えてもらうことも可能です。すぐに製品を捨てて買い替えるのではなく修理することは、La REcyclerieの重要な活動のひとつです。

都市農園も、重要な活動です。La REcyclerieの屋外エリアには廃棄された鉄道の線路があるのですが、線路脇の緑地を農園として活用しています。その緑地は、横幅 約4m、全長約200mの細長い形状で、養蜂や養鶏、野菜や果物、植物の栽培などを行っています。この都市農園の活動によって、都市における自然の重要性と可能性を提案しています。野菜の栽培方法などをテーマにしたワークショップも開催しています。

また、年間200以上のイベントやカンファレンスを開催しています。たとえばクリスマスシーズンには、環境に配慮したギフトを取り扱うクリスマスマーケットを開催します。期間中は、交流会やワークショップなども行います。ショッピングやパーティをすることの多いクリスマスシーズンは、生活様式や消費行動などを考え直すのに最適な時期だと考えています。また最近では、著名な社会活動家であるヴァンダナ・シヴァ氏の最新の著書を発表するイベントも開催しました。

こうした環境や文化について考えるきっかけとなるイベントの開催も、私たちの重要な活動です。

修理コーナー、都市農園、イベントの3つを、私たちは「教育プログラム」と呼んでいます。これらの事業は正直なところ、収益性はほとんどありません。レストランやバー、カフェ、施設内スペースの貸し出しといった収益性の高い他の事業とバランスを取る必要があります。

©AdrienRoux
©AdrienRoux

場所や建物の物語を受け継いで新たなものを創造する

―プロジェクトの立ち上げはどのようなプロセスで行ったのでしょうか?

プロジェクト開始時にまず確認したのは「この地域に何があるのか」ということでした。地域にどんな企業や団体があるのか、どんな人たちが働いたり暮らしたりしているのか、どんなニーズがあるのか、人々のニーズに対応するサービスを提供できるのかといった点です。

こうした点を明らかにするために、エコシステムリサーチを行いました。まず地域のエコシステムを理解し、その上でいくつかのツールを使って、ビジネスモデルや予算を策定しました。

リサーチと並行して、開業前の改装工事中、完成した施設の一部を地域の人々に見てもらうという試みも実施しました。段階的に施設の内部を知ってもらう機会を設けたことで、地域の人々との対話のきっかけを作ることができました。

開業までには政府や自治体との交渉も必要でしたが、私たちのプロジェクトは行政の方針に沿ったものだったので、特に問題はありませんでした。

―周辺住民の方々との関係構築はどのような方法で行ったのでしょうか?

私たちはこのプロジェクトを、地域の人々といっしょに作りたいと考えました。既存のものを無くすのではなく、場所や建物の物語を受け継ぎ、地域の歴史的背景も活用して新たなものを作ることが、このプロジェクトの重要なテーマのひとつでした。

地域の会社や公的機関、学校などとの良好な関係を築くことも重視しています。学校と連携した見学会やワークショップを通して、地域の人々が活動に参加する機会を設けています。

地元の人々の中には、自分たちは歓迎されない、関係ないと考える人もいますので、この場所が地域の多様な人々を歓迎していることを理解してもらう必要がありました。実際に地域を訪れてお話をすることもあります。学校の生徒や先生が施設を訪問する機会も数多く設けました。生徒だけでなく、同伴する保護者の方々にも施設の魅力を伝えることができるからです。

©AdrienRoux

プロジェクトをゼロから構築する作業の魅力と難しさ

―MarionさんはLa REcyclerieとどのように関わり始めたのでしょうか?

私は12年前の立ち上げ時から、このプロジェクトに携わっていますが、施設運営に直接関わっていたのは、そのうちの6年間です。私が入社した当初のプロジェクトで、担当する機会を与えられたのですが、非常にユニークなプロジェクトだと思いました。何もなかった場所にゼロからプロジェクトを構築する活動は魅力的でしたし、同時に新しいことばかりで不安も感じました。

何もないところから何かを作り上げる仕事は、困難ではあるものの自由でもあります。エコロジーや環境問題がテーマだったので、私にとっては、興味深さと難しさのバランスが理想的だったのです。それが、長期にわたってこのプロジェクトに携わることができている理由だと思います。

―現在、La REcyclerie以外にはどのような事業を担当されていますか?

