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月記(2023.03)

3月のはなし。

〔写真:OLYMPUS XA2 & Kodak GOLD200〕



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うお座、ならびにおひつじ座の女たちに多大な影響を受けている。


「ハーモニー」と「虐殺器官」を一気に再読した。「虐殺器官」の血なまぐささより、「ハーモニー」の真綿で首を絞められていくような空気感のほうが、僕の肌には合っているのだと思う。その実どちらにも共通する成分が含まれてはいるのだけど、やはり優しいテクスチャのほうが即効性がある。
再読は再確認ではない。今回「ハーモニー」を読んで気になったのは、登場人物それぞれがもつ『間抜けさ』だった。作品を通じて用いられている「etmlタグ」という仕組みは、そのタグの外側を生み出す。再読を経て、ようやく準備された行間にたどり着けたのだと思う。


siraphのワンマンライブを見に行った。表参道WALL&WALLの音響は信頼していたけど、信頼以上のものが飛んできた。「風琴と朝」、「immaterial」が特筆して素晴らしかった。


音楽好きです、みたいな感じを出そうとしているけど、僕が知らない音楽なんて無限にあるわけで。いつまでも知らないものを用意してくれているからこそ、好きでいられるということなのかもしれないけど。そのくせ、分かった気にさせてくれるところもいいのかもしれない。罪なやつすぎるだろ。


クロスノエシス・LAKEさんの生誕ライブを見に行った。僕が知らない音楽は無限にある。最初の曲は僕の知らない音楽だった。それでも、すこししたら「人魚姫のような存在が主人公なのか?」と想像はできた。そのくらいは音楽を聴いてきた、ということなのかもしれない。知っている人が歌う知らない音楽を聴きながら、知らない人が歌う知らない音楽を聴きながら、知っている人が歌う知っている音楽を聴きながら、ずっと泣いていた。音楽っていいなぁ。表層的には違う音楽を聴いてきたとしても、そこで得た感情のうちのどれかひとつくらいなら、長い人生のなかで交わることがあるだろう。そうした交点に立ち会えたことには、幸せと名付けるべきものがあると思っている。


和田輪先生によるVRアバター時代の身体論の講義を受けてきた。「自分の魂にピッタリ合う形の身体で産まれてくる人って、ほぼゼロだと思うんですよね」という言葉は、自分がインタビュアーなら見出しに採用したくなるくらい綺麗な説明だと思えた。そういえばシマエナガのアバターに入ったとき妙な落ち着きを感じた記憶があるが、僕の魂はいよいよ鳥の形をしてきているのかもしれない。


イケシブxRAYコラボイベント。渋谷のイケベ楽器、特にグランディベースにはお世話になってきたので、ありがたいコラボだった。
トークイベント後に行われた試奏会では、登壇者本人が横で解説をしながらエフェクターを触って演奏ができた。空間系が多く配置された管さんのボードを触りながら、音色的に似合うだろうと手癖の「KIMOCHI」を弾いてみたら、すかさず管さんが「貴様にぃ~」と歌ってくれたのがめちゃくちゃ楽しかった。思い返してみたら、長らく宅録で一人黙々と演奏するばかりだったので、誰かが一緒にいる状況でなんとなく音を出して遊ぶ、そういう楽しさを久しく味わっていなかった。心の大事な部分が動き直した気がした。
沖井さんのボードも触ることができた。音を出した途端、沖井さんが「パワーヒッターですね」と言ってくれたのが印象的だった。その人らしい音というのは機材やセッティングだけではなく、その人の弾き方という要素を含めて成立するものだ。沖井さんに最適化された機材に触れるほど、その出音が僕の癖を逆説的に表現してしまう。演奏という行為は結局のところアナログな身体的行為であり、音楽に身体的に関わることができるひとつの経路なのだ。僕が楽器を好む理由の一端は、こうした部分にある。


青木裕というギタリストがいたこと。


SHIBUYA SKYのド真ん中に立ったとき、東京という街があまりにも小さく思えて、逆説的な可愛げみたいなものを感じ取った。「東京ってすごいねー!」とはしゃぐ声が聞こえた。あなたが眺めている高いビルの陰には、僕が育った町があるんですよ。それを言ったところで何にもならない。それにもう、僕が知っている景色はそこには無い。『東京』に対する偏屈な愛着をうまく表現するには、まだ僕の身体は貧弱すぎる。2019年ごろ、僕は旅することの楽しさを知った。旅から帰ってきたときの、東京の淀んだ空気を吸い込むときの、あの奇妙な感覚を知った。この数年でずいぶんと鈍ってしまったが、旅に向かうための身体をもう一度取り戻したいと思う。


甲斐莉乃さんの生誕ライブを見に行った。「花が咲いてるってすごくないですか!?」という気づきに対しては、ひとまず「ステージに登って歌って踊るってすごくないですか!?」という返事を書いておきたい。


花見に行った。写真を撮った。工事中の母校を眺めた。




●今月あたらしく知った音楽



●今月なつかしんだ音楽