「戦争で北方領土を取り戻す」発言の問題点

維新の丸山議員が酒に酔った勢いで「戦争しないと北方領土を取り返せない」云々といった発言をしたとのことで、昨日から散々に報道されていて非難囂々ですから、これ以上あえて言うことも無い気がしますが、なぜ駄目かということを簡潔に自分のためでもあるまとめをしてみます。

まず、日本国憲法では、

http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

何かと話題にされる第9条において上記のように規定されています。
「国際紛争を解決する手段として」の戦争は放棄すると明言しています。

現在の北方領土は日ロ両方が自国の領土だとしていて、実効支配はロシア側ですから帰属を巡って日本側の見解としては問題があると見なしていることになります(当然ながらロシア側は何の問題も無いとしています)。そのため、日本は北方領土問題を解決するために外交交渉を通じて探り続けていて、武力行使による解決は一度も言及したことはありません。当たり前ですが憲法で禁止されているからです。第9条があっても、自衛隊の存在及び自衛権自体は認められる、という憲法解釈が行われていますが、現在の北方領土に住む日本人を保護する(=自衛権の行使)として武力で北方4島を奪還することは無理のある話です。今の北方領土には日本国籍の人はいません。

わざわざ書くのもアホらしいことではありますが、維新の丸山議員が酒に酔って発言した「戦争しないと島を取り返せない」という内容は日本政府としては全く認められないものです。

第二に、第二次世界大戦に発足した国際連合が定める国連憲章においても、戦争は認められていません。
第33条にはこうあります。

https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/
第6章 紛争の平和的解決
第33条
いかなる紛争でも継続が国際の平和及び安全の維持を危うくする虞のあるものについては、その当事者は、まず第一に、交渉、審査、仲介、調停、仲裁裁判、司法的解決、地域的機関又は地域的取極の利用その他当事者が選ぶ平和的手段による解決を求めなければならない。
安全保障理事会は、必要と認めるときは、当事者に対して、その紛争を前記の手段によって解決するように要請する。

アメリカやロシアなどがやっていることはどうなのだ、という批判はあるでしょうが、国連憲章上は紛争は平和的手段によって解決を求められています。

そして、ちょくちょく指摘される敵国条項についてですが、これは53条と107条に出てきます。

第53条
安全保障理事会は、その権威の下における強制行動のために、適当な場合には、前記の地域的取極または地域的機関を利用する。但し、いかなる強制行動も、安全保障理事会の許可がなければ、地域的取極に基いて又は地域的機関によってとられてはならない。もっとも、本条2に定める敵国のいずれかに対する措置で、第107条に従って規定されるもの又はこの敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする。
本条1で用いる敵国という語は、第二次世界戦争中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国に適用される。
第107条
この憲章のいかなる規定も、第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

この敵国は「国際連合」=「United Nations」=「連合国」の敵国ですので、「枢軸国」=「ドイツ、イタリア、日本」が当てはまります。すなわち、この敵国条項によって、日本が北方領土問題を武力行使で解決しようとした場合、ロシアはそれに対して軍事的制裁を取って良いよ、と国連憲章で認められていることになります。

そして最後に現実問題として、まずそもそも日本が武力で北方領土を取り戻せるのかどうか、ということです。
尖閣諸島を中国の脅威から守るために、一旦奪われた島を取り戻す訓練は行われているはずですが、無人島である尖閣諸島とロシア人が普通に住んでいる北方四島では奪還プロセスが全く異なります。しかも日本人ではなくロシア人が住んでいるのですから、住民からの抵抗もあるはずです。

また、武力で領土を削られたロシアが核兵器を使用しないという保証はどこにもありません。そもそもロシア相手に日本が単独で戦うということが現実的ではありません。日米同盟があるといっても防衛戦争ではなく、現状の実効支配による国境線の変更に米軍が協力してくれるとは思えませんし、アメリカ合衆国は歴史的に核兵器を持った軍隊と直接戦闘は行ったことはありません。戦略核であろうと戦術核であろうと核の脅威がある戦争はアメリカは行いません。

日本国内の憲法的にも、国連憲章上においても、また現実問題としても、丸山議員の「戦争で島を取り返す」発言は完全に間違っているものです。個人的には謝罪や発言の撤回で済む問題ではないと思います。言論の自由は憲法で認められているとはいっても、国会議員が発言していいレベルの話ではないでしょう。与党議員や政府内で役職を持っているレベルの議員でなかったことだけが幸いとしか言えません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?