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人事データ活用ガイドライン

人事データの活用はどうあるべきか

#COMEMO #NIKKEI

 この日経新聞記事の流れに沿って、人事データの活用はどうあるべきか、について私見をまとめてみる。また、HRテクノロジー・コンソーシアムが策定している「人事データ活用ガイドライン」についても紹介する。

4月、日本金属製造情報通信労働組合の日本IBM支部は「AIが人事評価や賃金の決定に関わることに対する情報開示が不十分」として東京都労働委員会に救済を申し立てた。人事AIの問題点を公の場で問うのは国内で初めてとみられる。
「AIはブラックボックスになりがちだ。ただ信頼しろというのはおかしい」と杉野憲作書記長は主張する。日本IBMは2019年9月、賃金決定の参考にするとしてAIを導入した。労組側はAIが示した結果を、評価された従業員にも見せるように求めている。

 「情報開示が不十分」というのは非常にまずかった。
 ただ、「AIは(ブラックボックスだから)信頼できない。」という点については、「では、人間の頭の中(で考えていること)はブラックボックスではないのか?」と逆に問いたい。
 さらに、AIの判断を「賃金決定の参考にする」だけなのであれば、AIが示した結果を従業員にも見せる義務というのはないのではないか。結局は人間(評価者)の判断が入っていてそのための参考資料として使っているだけなのであり、これが許されるのであれば、「最終的な評価に至るまでの、参考としたデータや資料を開示せよ。」と要望された場合には必ず応じなければならない、ということと同じである。
 ただし、

リクナビ問題を受け3月に国会に提出された個人情報保護法の改正案では、「どんなデータをどう解析したのか」という処理の過程にも説明義務があると明記された。

という動きもあることから、データ解析プロセスについて問われたらいつでも説明できるようにしておく必要がありそうである。

この事例がさらに人事関係者の注目を集めた理由がある。日本IBMはAI「ワトソン」による人事サービスを提供しており、大企業向けでは「国内最大手」を自任しているからだ。

 私は、2016年2月から2018年9月まで、IBM Watson Talentの日本展開を担当していた。

 その経験から、
・AIが人事領域で活用されることのメリット
・人事領域におけるAIの使いどころ
に関しては我が国で最も熟知していると自負している。
 ちなみに、その知見についてはこちらの書籍の私の担当PARTにまとめている。

 あるいは、AIのメリット、使いどころというよりはHRテクノロジー活用のメリット、使いどころという観点ではあるが、さらに手軽にキャッチアップして頂くためにはこちらの記事も参照して頂きたい。

海外でも人事AIへの疑義が目立つ。米国では19年11月、動画面接システムを提供するハイアービュー(ユタ州)のAIがマイノリティーに不利だとして、連邦取引委員会に調査要請が出された。このサービスは日本を含め世界700社以上で導入されている。
言葉遣いから論理性や知性を、話す速さや表情から業務への適性などを判断する。各企業で活躍している人の特徴を読み込ませ、マッチングの度合いをランク付けする。問題とされたのは、このAIが白人男性などを優遇した疑いがある点だ。

 こういったことは、もちろん事実としてはあったのだろうが、注目すべきは次のような「メリット」や「可能性」であるはずだ。

・言葉遣いから論理性や知性を(客観的に)判断できる。
・話す速さや表情から業務への適性などを(客観的に)判断できる。
・各企業で活躍している人の特徴を読み込ませ(つまり、信頼できるベンチマークデータを活用)、マッチングの度合いをランク付けする。

 「AIが白人男性などを優遇した疑い」という点にばかりフォーカスされがちであるが、その事実が判明したのであれば今度はそうならないように「学習データ」に見直しをかければ良いのだ。それよりもむしろ、人間の勘と経験のみに頼る手法によるバイアスのかかり方のほうがより一層根が深く、「学習しなおす」ということも困難ではないか。

慶応義塾大学の山本龍彦教授は人事AIの活用について「上司がAIの結果を批判なくそのまま使うと問題になる可能性もある」と指摘する。

というのはその通りだ。人事データの活用指針として「最後は人間の判断を介在させる」というのは絶対的な大原則であり、この原則だけでも守っていればほとんどの問題はどうにかなるといっても過言ではない。

調査会社のシード・プランニング(東京・文京)によると、国内の人事関連システムの市場は19年に1199億円で前年比で3割増えた。

 こちらの調査には、私も関与している。

 今現在は「採用・配置」領域の市場規模が突出しているが、今後間違いなく倍速で伸びていくと予想されるのは「人材開発・組織開発」の領域である。そしてこの領域についてはよりセンシティブなデータが「パーソナライズされた従業員体験」の提供のために使用されるケースも増えると思われ、ますますデータ活用指針の重要性が増すという観点でも大注目の領域である。

市場の急拡大とともに問題も噴き出し始めた。米アマゾン・ドット・コムは採用でAIを導入したが、技術職で女性に不利な判定をしたとして18年に使用をやめた。日本では19年に就職情報サイト「リクナビ」が、閲覧履歴を基にした就活生の「内定辞退率」を本人に無断で企業に販売し、行政処分を受けている。