現在は、環境文化に関するプロジェクトがどんな影響を与えているのかという観点から、経営陣に近い立場でLa REcyclerieだけでなく、Sinny&Ookoグループのすべてのサードプレイスの事業に関わっています。

Sinny&Ookoでは、現在フランス国内で5つのサードプレイスを運営しています。パリとその周辺に4か所、 北部のノルマンディーに1か所です。

また、6年前にサードプレイス経営の知識を学ぶ学校を開設しました。

サードプレイスは、エコロジーや環境問題を語る上で素晴らしいツールのひとつです。私たちは、フランスにある36,000の市町村それぞれにサードプレイスが必要だと考えています。多くの人々にサードプレイスの運営方法を学んでもらい、運営に役立つソリューションやツールを提供することが、この学校の役割です。

多くの人々や組織と連携して、変革を促進し続ける

―La REcyclerieの経営面での取り組みとしてはどのようなことを行っていますか?

La REcyclerieは2024年に10周年を迎えます。ミッションは不変ですが、事業や取り組みを見直す良いタイミングだと考えています。

La REcyclerieとSinny&Ookoグループに共通する課題は、財政を維持する必要があることです。財政面の改善に取り組みながら、インパクトのあるプロジェクトを継続していきたいと考えています。変革を起こし続けることは、私たちの重要なミッションです。社会変容を促進するためには、より大きな影響を与え続けなければなりません。

社会や環境にポジティブな変革を起こすという目的の達成には、より多くの組織との連携が必要です。私たちは環境を考慮しながら、人々の生活をより良くするための取り組みを中心に進めてきましたが、今後は組織に対してさらにオープンでありたいと考えています。

現在、平日の月曜日から木曜日までは外部団体に施設を開放し、企業や団体のミーティングやワークショップなどに活用してもらっています。そうした組織の活動をサポートするカンファレンスやワークショップ、トレーニングなども行っています。

環境問題は社会の仕組みや構造と深く関わりがあるので、個々の市民だけでなく、大きな団体や企業とも協力して取り組む必要があります。

©️Didier-Echelard

―この10年間で消費者や組織に起こった変化についてはどう考えていますか?

確かに多くの企業がエコロジーや環境問題といったトピックを取り上げるようになっています。

私たちにはこれまで積み重ねてきた経験があり、過去の実績から信頼を得ていると自負しています。私たちはパイオニアであり、今もその取り組みを継続しています。私たちはプロとして活動し、その取り組みを多くの人々と共有してきました。この10年間、La REcyclerieを訪れる人々に影響やインスピレーションを与え続けてきたことが、信頼に繋がっているのだと思います。

現在では、環境や社会で起きていることについて「わからない、知らない」とは誰も言えない状況となっています。人々は具体的な情報や解決策を求めており、個人レベルや政治レベルで何ができるのかを知りたいのです。

フランスでは、企業や団体が遵守すべき環境配慮に関するルールや基準が早いタイミングで作られてきました。たとえば、レストランは食事を残した客に必ずテイクアウト用の容器を提供することが義務付けられています。2024年中には有機廃棄物の捨て方に関する新たなルールも導入される予定です。

La REcyclerieではそうしたルールに先駆けてさまざまな取り組みを実践してきました。しかし重要なのは、La REcyclerieでの活動は別に新しいものではなく、昔から実践されてきたものだということです。私たちの祖父母は、いろいろなものを修理し、堆肥を作り、季節に応じた地元の食材を食べていました。それが自然なことだったわけです。

©AdrienRoux

―最後になりますが、Marionさんにとってのサーキュラーエコノミーとは?

私にとってのサーキュラーエコノミーとは、グローバルなアプローチです。私たちは生産や消費、暮らしなどに関するすべての方法を考え直す必要があります。今ある資源を繰り返し活用する方法を検討しなければなりません。

サーキュラーエコノミーとは、すべてに終わりがなく、再利用を繰り返して循環させていくことだと考えています。それは資源だけでなく、人々も同じではないでしょうか。

私がサーキュラーエコノミーはグローバルなアプローチだと思うのは、私たちは社会でともに暮らしていて1人ではないことを、生き方として意識する必要があると考えているからです。私たちは他の人々と資源を共有し、活用していくことができるはずです。

―興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

10周年を迎えたLa REcyclerieでMarionさんたちが展開する、今後のユニークな取り組みに期待したいと思います。

Sinny&OokoおよびLa REcyclerieの詳細は、以下のページをご覧ください。

https://www.sinnyooko.com/

https://www.larecyclerie.com/

取材:三塩佑子
執筆:Yasuhiro Yamazaki


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