 米アマゾンのケースは前述の「白人男性優遇」のケースとある意味似ており、「技術職で女性に不利な判定をした」という事実が判明したのであれば今度はそうならないように「学習データ」に見直しをかければよい。「使用をやめる」という判断は時期尚早ではないか。

 いわゆる「リクナビ問題」から得るべき教訓というのは、とにかく、データの原所有者である本人の意表をつくような使い方は「無し」だ、ということである。

日本IBMやNECなどは、分析の過程や根拠をチェックできる「ホワイトボックスAI」の開発にも力を入れている。人事の分野でAIの活用は利点も多く、透明性を高める議論が急務だ。

人事データ活用ガイドライン 策定プロジェクトについて

 このような流れの中、次のような取り組みが注目を集めている。

 非常に多くの有識者、実務家の方々のご支援を頂きながら、私もこの取り組みに参画している。
 全般的に、現場の意見や実務に基づいた実用的な内容になっているのが特徴である。

「採用」「人材配置」の全体ガイドラインリリース

 特に2020年5月29日に「全体ガイドライン」が先行リリースされた2つの領域については、それぞれ次のような特徴がある。
 採用領域については、製品導入コンサルタントの観点、そしてユーザー(主に人事)の製品活用の観点から実務に即した内容になっている。
 人材配置の領域については、ソリューションベンダーの製品開発の観点に加え、労働組合(または従業員代表)と共にどのように推進していくか、また詳細の説明指針をどこまで網羅するか、といった企業で実践可能な内容も盛り込まれている。

「採用」領域の個別ガイドラインリリース

 2020年7月6日には、「個別ガイドライン」の第一弾がリリースされた。
 今回のガイドラインでは、採用領域の現場の意見や実務に基づいた実用的な内容になっているのが特徴である。例えば、

・不合格理由をどの程度まで詳細にフィードバックすべきか
・求職者の情報を収集するにあたり、「適法かつ公正な手段」といえるためにはどのような条件を満たせばよいのか

といった、具体的かつ実践的な内容も盛り込まれている。

 そして今回は特別に、ガイドラインの一部を無料で一般公開している。
(上記サイトからダウンロード可能)

【イメージ】

採用ガイドラインサンプル

今後のリリース予定

※当初予定よりも約2週間~1ヵ月ずつずれ込んでおり、ご迷惑をお掛けしております。
①「人材配置」領域における個別論点毎のガイドラインのリリース
(7月末にかけて順次)
②「組織・人材開発」「安全配慮・退職」の各領域に関する「全体ガイドライン」のリリース
(7月末)
③「組織・人材開発」領域における個別論点毎のガイドラインのリリース
(8月末にかけて順次)
④「安全配慮・退職」領域における個別論点毎のガイドラインのリリース
(9月末にかけて順次)

(※進捗があるたびにこちらに最新情報を掲載予定。)

(参考)これまでの「歩み」

①2019年9月 HRテクノロジー・コンソーシアムにて、「HRリーダーのための個人情報保護・労働法基礎講座」を企画、受講者募集
②2019年10月 「HRリーダーのための個人情報保護・労働法基礎講座」開講

③2019年10月-12月 「人事データ活用ガイドライン策定プロジェクト」発足、メンバー募集(※)
(※)
このとき、業界全体の知見を集めて議論すべく広範にお声がけを行った(とある「協会」関係者も含む)。
しかしながら、とある「協会」関係者(数名)から「立場上協力できない」との返答があった。
にも関わらずこのうちの1名は、今回の「人事データ活用ガイドライン」のリリースに際して「なぜ法人会員限定の公開なのだ?議論が必要な情報をオープンにできない組織はダメだ」との批判を行った。(←個人的に、ここは絶対に許せないww)

④2020年1月28日【アドバイザー 板倉弁護士によるセミナー】(無料公開セミナー)を実施。この場でも、幅広く「追加メンバー」を募集した。
⑤2020年1月-4月 「人事データ活用ガイドライン策定プロジェクト」のワークショップ(草案策定作業)を計4回実施
⑥2020年5月 アドバイザー板倉弁護士の監修のもと、「全体ガイドライン」の最終化作業を実施
⑦2020年5月29日 「採用」「人材配置」の各領域に関する「全体ガイドライン」を発表(※)
⑧2020年7月6日 「採用」領域にかんする「個別ガイドライン」を発表

(※)「法人会員限定」の公開ということについて様々なご意見があるようですが、次のようなポイントも考慮頂ければ幸いです。

・全体の内容がある程度出そろった時点で、「無料公開 解説セミナー」を実施予定です。この場で多くの方々に内容の一部について触れて頂けると思います。
・上記経緯のとおり、これまでも「参画」「賛同」頂くことによりこの取り組みに主体的に関わって頂くチャンスは広くあったはずです。
・今後も、「法人会員」は常に募集しており、会員になって頂くことで賛同の意思を示して頂ければ、「ガイドライン」の内容はすぐにご提供できます。

 まだまだ内容的にもセンシティブな部分もありブラッシュアップの必要もあるため、少なくともこの段階では「賛同も出来ないし主体的に関わる気もないが内容だけは見てみたい」という方々に対して全内容をお届けするのは難しい状況です。


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